66話 約束が果たされるまで(3)
10分後、手鏡からワリントクルの声が聞こえる。
「帰りの馬車の用意が出来ました。王宮の入り口にてお待ちしております」
私は最低限の荷物を他の従者に持たせ、部屋を飛び出した。
入り口に向かっている道中、深くフードを被った人とすれ違う。
周りを多数の騎士団の人間が囲んでいる。
一人に見覚えが。
あれは、会議中に入ってきた……。
「これは、アイマゲス様。お急ぎのようですが如何されましたか」
「フェモネ殿でよろしかったか、話すほど余裕はない」
そう言い私は通りすぎようとする。
「ですが……」
まだ話しかけてくる。
私は少しイラっとする。
「アイゲマス殿。どうされました?」
しかし、その後ろの人物はさすがに無視することはできなかった。
アカソの王、ケニルだ。
「私の国で何者かに私の住まいを襲撃されました」
それを伝えるとケニルは目を見開く。
「なんと。それは早く帰らねば。引き止めてしまってすまない」
「構わない。このような挨拶になってしまって申し訳ない」
「殿下、お時間が」
「わかっている。それでは」
「少し待ってくれ。ミナト」
「はい」
あのフードの人と歩いていた騎士団の中から返事が聞こえる。
「オトイックまでアイゲマス殿の護衛をしろ」
「承知しました」
「ミナトについて行かせる。何か困ったことがあれば何でもどうぞ」
私はケニルに不信感を持つが、あまりこうしていられない。
「わかった。ではまた」
「ああ」
私は馬車の方へと向かった。
いつの間にか、空の色はオレンジを放っていた。
護衛は三人。
これが早く帰れる一番の人数だった。
ほかの従者は後から追いかけるという。
「ミナト殿」
私は揺れる馬車の中、髪をオールバックにしたその人を見ていた。
「どうされましたか」
「ケニルはなぜおまえを護衛につけたのか」
「私にはわかりかねます」
無言の時間。
「お茶でも飲まないか。一人では退屈だ」
「誘いはうれしいですが、周りを警戒しないといけないためすいません」
「わかった。頼んだ」
「承りました」
そしてミナトは下を向いたまま静かになる。
辺りはもう闇に包まれている。
眠れるはずもない。
私は嫌な緊張感を胸に、いつまでも静かに考え事をするのだった。
少し辺りが明るくなり始める。
食事もせず休憩もなしで馬車の運転と護衛をしている4人には感謝だ。
少しずつ外の景色が見えるようになる。
後ろに走り抜けていく木々。
セルウェラはどこに連れ去られたのか。
またしても不安で心を潰される。
国の外に出られれば探しようがない。
色々な感情が渦巻いては暴れ、そして消えていく。
すると突然、窓の外の世界に白いものが漂い始める。
それはどんどん濃くなり、周りの景色を消していく。
そして、馬車がいきなり止まった。
「なんだ?」
ミナトがドアを開け、外に飛び出す。
再び見えた白いもの。煙?
普通に発生する煙より白い。
もしかして、『瞞着の煙』か?
「ちょっと待て!」
私は外に飛び出したミナトに声をかけるが当然遅かった。
あれだけ古代魔導具を集めて、知識を蓄えていたのに、なぜもっと早く気づけなかった。
しかし、こんなところで古代魔導具を使われることなど想像できない。
誰だ。なんでこんなことをする。
私はそれを吸わないようにドアを閉め、静かに息を殺す。
そして、ドアが開けられた。
「――! 誰だ!」
しかし、それの返答をした人物は、私の想像していなかった人だった。
「お父様?」
は?
「その声は……、セルウェラ?」
「はい、そうです」
口元を手拭いで抑えた愛娘が馬車に入り込み、私の胸に飛び込んだ。
苦しさが全て消えていったようだった。
「無事で、無事でよかった……」
「あの方たちが助けてくれました」
セルウェラがドアの方を見る。
そこにいたのは黒髪の男。
「娘を助けていただきありがとうございます。何とお礼を申し上げて……」
私はそこで気付く。
会議の時に誰かが言っていた。
「お前は、『魔の勇者』?」
「じゃ、お幸せに。セルウェラも元気でな」
私の質問には答えず、そいつは煙の奥へと消えていく。
馬車に残されたのは、父親の胸に抱かれたセルウェラと、意味不明な状況に追いやられたアイゲマスだけだった。
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