88話 リーダーみたいなもの
森の中から覗く二つの『目』。
目が合う。
刹那、体の中を恐怖が侵食する。
覚えている、あれは近づいてはいけないものだと。
身体が動かない、いや、恐怖で凍っている。
「『バーリャ』」
途端、恐怖から解放される。
「っはぁ、はぁ」
肩で息をする。体中から汗が染み出ている。
「イツキ、大丈夫?」
メイが心配そうに尋ねる。
「ああ、なんとか、ありがとう」
「ならいいわ、今はそれよりも」
メイは二つの『目』があった方を見た。
木の陰から人が出てくる。
いろんなところから四人。男が三人、女が一人だ。
「こんなところで何してるの?」
ハルが問いかける。
その時、一人の女がハルの方を見る。
あの『目』だ。
それがハルの方を見据える。
しかし、ハルに変わった様子はない。
静かにそれを見つめ返していた。
すると、女は『目』を閉じた。
そして目を開けた時、さっきのような雰囲気は無くなっていた。
「……チッ」
小さな舌打ちが聞こえる。
しかし、相手の表情に苛立ちはなく、むしろ少しだけ笑っているようだった。
「いやー、すまないすまない」
そんな状況の中、一人の男が俺たちの方に出てくる。
「僕がこのグループのリーダーみたいなものだ。よろしく!」
にこやかにそう告げるが、この空気は変わらない。
「……空気ぐらい読めよ」
さっきの女が不機嫌そうに言う。
「まあまあそんなにピリピリしないで。それで、君たちは何の御用かな」
リーダーと名乗った男が俺たちに問いかける。
「まだ『核』を作る気?」
ハルが言う。
リーダーの目付きが鋭くなる。先ほどまでの媚びるような演技は一瞬でどこかに行った。
「……一旦下がろうか」
少しの沈黙の後、リーダーは言葉を発する。
他の三人に向けてだろう。
「それでいいんですか?」
一人の男が聞き返す。
「ああ、多分これ以上は無駄だろう。出直しだ。今回はきっと運が悪かった」
何かを話している。話している内容までは聞き取れない。
やがて、リーダーは俺たちに向かって言うように声を張り上げた。
「悪かったな! 俺たちの負けだ! お互い何かするのはやめよう! それでいいか?」
いや、よくはないのだが。
俺たちは大分疲弊しているし、その提案を飲むことでいい気がしていた。
「どうする? あっちの提案を飲むの?」
「その方がいいだろ。俺たちはそろそろ休むべきだ。あいつらが下がるというなら無理に追わない方がいい」
「私もイツキと同意見」
「そう、ならそれでいきましょ」
俺は声を出す。向こうにいる四人組に聞こえるように。
「それでいい! だからさっさと立ち去ってくれ!」
リーダーはその返事が聞けて満足なのか、三人を引き連れて森の中へと消えていった。
女だけは不服そうだったが、それでも渋々あいつについていった。
「あいつらが攻撃してこないなんて保証はどこにもないけど」
「私がちょっと見てみるわ。『マピミク』」
光が広がる。
便利な魔術だなそれ。
「……いないわね。ほんとにどこかに行ったみたい」
「そうか」
脅威は去ったということでいいんだろうか。
疲弊しているから今日はもう休みたかったので都合がよかったが、何か腑に落ちない。
「どうしたの?」
ハルが俺に尋ねる。
「ああ、いや、何でもない」
「心配そうね」
ハルは俺の心を読んだかのようにさらりと言う。
「メイがああ言ってるんだし大丈夫でしょ。まあ結界は壊されたんだけどね」
「それについてはごめんなさい。次からはもっと強く張っておくわ」
メイが申し訳なさそうに言う。
「ちょっと移動して今日は休みましょ」
メイが移動するのに続いて俺たちも移動する。
気づけば、空はオレンジ色を帯びていた。
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