第一章 2 Guardianとは
誤字脱字などございましたら、教えていただけるとありがたいです。
急に町中におりたことによって怒られたバーリアル。そしてその横でどうしたらいいのだろうと立ち尽くすレン。この二人の来訪に対して、Guardianの組合の会長と副会長はどうしたものかと考えていた。
野次馬も集まってきてしまうことから、取り敢えずビルの中に入れと言われたので、ついていくレン。
先ほどまでの広大な自然や、ドラゴンのような不思議な生き物がいることから、なんとなく中世的な世界なのだと勘違いしていたレンにとって、Guardianの町≪ジェネリウス≫はかなり発展しているように見えた。
来る途中に見た感じでは、普通に車が走っており、ビルが立ち並ぶ都市だったからだ。
そんな中に空き地だとしても全長20メートルほどのドラゴンが舞い降りるのは、都市を囲むように防壁があったことから考えても非常識なのは想像がつく。
そんな暴挙に出たバーリアルが怒られるのは当然のこととして、今から入っていく場所はGuardianの総本山である。このビルはこの町で一番高いビルであり、100階近くあるのではないかと思われる。
そんなビルに連れられて、従業員の人たちが頭を下げている会長と副会長に連れられ、エレベーターに乗ったレンは、こんな待遇を受けているバーリアルは結構偉いのではないかと考えていた。
「なあ、バーリアル。お前って結構偉いの?」
思ったことは聞かずにはいられない、そんなレンの一言が、今までの沈黙を破る一言になったのは、もう当然の流れといっていいだろう。
そんなレンの素朴な疑問に対して、バーリアルは、
「いや、別に偉くはないよ。そこそこ有名かもしれないけど」
と、答えた。それに対してレンは、
「な~んだ、そうなのか」
とすでに興味をなくした様子で、ぼーっとガラス張りのエレベーターから外を見ている。
そこに、会長であるおばあさんが、
「確かに偉くはないが、三ツ星のGuardianは世界でも数えるほどしかいないからね、十分有名人だろうに、だから周りの目も気にしろと言っておるのだ……」
と小言を言いだした。その横で副会長であるスキンヘッドのマッチョが何度も強くうなずき、バーリアルをにらんでいる。
それに対して気まずそうに頭をかいているバーリアル。この話になったのは自分のせいなのにすでに興味を失っているレン。なんだかこれが通常運転の様だ。
そんなこんなで、最上階まで来たところでエレベーターが止まり、大きな応接間に通されたレン。ふかふかのソファーに座らされた後に、事情を聞かれた。
ソファーに座っている場所としては、上座に会長、その横に副会長が座り、その向かいにレンとバーリアルが座っている。
「とりあえず、今回はなんでこの町に来たのか教えてくれないかい?」
そう聞いてきた会長に対して、レンは、
「いいけど、その前に名前聞いてもいい? さっき自己紹介しようとしたら遮られちゃってさ。俺の名前はレン。天涯孤独の身で今はGuardianを目指してる」
と言い放った。明らかに空気の読めないレンに、厄介なやつが増えやがったとばかりにため息をつく会長のおばあちゃん。
しかしそこはGuardianの組織の会長だ、すぐに気を取り直して、
「あんた、いい性格しているよ、全く……。まあいいわ、私は会長のクロー=ハロイス。会長でもクロ婆でも好きに呼びな。そして隣の禿げが、マッスル=マッスルっていうふざけた名前の副会長さね。これで満足かい? それにあんたがGuardianを目指しているなら、なんとなく来訪の目的はわかったが、それにしても珍しいね、紹介状書くのかい?」
そういって会長は、珍しいものを見たといった表情でバーリアルの方を見た。
「うん、紹介状を書こうと思ってる。会長も見ての通り、レンって面白いでしょ、クインにも打ち解けたし向いていると思うんだよね」
「なるほどね~」
と納得した様子の会長、しかしその横でまだ言いたいことがあるといった表情で、マッスル副会長が話し出した。
「だとしても、町中にクインで直接来るのはやめろといつも言っているだろ。来る前に一度連絡するなどなぜできない」
と怒り心頭だ。そこにバーリアルは、
「だって昨日いきなり決まったんだもん、しょうがないじゃん。空クジラの討伐に出かけてモリス平原に行ったら、なぜかレンがいてさ、話を聞いたら記憶もなくって、転生したばっかだっていうんだもん。とりあえずここに連れてくるでしょ。本人もGuardian目指したいって言ってたし」
と説明した。少し投げやりな説明だったが、その発言に二人の顔色が変わった。
「転生!? レン、本当にあんた転生したっていうんかい?」
そうやって、真剣に聞いてくる会長に向かってレンは、
「ああ、そうみたいだね。正直記憶がほとんどないから何とも言えないけど、なんだかこのことだけは思い出せたんだよね、神様の姿は思い出せないけど……」
と言い放った。そうすると会長はとても驚いた様子で、
「こりゃたまげた、転生してきたものに直に会うのは初めてだね。文献には乗っていたがこの現象を知っているものはごくわずかだ。あんたもあんまり言いふらすんじゃないよ」
とレンに注意した。そこにマッスルが、
「しかし会長、信じるんですか? こんな荒唐無稽の話を。あれはもはや想像の産物ではないかという説すらあるんですよ」
「別に嘘だとしてもそんな嘘をつく必要がないさね、どのみち本人が本当だと思っているんだから本当だろう。見た感じこの者は人をだますことに関しては素人以下だ、これが擬態だとは考えられないね。それとも何か、あたしをだませるほどの者だとでもいうのかね?」
そういって、副会長の方をにやりと微笑みながら会長が振り向くと、マッスルも「そうですが……」と言いながら渋々納得した様子だ。
「よくわかんないけど、転生のこと知っているなら話が早いね。記憶もほとんどないし、取り敢えずGuardianを目指してみようかなってのが今の目標なんだよ。でさ、どうやったらGuardianになれるの?」
いつまでもマイペースなレンは、すでに次の話に行こうとしており、それにあきれたように会長は、
「なんだい、あんたそんなことも知らなでGuardianになりたいって言ってるのかい。そんなんでもし成れたとしても、その後どうするつもりなんだい?」
「別に今は決めてないかな、バーリアルの話だと別に何をやるのも自由で、慣れたらお金も稼げるって話だったし、それでいいかなって。それになんだかわくわくするじゃん」
会長の問いに対して、目をキラキラさせてノープランですと答えるレン。この数分間でレンの性格を理解した会長は、もうそこに突っ込むことはせず、
「そうさね、別になれるんだったら理由なんてどうでもいいのがGuardianだ。でもその代わりなった後はすべて自己責任だよ」
「わかってるよ」
「ならいいさね、それに簡単になれるもんじゃないし好きにしな。今回あったのも何かの縁だ、大まかににGuardianにつて説明してやろうじゃないか。マッスル話してやんな」
そういって、話をマッスル副会長に丸投げした会長は、ズズズとお茶をすすりながら、せんべいを食べ始めた。
それに対してレンが、
「わかった、マッスルさん、教えてください」
と頭を下げたので、マッスルも渋々、
「そこまで言うのなら教えてやろう」
といって話し出した。
レンが素直に頭を下げて教えを乞うことに若干の驚きを感じた、マッスル副会長だったが、レンにとっては教えてもらうのだから、頭を下げるのは当たり前というだけで、別に何も考えていなかった。
とにかくそんな中で若干の話づらさはあったマックスだったが、話し出したら持ち前の真面目な性格が功を奏し、徐々に饒舌になっていく。そんなマックスに対し、レンが適度に「ほぇ~」など感心した返事をするので、説明が終わるころには、完全に授業中の先生と生徒だった。
マックスの話をまとめるとこうだ。
まずGuardianとは何を指すのかというと、ただGuardianとして認められたもの、もっと詳しく言うと試験に合格したものの事を指す名前で、Guardianになったからといって、仕事が割り当てられるというようなことはないそうだ。
ほかにも実績に応じて星が与えられたり、時には仕事のあっせんなども行うが、基本は放任主義の様だ。
ただ、今までの先人たちの実績や、先輩Guardianたちのお陰で、Guardianになったものはいろいろ恩恵がもらえたりするらしい。
例えばGuardianの提携施設では、Guardianの証明書があるだけで、料金が割引やただになったりすることも多く、また一番いいのが身分証になるというところだ。
どんな地域でも、Guardianの証明書は一番セキュリティレベルの高い身分証であり、基本どこでも行けるようになるようだ。
そのほかにも上げるときりがないが、Guardianにもいろいろ種類があり、バーリアルの怪物守り人や、傭兵である、戦争|守り人《ガーディアン≫、そして財宝守り人などが有名どころらしい。
そのような多種多様なGuardianをすべてまとめてGuardianと呼んでおり、その中にはもちろん良い者や犯罪者などもいるようだ。
Guardianの義務の中に、犯罪を犯したGuardianの捕縛、殺害などがあるが、Guardianになるときに犯罪歴などは関係なく、ただ試験に受かればいいだけなので、実力のある犯罪者なども多く在籍しており、実情かなりめちゃくちゃな組織の様だ。
この説明の時、マッスルはいかにGuardianとは清廉潔白であるべきか、そして犯罪者のGuardianはすべて抹殺して、組織を浄化するべきだ、ということを延々と語りだした。
そこで会長が「もういいわい」と話を遮ってくれ、無理やり話しを終わらした。
「ま、別にGuardianがどういうところなのかは、これから知っていけばいいことじゃ。お前さんが知りたいのはどうやってGuardianになるのかだろ。その先なんて知ったことじゃないって顔しとるわい」
そういう会長に向かって、
「そうだな、正直どうでもいいかな。今は面白そうだからなってみたいってだけだし、実際なったところでやらなきゃいけないこともないなら、行き当たりばったりでいいかなって。だからなり方を教えてほしいかな」
と答えるレン。そこで会長は、
「簡単じゃ。お前さんはここにいる悪ガキが紹介状を書いてくれるらしいから、参加条件は満たしとる。だからあとは再来月の1日。今からちょうど54日後じゃな。その日に行われる試験会場を探すことが第一試験じゃ。場所は今年は娯楽の町≪フロンティア≫じゃ。この情報は全国のGuardianギルドで公開している情報じゃから、お前さんにも教えといてやろう」
と、レンに言い放った。
まさかの試験会場を探すところから試験という変則試験、ヒントは町の名前だけ。このふざけた方式がGuardianの試験というものの様だ。
「マジか、試験からめちゃくちゃ面白そうじゃん!わくわくしてきた!」
こんな変な試験方式を聞いても、レンはより興味を持つだけのようで、先ほどよりも目を輝かしている。
基本方針が放任主義のGuardianは一人であらゆることをしなくてはならず、情報収集なども必要なスキルなのだ。その後の試験内容はわからないが、10000人に一人という合格率から考えて、生半可な試験ではなさそうなこちだけ予想がつく。
「ちなみに、試験料なんかはない代わりに、交通費やら、それぞれの諸経費なんかも自己負担だよ。というよりもあんたそもそもお金あるのかい?」
どんな試験が待っているのかと、妄想を膨らましているレンに向かって、会長のクローが尋ねると、
「あ、そういえば俺一文無しだった。というより持ち物も何にもないんだよね」
とあっけらかんと答えるレン。その答えを予想していた会長は、
「やっぱりそんな事だろうと思ったよ、そんなんじゃ娯楽の町につくことすらできないよ。まずはお金を稼がないと、今日泊まる宿すらないよ」
とあきれながらもレンに釘を刺す。この町の代表として、見ず知らずの者が一文無しでこの町にやってくるという状況に、めんどくさいという感情しかわかない会長は、そのまま厄介ごとを持ち込んだバーリアルに向かって、
「とりあえず、あんたが責任もって今日の寝床は見繕ってやんな」
と言って、面倒ごとを持ち込んだ張本人に丸投げした。
そういわれたバーリアルは、
「そうだね、今日一泊分くらいのお金と、宿を見つけるところまでは手を貸すよ、そのあとは自分でどうにかしなよ」
とこちらも、そこまで面倒を見るつもりもなさそうだ。そんな感じでたらいまわしにされているレンだったが、あまり気にした様子もなく。
「お、助かる。何から何までありがとうな。マッスル先生も、クロ婆も、いろいろ教えてくれてありがとう!」
と感謝の言葉を述べた。
そうして、なんだかんだで忙しい会長、副会長の二人とお別れしたレンは、バーリアルに連れられて近くのホテルに連れてきてもらった。
Guardianの本部ビルのすぐ近くにあるホテルは、そこそこ大きく、しっかりとしたホテルだった。そこで一泊では止まれないということで、結局に二泊分の料金を払ってもらったレンは、ホテルを出てクインのもとにバーリアルを見送りに来ていた。
「いや~、何から何までありがとうな。これからな何とかやってみるよ」
そういうレンに対して、バーリアルは
「ま、なんとなくだけど、レンなら何とかなると思うよ。あのホテルはご飯もついているから、取り敢えずはあさってまでは大丈夫だし。僕はやることあるからもう行くけど、この町には会長もいるし、なんかあったら相談してみるのもいいと思うよ」
と言って、クインの背中に飛び乗る。それに反応してクインも目を覚まし、羽を広げて伸びをした。
その風圧だけで少し跳びそうになるのを、踏ん張って耐えたレンは、クインの羽をなでながら、
「クインもありがとうな。ここまで送ってくれて助かったよ、またどこかで会おう」
と、クインにも挨拶をした。
そうすると、もうここには用がないバーリアルは、「じゃあね」と軽く別れの挨拶をした後、クインに乗って飛び去ってしまった。
やはりバーリアルも台風のような男だ、あたりをひっかきまわして、そのあとには何かを残して自分はいなくなる。今回残していったのはレンというイレギュラーな存在だが、これは良かった事なのか、悪かった事なのかはレンの今後の行動次第だろう。
バーリアルとクインが居なくなった空き地に、一人たたずむレンだったが、二人の影が見えなくなるまで空を見上げた後、その日はとりあえず何もせずにホテルへと帰った。
その後ホテルのベットでゴロゴロして、夕飯を食べた後、その日は何もせず眠りについたレン。
いきなりの異世界転生で、無一文のまま、今後が決まっていないのに、その初日を何もしないというのはいささか問題なのではないかと、少し心配だが、本人はそんな事何も考えておらず。幸せそうにいびきをかいている。
明日には仕事と寝る場所を探し出さなくてはいけないのに、どうするのか。この男に焦りがないのはなぜなのか、全く理解できないが。結局この日はそのまま寝て終わってしまった。
そして次の日、朝日が差し込むことで気持ちのいい目覚めをしたレンが初めて発した言葉がこれだ。
「う~~ん、よく寝た。それにしてもどうしようか。なんも考えてなかった。これは困ったぞ」
本人は何も考えていないのに爆睡をかましていたのだ。その神経の図太さが、この男の強みなのだろう。
「しかし、何から始めよう。まずはどうにかしてお金を稼がないとな。あとは娯楽の町にどうやって行くのか考えないと。とりあえずこの二つさえ何とかなれば、あとのことはどうとでもなるだろう。」
そうして、今日の計画を決めたレンは、朝食を食べた後、やっとホテルを出て、この町を散策しだした。
「しかし、やっぱりどう見ても都会なんだよな。こういう異世界転生ってイメージだと、車じゃなくて馬車か、それ以外のファンタジーな乗り物だけど。ここは普通に車が走っているし、今までとあんまり変わらない気がする」
中央通りをふらふらと歩きながら、あたりを見渡すレンだったが、レンの言うとおりこの町は、レンが元居た地球の都市部と何ら変わりがない見た目をしていて、電車も飛行機も、タクシーまである。建物もコンクリートのようなもので出来ており、道も整備されている。
いわゆる異世界転生のセオリーを完全無視した街並みだ。しかし、よく見ると、街行く人が普通に武器を持っていたり、軽自動車ほどの大きさの犬が町中を歩いていたり、いわゆる獣人のようなものも居たりと、ところどころにファンタジーな要素がちりばめられている。
そんな、リアルとファンタジーが入り混じったような街並みに、観光気分で楽しんでいたレンは、自分の約50メートルほど手前で、一人のおばあちゃんがひったくりに会うのを目撃した。
「泥棒!」
そう倒れこみながら叫ぶおばあちゃんを見たレンは、次の瞬間には走り出していた。
昨日落ちてくるクジラから逃げるときも思ったが、自分の体のスペックがありえないほど高いと感じながらも、50メートルの距離を約3秒ほどで縮めたレンは、その勢いのままひったくり犯に跳び蹴りをかまし、制圧した。
そうして、おばあちゃんのバックを拾い上げ、おばあちゃんのもとへ歩き出し、
「はい、ばあちゃん。取り返したよ」
と、声をかけた。
こうしてレンの刺激的な二日目が始まったのだ。