第一章 4 才能ってやつなのか
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「シンさん、刀も使ってみたいけど、魂ってのも俺に教えてくれない?」
レンがそう聞くのも無理はない、それほどまでにレンにとって魂という新しい戦い方は、興味をくすぐられるファンタジー要素万歳のものだったのだ。
元の世界ではそんな不思議な力を見るのは映画や漫画の世界だけ、そんな力がもしかしたら使えるかもしれないということは、レンにとって革命的だった。
しかし、そんなことを言われて困ってしまったのはシンさんだ。なぜなら魂を使えるようになるには少なくとも年単位の修業が必要なのだ、そんな簡単に教えるわけにもいかない。
「う~んそうだな、僕の家の流派のトウドウ流刀術ってのは魂を使うことを前提にしてあるから、教えることはできるけど、かなりの時間がかかるよ? 確か2カ月後にはGardianの試験があるんでしょ、そんな時間ないんじゃない?」
そういって遠回しに断るしかなかった。しかしそんなことはお構いなしのレンにとって、この程度の婉曲表現は無視される。
「でもそこを何とかできないかな? 例えばどうやったら使えるようになるのかみたいな、触り程度でもいいからさ」
そう言って、全然引かない。なのでレンになら教えてもいいだろうと感じたシンさんは、レンの熱意に押し負け、簡単なさわりならと教えてくれることになった。
「わかったよ、そういうことなら簡単なさわりだけだよ。それ以上は自分で修行して、もし改めてここで修行したいと思ったなら、試験が終わったらまた来てね。でもその時はレンは僕の弟子ってことになるから、厳しくいくよ」
そう言って、レンに魂の使い方を軽く師事してくれるといってくれたシンさんに対しレンは、
「おお!本当に!ありがとうございます!」
と、興奮冷めやらぬ様子で感謝を述べている。そのあまりの勢いにびっくりしたシンさんとその隣にいたアッシュだったが、年齢の割に純粋なレンに対し段々と好印象を持ってきており、そんなレンの様子をほほえましく思っている。
そんなこんなで何とか魂について教えてもらえることになったレン、そこで一旦道場に胡坐をかいて座り、魂についての講義を受けることになった。
「まず第一に、さっきから説明しているけど魂を使いこなすには基本10年単位で修行をする必要がある。早い人でも2,3年はかかるから、もしレンが天才だったとしてもすぐには習得できないってことは理解してくれ」
「はい」
シンさんの話にしっかりとうなずくレン。そんなレンに対してシンさんは話を続ける。
「そうだね、まず魂の訓練を始めるにあたって、いくつかの段階がある。それをまずは教えようか。
まず第一段階が魂を感じるステップだ。その次に魂を動かすステップ。そして魂の性質を変化させるステップ。そして最後に魂を昇華させるステップだ。それぞれ名前があって、魂の知覚、魂の躍動、魂の攻防、魂の発現と呼ばれている」
真剣に話を聞いているレンに対しなおも説明を続けるシンさん、
「そして、このどれもが魂を扱うにあたって重要なんだけど、この順番に覚えるのがセオリーかな。中にはある日いきなり、何らかの影響で魂の発現ができるようになり、そこから魂の使い方を学ぶ人もいるけど、そんなのは何か別の要因のせいで起こるイレギュラーだから、今回は関係ないね」
そう言って、取り敢えずの説明を終えた。そこからはやっと実際に教えるパートに入る。今回はすでに魂の攻防まで使えるアッシュが、実際に見せてくれながら教えてくれるようだ。
「じゃあ、まずは魂を知覚するところから入ろうか。基本的にこれが一番時間がかかるんだけど、今回は心構えを教えるからそれを反復してくれ。この地味な修行に耐えられなくて逃げ出す人も多いから気合を入れてね。
アッシュ、シンさんがちょっとでもわかりやすいように全力で魂を体から放出してくれ、これも魂をより強力に使う修行にもなるから、アッシュも真剣にやるように。シンさんはアッシュの体からあふれている魂を感じるように全神経を集中してみて。最初はわからないと思うけどあることを疑わないことが一番大事だよ」
「「はい」」
そういって、レンとアッシュが同時に返事したと同時にアッシュの存在感が一気に増し、Gardianギルドにクインに乗って降り立った時にバーリアルに対してマッスル先生が行ったのと同じように、アッシュを中心にして物理的に風が吹いている。
あの時のマッスル先生ほどではないがそれでもしっかりと感じれるだけの風を感じたレンは、あの時の風は魂によるものだったんだと考えながらも、シンさんに言われたとおりに全身の神経を集中して、魂というものを感じようと全力を尽くす。
もともと漫画や映画でイメージがついていたからなのか。転生によってレンの中の何かが変わっているのかわからないが、謎に高い身体能力と同様に、今回も難なく魂を感じることができたレン。
アッシュの体から何か半透明の光のようなものが出ており、炎のように上に向かって躍動している。
「おお!なんか見えてきたぞ。この半透明の光みたいなものが魂なのか!?」
そう言って興奮交じりでシンさんに聞くレン。その発言に驚かされたのはシンさんたちだった。
なぜなら、どんなに早くてもこんなに一瞬で感じ取れるようになるものではないのが、魂というものだ。今回はあくまでも何かがあるということを肌で感じてもらい、今後の修業の役に立てるために行っていたのだ。
それなのに一瞬でレンは感じ取れたと言っている。それも何となくではなくしっかりと目で見ているというのだ。そんなことはありえないと感じるもの無理はないだろう。
「そんなバカな……レン、本当に見えているのかい?こんなに簡単に見えるものでもないんだけど……」
そう言って半信半疑のシンさんだが、レンは
「うん、しっかりと見えているよ。そんなに疑われても見えているものはしょうがないからな……」
とこちらもどうしようかと考え込んでしまった。そこでシンさんが、
「レン、これはなんに見える?」
と言いながら、持っていた刀を前に突き出す。それに対してレンの回答は、
「えっと、何だろ。大きな丸かな? あ、今三角に変わった」
と答えた。その答えにまたしても驚いた表情を浮かべるシンさんとアッシュ。しかし今回は認めざるおえない。
「驚いたな、本当に魂の知覚を一発で成功しちゃってるよ……」
そうつぶやくシンさん。シンさんが驚いたのはこういう理由からだ。
先ほどレンに向かってシンさんが刀を突きだしたとき、シンさんは魂の躍動により、魂だけを刀の上空で変化させ、丸から三角に形を変えていたのだ。
もちろんこの技術はかなりの高等技術でおいそれとできるものでもないが、それをしっかりと見るためには魂の知覚ができていないといけなく。しっかりと答えられたレンが本当に魂の知覚を習得していることを確かめるには一番いい方法だった。
それにしっかりと答えられたレンが魂の知覚をしっかりと使えていると理解したシンさんたちだったが、今度はその習得スピードに驚きを隠せない。
レンは先ほどまで存在すら知らなかった魂の使い方をなんと一回で身に着けてしまったのだ。こんな話は聞いたことがなく、天才という言葉では収まり切らない、ある種化け物的存在とすら思える。
そんなとんでもない才能を目の当たりにしたシンさんたちは、驚きで言葉が出ない。そんな中魂が見えるようになってはしゃいでいるレンは、あたりを見渡していたるところを観察している。
「ほぇ~、魂ってのは生き物以外にもあるんだね、物にもよるけどそこにかかっている刀とか、あと奥の部屋からも感じるよ」
そういうレンに対して、もう驚くのもつかれたシンさんは、
「はは、もうそこまで感じられるのか、恐ろしいな……。物の魂を感じ取るのはかなりの技量が必要な高等技術なんだけどな。いいものには作り手の魂や、自然のエネルギーなんかが宿って魂を持つようになるんだよ」
そう言って、道場に飾られてあった刀を手に取るシンさん。そのまま刀を説明してくれた。
「この刀は、優秀な刀鍛冶でもあった僕の父親が作った刀でね、名前が白銀の一振りっていうんだけど、魂で強化しなくてもかなりの強度を誇っている名刀なんだよね。美しいでしょ」
そう言って刀を説明しているシンさんの表情は、本当に好きなものを話している時のそれで、見ているこっちもうれしい気持になる。刀の名前が和名じゃなくて洋名なことに若干の違和感を感じたレンだったが、そんなことはどうでもよく感じた。
「うんそうだね、魂を感じられるようになってよりその刀の美しさを感じ取れるようになったよ。なんだか魂にはそれぞれ個性みたいなものを感じるし、その刀の個性はとても清らかなように感じる」
「はは、もうそこまで感じ取れるなら魂の知覚に関して教えることはないかな。あとは使っていく中でより研ぎ澄まされていくだけかな。まさかこんな簡単に使えるようになるとは思っていなかったから、驚きが隠せないよ。アッシュもかなり優秀で、この年で魂の攻防まで使えるのは同年代の中でも頭一つ抜けているんだけど、レンは別次元だね。アッシュ、レンのは完全イレギュラーだから気にすることないぞ、父さんはお前ぐらいの年の時位はまだまだだったんだから」
そう言って、あまりの才能のすごさに息子のアッシュを心配したシンさんが軽くフォローを入れたが、アッシュは、
「そうだね、ここまですごいと逆に意味わからな過ぎて嫉妬もしないよ。レンは何か別の何かって感じ。まあ、ご先祖様と同じ転生者だし、普通じゃないのは当たり前なのかもしれないね」
「確かにそうだな」
と親子で、レンに対してかなり失礼な会話を繰り広げられている間も、レンはそんなこと気にせず新しい魂というものが使えることに興奮しっぱなしだ。
そこで、シンさんが
「レン、本当はここまで教えるつもりはなかったんだけど、ここまで来たらいけるところまで教えようと思う。レンは今魂の知覚が使えるようになったけど、この次はさっき説明した通り、魂の躍動だ。今知覚している自分の魂を、自分の意思で動かすことができれば一応クリアだね。これがどれだけスムーズに行えるかはすごく大事な要素だから、しっかりと覚えてね」
そう言って、レンの前で分かりやすく自分の魂を動かして見せてくれるシンさん。体からうっすらとだけ漏れていた魂が、一瞬にして全くなくなり。シンさんの存在がそこにあるのに意識しずらい、それこそ道端の石ころのように感じ取れる。
「今やったのが、体の中に魂を抑え込み、気配を薄くする技術だ。これによって普段垂れ流しになっている魂の消費を抑えて、回復力を上げることや、何かから隠れたりするのに使うことができる。そして次がアッシュがさっき見せてくれたこれだ」
そう言って今度は先ほどと真逆で、シンさんの体から魂があふれ出し、物理的な圧力を伴った。
それに比例するように風が吹き、シンさんの存在が先ほどとは逆にとても大きく感じられる。
「これが、自分の魂一気に消費し、自分の存在感なんかを強める技術。はったりとかにも使えるけど、本当の使い道はこの増えた魂を使用して、一気に大きな力を発揮することだね。この状態は燃費は悪くなるけどその代わりに一度に使える力が増えるから、パワーはますよ」
そうやって説明を終えたころには、シンさんの魂は普段のシンさんに戻っていた。
「今の状態が普段の状態だけど、この少しだけ魂を出している状態は、人によって漏れ出る魂の量が異なるんだ。魂の総量が多い人ほど多く漏れ出る傾向にあるし、そういう人ほど単純に強いから警戒が必要だ。魂が見えなくてもこの感覚は誰にでも備わっていて、この人はなんか圧を感じるみたいな感覚と同じだよ。でもこの量を擬態して自分を弱く感じさせることも出来るし、本当の実力者は普段この技術で自分の魂を押さえないと、一般の人にもおびえられちゃって生活に困るって理由でほとんどの実力者が普段は魂を抑えていると考えて間違いないね。こんなに一気に話しちゃったけど理解できた?」
そう聞くシンさんに、レンは、
「何とか今のところついていけてるよ」
と答える。なので、
「それならよかった。じゃあここからが本番なんだけど」
といって、実際に魂の躍動を本格的に教えてくれるようだ。
レンの目のに手を出しながら、シンさんは説明を始めた。
「まず、魂を使うときに大事なのは考えることだ。そして最終的には考えないことも大事だ。ちょっと頓智みたいに聞こえるけど、要するに魂も自分の体のように頭で考えて動かすことができるものだということで、最終的に無意識に魂を動か得るようになるのを目指すというのが、魂の扱い方の心構えだね」
そう言いながら、目の前で手のひらの上を魂が塊となって移動しているのを見せてくれるシンさん。その光景は光の球でお手玉をしているようで、複雑な動きこそしていないが、段々とシンさんの額に汗がにじみ出ていることから、かなり神経を使うことの様だ。
「ふぅー、今目の前でやって見せたのが、自分の魂を動かす魂の躍動の基礎的なものだよ。僕もそこまで扱いが得意ではないから、話しながら行うのは結構疲れるね。ちょっといいとこ見せたくて背伸びしたな。でもこの動作はとても大事で、さっきみたいに全身の総量を大きくしたり、小さくしたりっていうのは結構感覚的に行えるんだけど、それだと燃費が悪いから、部分的に強化するとかに使うかな、達人になるほどこの動きが滑らか勝つスピーディーだね」
そう言いながら、額の汗をぬぐうシンさん。そのままシンさんはレンに対して、
「こんな感じに、基礎的なことは口頭で教えられるけど、魂って言うものはどこまで行ってもその人の感覚によるものが大きいから、重要なことは反復練習と、しっかりと考えることだね。レンならもしかしたらできるかもしれないから、取り敢えずできると思ってやってみてよ」
と、レンに進める。実際魂はそのほとんどを習うより慣れろという部分が多く、自らの感覚でしか解決しない。
応用や、このような技術があるという部分、心構えなど、先人に学ぶところも多いが、最終的には知識よりも経験の方が重要なのが魂というものなのだ。
なので言われたように、自分魂を動かしてみようと試みるレン。
魂の知覚を覚えたことによって、自らの体にも魂があるのが見て取れるようになっているので、その魂をしっかりと感じながら、動かそうと念じる。
いわゆる超能力などを使う漫画などをレンも男の子なので読んでいたこともあったため、イメージとしては体の中心、いわゆる丹田と言われる場所から出てくると考えたレンは、へその下あたりに力を込めて、そこから魂を動かそうと思い念じる。
しかし、いくら踏ん張っても体の中心からあふれ出てくるイメージでは、体にまとっている魂の総量はあまり増えない。
そこで今度は別の考え方をしたレンは、今度は科学的に考えて、細胞の一個一個から魂ってものは作り出されているのかも知れないとの仮説のもと、全身の細胞から生み出されるエネルギーが増加するイメージをした。
そうしたら先ほどよりも魂の総量が増加したように感じたが、それでもシンさんには遠く及ばない。
それに頭を使いすぎて少し疲労感は出ているが、それもシンさんの時の感じとも違うように感じている。
なのでレンは、また別の考え方をしてみることにした。そこで考えたのは魂という名前だ。
魂というものはイメージとしては死後肉体から離れたり、体の中にあるけどもその存在を確かめることはできないものといったものだろう。
そんな感じで魂というものをイメージしたレンは、それが今は見えているという事実を改めてかみしめ、そもそも魂を扱うのに体のどこかを意識するということそのものが間違っているのではないかと考えた。
魂というものは肉体から離れても存在して、肉体は魂の入れ物に過ぎない。肉体に魂が宿っているのではなく、魂が肉体を動かしているのではないか。
この、一見同じことのように思えることだが、実はこの事こそ魂の本質そのものだったのだ。
鶏が先か卵が先かではないが、肉体が先か魂が先か、その答えは魂が先で、肉体は魂が現世で動くための器に過ぎないのだ。
そしてレンはそのことをすでに実感している。転生という行為はレンの魂そのものをこの世界で神が作り上げた肉体に転生させることによって、この世界での存在を与えられているのだ。
その考えに至った瞬間、レンは今まで体を意識していたが、その考えをやめ、魂そのものに対して意識するようになった。これは人それぞれ感覚は異なり、魂を扱うものが皆この感覚で魂を扱っているというわけではないが、レンにとってはこれがとてもしっくりきたのだ。
そうして、魂そのものに力を入れて、一気に力を出すイメージをしてみたレン。そこで思わぬ事態が襲い掛かった。
それはレンの魂を扱う才能そのものに、体がついていかなかったことで起きた珍しい事故だ。
イメージがしっくり来た次の瞬間、レンの体には先ほどのシンさんとは比較できないほど大きな魂が纏われ、それは物理的な力となって、道場内に風を生み出した。
「なっ!」
レンのあまりの魂の圧力を目の当たりにして、とんでもない化け物を生み出してしまったと感じたシンさんだったが、次の瞬間には別の意味で驚いていた。
なんと、自分の扱える以上の力を扱えてしまったレンは、次の瞬間には一気に消費したエネルギーの波を食らい、意識をなくし倒れていたのだ。
レンがゆっくりと気を失うのを確認したシンさんとその横で呆然としていたアッシュだったが、すぐさまレンに駆け寄り意識を確認する。
そうすると、ただ気を失っているだけだということがわかり、ほっとする反面。あまりの才能の大きさに、空恐ろしいものを感じるシンさんだった。
そうして、最初は刀をかくる教えるだけのはずだった今回の一連の出来事は、まさかのレンが気を失うという想像もできない結末を迎えた。
そして、このあまりにも大きすぎる才能を、なんとか無駄にしないためにも、これから先しっかりと自分のできることを伝授しようとシンさんが決心したことをレンはまだ知らない。
気を失ったまま、気持ちのよさそうに寝息を立てている。
ひとまず命の心配はなさそうだと考えたシンさんは、息子のアッシュにお母さんに布団を用意してもらってくれと頼み、レンを持ち上げると寝室まで運んでいく。
そうしていろいろなことが起こった魂の修業は、一回目をこのような形で終了することとなったのだった。
次回は魂を実際に使って戦うことになります。果たしてレンはどこまで化けるのか。