70話 アドバイス
俺の気付かないうちにそこに男が立っていた。
その男は静かに笑みを浮かべている。
何かを企んでいるような不気味さ。
「……お前は誰だ」
俺は質問を投げかける。
「まあ、強いて言うなら、君と同じ立場かな。イツキ君」
にやりと笑みをこぼしながら答える。
いきなり俺の名前を呼ばれ少し動揺する。
何故俺の名前を。
「何故僕が君の名前を知っているのかというのは今は関係ない」
そして俺から質問をすることを拒まれた。
「ここは聖域の中に存在する神殿だ。聖域がこの世界に三つあるというのは知ってるかな?」
「……ああ」
俺は話を聞くことにした。少なくとも相手から敵意は感じない。
「その聖域それぞれに同じような神殿が隠されている。そこに行けばきっと、君も僕の味方になってくれるだろう」
「味方? 何の話だ」
「オススメは……そうだな、どっちでもいいが、神海の神殿からの方がいいんじゃないか。そちらを先にした方があまり混乱しなくて済む」
俺の質問を無視し、話し続ける。
「そこにも同じような建物があるのか?」
「そうだよ、同じような建物に同じように本が置いてあるはずさ。それを開いてくればいい」
何故そんなことを勧めるのか見当がつかない。
「僕から話してもいいんだけど、如何せんめんどくさいから自分で見てきてよ」
「何故そんなことを俺にさせようとする?」
「君が僕の味方になってほしいからに決まっているだろう。君はすごい能力を持っているみたいだし。相手の魔術を蓄えて放つ能力だったよね」
「……そこまで知られているのか」
「まあね」
さも当然であるかのように言う。
「その能力についてなんだけど、相手の魔術を蓄える、いや、君の言い方では『吸収』か。まあとりあえず他の魔術を『吸収』しておいて、戦うときに『解放』できるようにしてた方がいいよ。あと、どれくらい『吸収』できるか調べておいてもいいかもね」
何故見ず知らずの人間にここまでアドバイスされるのだろうか。
「そんなに強い能力を持っているなら最大限活用してた方がいいよ。君はメイと一緒にいるんだし、彼女に手伝ってもらいな」
メイと一緒にいる事まで把握されている。こいつ、何者だ。
「まあそろそろいいかな、軽くは喋ったし。これ以上話すと長くなっちゃうしね」
「なあ」
「質問かな。僕の答えられる範囲なら答えてあげるよ」
「なら、結局お前は誰なんだ」
相手の男は少し考える素振りをする。
「僕はこの世界の人々が魔王城と呼んでいるところにいる。その点だけをみるなら、僕は魔王ってことになるのかな。まあ、自作の城だけど」
ますますこいつが解らなくなってきた。
「また来てくれれば歓迎するよ。そっちならより詳しい話もできるだろうし。ただ、先に神海に行ってからにしてね」
「……ああ、わかったよ」
これだけ言うのだから何かはあるのだろう。
初めて会った人間を信用することは危ないが、俺は意味があると思い、こいつの言っているところに行くことを決める。
「もうちょっと反抗的な態度とか、攻撃とかしてくるかと思ったから安心したよ」
「そうか」
「ああ、最後に一つだけ」
「なんだ」
「この洞窟の外に待ち伏せしてるやつらがいるから要注意。まあイツキ君なら大丈夫だと思うけどね」
「注意喚起助かる」
「じゃ、またどこかで」
そして、その男はポケットから細い試験管のようなものを取り出して握り、親指を使ってそれを折る。
パキッというガラスが割れるような音を生み出し、彼の姿は消えた。
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