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69話 本

「は?」


 目の前に突如現れた建造物に思わず固まる。


 そこには壁しかなかったはずなのに。


 その建造物からは何かオーラのようなものを感じる。


 そして、俺はそれに惹かれていく。


 自然とそれの方向へと歩き出していた。


 神殿のような形。


 壁全体が光を放っている様で、眩しいほどだ。


 近づいていくとその神殿の大きさが想像以上であることに気づかされる。


 俺は階段を上りその神殿の中に入る。


 広場のようになっており、ほとんど何も置かれていない。


 しかし、奥にぽつんと台座があった。


 俺はさらに歩いてそれに近づく。


 何故それを見たいと思ったのかはわからない。


 どうなるかもわからない。


 ただ勝手に足が動いていた。


 やがて台座の側まで来ると、その上に本が置かれているのに気が付いた。


 革でできた表紙。そこには球体が描かれている。


 これは、地球か?


 なんでこんなところに描かれているのか。


 それ以上に、これは何の本なのかも気になった。


 俺は躊躇うことなく開く。


 そこには酷く崩された筆記体で言葉が記されていた。


 読みずらい。でも、読めない程ではない


 ”これは、素質あるものに送られる”


 最初の一ページにはこれだけ記されていた。


 素質。なんだろうか。


 俺はページを捲る。


 ”たった一つの世界が二つになる。


 それはどれほど美しく、どれほど恐ろしいだろう。


 帰り道はただ二つ。帰るか堕ちるか。


 死にかけの灯火を新たな蠟燭に移されて、元の蝋燭は永らえる。


 瀕死だからこそ見えた世界で、明日を取るか未来を取るか。


 殺すことが善い行いか。否、正しい行いだ。


 全てを取るという傲慢は。強欲は。利己は。


 自分だけを失い続ける。


 ……”


 こんなことが長々と記されている。


 一つも解読ができない。


 書いている意味も意図も読めず、しかし、何かに取り憑かれたように、俺は読むことに没頭していた。


 やがて、最後のページまで来た。


 ”この世界の神と現実に祈りと愛を込めて。


 貴方の未来に幸あらん事を。”


 それだけを最後に残した。


 読み終えると俺は膝から崩れ落ちかける。が、踏みとどまる。


 憑いていたものが抜けるような。


 強張っていた体から力が抜ける。


 書かれているものの意味は解らなかったが、素質についての言及は半ばのページにあった。


 ”素質は、死にかけで、不遇であること。ただそれだけ。”


 これもどういう意味なのかは分からなかった。


 そして、今になってハルとメイの所在が不明であることが不安になっていた。


「読み終わったかな?」


 突然、声が聞こえる。


 人の気配など一切なかったのに、いつの間に来たのだろうか。


 俺は神殿の広場の方に目を向ける。


 そこに一人の男が立っていた。

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