90話 魔術本
何度目の朝だろうか。こっちに来てからは不思議と寝起きが良かった。
外に出る。思ってたより日が高い。
やはり少し疲れていたみたいだ。こういうのは積もり積もって自分の身を滅ぼす。
俺はそれを身を持って知っている。
「勝手に外に出ないでよ」
突然、後ろから声が聞こえる。
「メイ、おはよ」
「ふぁーあ、おはよ」
挨拶を交わす。
「前あったことを忘れたの?」
恐らくあの魔獣の群れに襲われた時のことを言っているのだろうと推測する。
「ごめんごめん」
「まあいいわ、もうちょっとここでゆっくりしていきましょ」
メイはそう言うとその場に腰を下ろして、徐に懐から本を取り出した。
「それは?」
「これ? 魔術の本。いろいろ興味深いことが書いてあるの」
「ちょっと見てみても?」
「いいわよ」
俺はその分厚い本を受け取る。
ずっしりと重いその本の適当なページを開くと、まるで辞書のように細かな字で色々書き綴られていた。
「魔術の歴史か。言っちゃ悪いがこんなの見て意味があるのか?」
俺は昔から歴史の勉強は嫌いだった。
「意味があるのかと言われたら難しいけど、結構いろいろな発見があるものよ。そこに書いてあるのは歴史だけじゃないしね」
そう言ってメイは俺が持っている本に手を伸ばし、本の最後の方を開いた。
「いろんな魔術がまとめられているの。魔術なんて世に出てないものも多々あるからそれがすべてってわけではないけど、私はこの本が一番詳しく書いていると思っているの」
確かにそこには、魔術名、唱え方、効果、用途など事細かく記されていた。作った人とかも書かれている。
「へぇ、いろいろあるんだな。悪いな、読書の邪魔をして」
「別に邪魔とは思ってないし気にしなくていいわよ」
メイにその本を返す。
メイは受け取ると、それを静かに読み始めた。
聞こえるのは風が木を揺らす音だけ。
こんなに落ち着くことが出来ているのはいつぶりだろうか。
もう少しだけ、この場所にいたかった。
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