83話 耐久
一瞬何が起こったかわからなかった。
安全だと信じ込んでいた場所が破壊されたことを。
そもそも何をもって確信していたのかさえ分からないが。
割れた結界から見えるのは汚らわしい姿で二足歩行している魔物の大群だった。
緑がかった毛を全身から生やし、それは異臭を放つ。図体も俺の二倍ほどある。
確かにイメージしていたトロールっぽいと俺は感じた。
「オォォォォォォォン!」
低く重い音が森の中に響き渡る。
内臓を揺さぶってくるようなその音に俺は思わず怯む。
しかし、他の二人は違った。
瞬きするほどの一瞬で、周りにいたトロールの喉は一筋の線が入り、そこから光の粒を漏らしながら倒れていった。
「『エクスパー』」
次の瞬間、俺たちのいる周囲が爆発した。
熱風が流れ込んでくる。
「ぼーっとしてないでイツキも」
「あ、ああ、すまん」
ハルに声をかけられて俺も動き出す。
爆破された箇所には黒煙が上がっている。そこから新しいトロールがどんどん現れる。
「メイ、核の場所を調べて。イツキは私と、メイが核の場所を調べ終わるまで耐えきるよ」
「わかった。メイも頼んだ」
「ええ、まかせて」
そうして、無数に湧き続けるトロールたちとの持久戦が始まった。
終わりの見えない状況。
俺はこれを知っている。
しかし、前と違って確実に押されている。
全方位を見なければならず、体力と神経がすり減っていく。
一つのミスも許されない状況。
トロールを殺す方法は二つ。
頭をもぐか人体の中心、心臓あたりを殴って貫通させるか。
どちらにせよある程度力を入れなければ殺せないため体力の消耗が激しい。
トロールの亡骸は横たわった後、光に包まれ霧散する。
そのため亡骸が積まれることはない。
そして、幸いなのはトロールたちの歩くスピードが遅いという点である。
しかしこのままではいずれ俺たちが押し切られるだろう。
何か、少しでも時間を稼ぐ方法を。
そんな思考によって体の反応が鈍ってしまう。
頭に強い衝撃。
急に視界が歪み、吹き飛ばされてから、自分は殴られたのだと気づいた。
少し考えるのをやめ目の前の群れに集中する。
どの方向を見てもその不気味な目で俺たちを見据えているのがわかる。
口の中には血の味。
それが自分の力への過信を感じさせた。
遠距離攻撃はしてこない。
あくまでも腕を振り回しているだけ。
そこから知能の低さを感じられた。
殺さなくとも時間を稼ぐ方法はないのか。
再び思考する。今度は周りに一層気を配りながら。
そして、ひとつの案を思いついた。
俺は拳に力を込め、目の前のトロールの膝を殴る。
俺の予想では、足を攻撃され倒れて動けなくなったトロールが邪魔をして、ほかの大群が迫る時間を稼げるのではと思っていた。
しかし、トロールの巨体を支える足は想像以上に頑丈であった。
俺の一発のパンチは一切効いていない。
トロールは足を振り上げる。
それだけで、俺にとっては十分危険な攻撃であった。
俺はそれを咄嗟によけ、今まで通り体を殴って貫通させることで絶命させる。
胴体はあっさりと貫通するため、足にも攻撃は通ると勝手に思い込んでいた。
ハルのほうを一瞬確認する。
相変わらず素早い動きで首を切り落とす。
しかし、昨日の連戦とこの大群との戦いによって少し動きが鈍っているように思えた。
早めに他の案を考えないと、このままではまずい。
俺は内心焦っていた。
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