第一章 1 異世界転生
自分のペースで、更新できるときに更新していく予定です。
それはいつもの昼下がりであった。この物語の主人公である夏樹 連はいつものように工事現場のアルバイトをしていた。
「あち~~~」
言葉に出すだけで、より暑さが増すのもお構いなしに、ただ思ったことをいう。この男はそういう言う男だ。真夏の炎天下の中、お昼休憩で休みながらも、体に力を一切入れずにだらけ切った態勢で、道行く人をただ眺めている。
そんな中、真夏ということもあって露出度の高い服を着た、胸の大きな女性が歩いているのをすぐさま察知した連は、「お!」っと一言だけつぶやいた後、食い入るようにその女性を眺めている。
思春期の少年である連にとって、とても刺激的だったのだが、これは思春期というだけでなく、単純に彼がおっぱいが大好きだというせいもあるだろう。
そしてこの時、おっぱいに集中してしまったがために、彼は命をなくすことになる。
「危ない! 連逃げろ!」
工事現場につるされていた鉄パイプが、強風のせいで態勢が崩れ、落ちそうになっていたのだ。その下に連がいることに気づいた現場監督が、大きな声で何度も危険を知らしている。その声にびっくりして女性も連の方を向くのだが、それすらにやにやと見つめているだけの連には、周りの音が一切聞こえていなかった。
そうして連は、享年18歳で、死因は女性に見とれすぎてまわりの声が聞こえずに、頭上から落ちてくる鉄パイプを避けることができなかったことという、なんとも間抜けな死に方でこの世を去ったのだった。
連のその後の記憶は曖昧で、なんだか神様みたいな人にあった気もするが、気づいたときには、見たこともない広場で目を覚ました。
「う~~ん、ん? ここはどこだ?」
突然として、知らない場所で目を覚ましたことで、混乱するレン。周りを見渡すと人っ子一人おらず、誰も人が住んでなさそうな、ボロボロの民家が立ち並ぶ、村のような場所だ。
「え?、なんで俺はここにいるんだ……。ちょっと前後の記憶が何も思い出せないんだけど……」
そういって頭を押さえて考え込むレン、そこであることに気が付いた。
「あれ、というかほとんど思い出せないんだけど……、もしかして記憶喪失ってやつ?」
そう、レンの記憶のほとんどがなくなっていたのだ。思い出せるのは自分の名前がレンだということと、家族はおらず、天涯孤独の身だったということだけだ。
そのことに違和感を覚えたレンだったが、周りに誰もいないし、取り敢えず横になって空を眺めることにした。このマイペースさが前回の死因につながったのだが、そのことをもう覚えていないレンにとって、いつものことだった。
「まあ、覚えてないものはしょうがないし、これからどうするか考えるか」
そういって、空を眺めていたレンの頭のなかに、いきなり記憶が蘇ってきた。
「ん? なんか思い出したぞ……、ああそうだ、おれ死んで、この世界に転生させてもらったんだった!」
かなり衝撃的な記憶なのに、思い出してもリアクションが薄い気がするが、これでやっと状況を理解してくれたようだ。
この時、どこかで神様が、完全に忘れられていることに慌てて、記憶を復活させたとかしてないとか。それはこのお話には関係ないので、割愛させていただきます。
とはいえ、状況をやっと理解したレンは、これからどうしようかを考えだした。
「神様は、別に何かしなくてはいけないことはないって言ってたしな。今回転生させてくれたのも、死因が面白かったから気まぐれだって話だし。とりあえず好きに生きてみようかな」
そんな漠然とした予定でいいのかとも思うが、現状ほかに考えられることもないレンは、そういいながらも空を見上げながら、このまま昼寝でもしようかと考えていた、そんな時だ。
「ん? あれはなんだ?」
上空に突如として何か鳥みたいなものと、大きなクジラが表れて、何やら戦っているようだ。
「え? どういうこと……、あれクジラだよね、空飛んでない?」
空飛ぶクジラと、大きな鳥が戦っているという状況に、驚きを隠せないレン。しかししっかりとその戦闘を目に焼き付けていると、なんだかクジラがこちらに近づいてくることに気づく。
「あれ、これ危なくね?」
危険を察知したレンは、すぐさま立ち上がり、その場から勢いよく走り出す。その時に自分の身体能力が人間離れしていることに気づくが、今はそんなことはどうでもいい。
そうして先ほどいた場所から立ち去ると、全長30メートルほどのクジラが空から降ってきて、そこに追い打ちをかけるように、先ほど鳥だと思っていた生き物から、一人の男性が飛び降り、落下の速度も生かしたパンチを打ち込む。
ドスンととてつもない衝撃音とともに、クジラの断末魔が響き渡り、クジラは動かなくなった。
その横に優雅に先ほどの生き物が羽ばたきながら降りてきて、静かに着地した。
そのある意味幻想的な風景に、あっけにとられていたレンだったが、先ほど自分がいた場所が木っ端みじんになっていることに怒りを覚えたので、一言文句を言うために、先ほどのところまで走っていく。
あんなことを見た後だというのに、文句を言おうというその精神の図太さが、レンの持ち味でもあるが、少し無鉄砲だともいえるだろう。
そうして、近づいていき、文句を言うレンだった。
「おい!、危ないだろう! 俺が気づかなかったら、死んでるところだぞ!」
開口一番そういって文句を言うレンに対して、驚いたように男が振り向き。
「あれ、ここって無人の地区じゃなかったけ? なんで人が居るの?」
といってきた。それに対してレンは、
「まずはごめんなさいだろう。そんなことも知らないのか!」
とお説教モード。目の前には空飛ぶクジラの死体と、それを倒した男、そして見るからにドラゴンの巨大な鳥、それを前にしてもぶれないレンはどこか頭のねじがぶっ飛んでいるのだろう。
そんなレンに対して、男は、
「ああ、ごめんね。ここには人はいないと思っていたんだ。悪いことをしたね。でもなんでここにいたの?」
と質問をしてきた。それに対して、レンは、
「謝ってくれたんなら、もうこのことに関してはいいや、今回は怪我もなかったし」
といって満足そうに、うなずいているだけ。なので男がもう一度、
「えっと、なんでここにいたのか聞いてもいい?」
と尋ねると、
「知らない、起きたらここにいたんだよね。ここってどこなの?」
と聞く始末。終始レンのペースで進む話に、男は困惑しながら、
「え~知らないって、どういう事? まあ職業柄、嘘をつく人と、本当のことではぐらかす人を見分けるのは得意なんだけど、そのどちらでもなさそうなんだよね……もしかしたら、何らかの転移トラップ的なものなのかな?」
そういって考え込んでしまった。なので、レンは転生したらしいということと、ほとんど記憶がないということを馬鹿正直に説明したのだが、余計に男を混乱させるだけで、結局二人してまあいいかと考えることを放棄するという、暴挙に出た。
「とりあえずレンは今、何のあてもないんでしょ」
そういう男にレンは、
「そうだね、予定もないし、気楽なもんだよ」
と答えた。そうすると男は、
「いいねそれ、楽しそう」
と言い、なぜか二人は意気投合してしまった。はたから見ている身としては、何がどうなってこのようになったのか、まったくもって理解不能であるが、この二人の中では本当にわかんないことはもう頭の中から消えているようだ。
性格も似ていた二人は、結局意気投合して、自己紹介を始めた。
「俺の名前はレン。気づいたらこの世界に転生していた18才だ。特に予定もないし、これから何をするのかまだ決まっていない。よろしく」
そういうレンに対して、男は、
「僕の名前はバーリアル=ジンクス。プロのGuardianだ。専門は怪物守り人。モンスターを狩ったり、守ったりするのが仕事かな。一応年齢は32才。こっちのおとなしくしているのが、ブルードラゴンのクインだよ。よろしく」
そういって二人で握手を交わし、その後ろで名前を呼ばれたブルードラゴンのクインが、一瞬だけ目を開けて顔を少しだけ上げることで反応を示している。
レンは自分とバーリアルの二人を一度に丸呑みできるほどの大きさを誇るクインに対して、全くおびえることなく、
「お前はクインっていうのか、よろしく」
とぺちぺちと鼻のあたりを触りながら、クインに対しても挨拶をしており、それに対してクインは少しうざそうに鳴き声を上げただけで、触られるがままにしているあたり、レンのことを受け入れているようだ。
「おお! クインがこんなに友好的なのは珍しいな。基本僕意外には触らせないのに」
とバーリアルが驚いているので、普通にドラゴンに触る行為は危ないものだったのだろう。それを全く物おじせずやるレン。やっぱりどこかおかしいのだろう。
そんなこんなで、自己紹介を終えた両方は、取り敢えずほったらかしのクジラについて処理するべく、バーリアルが動き出すのをレンは待つことになった。
「ちょっとこの空クジラの処理をするから、待ってて」
「了解っ」
そんな会話の後、バーリアルは空クジラなる巨大なクジラを解体し始めた。懐の袋から大きな解体包丁を取り出し、解体するバーリアルに対し、その袋に興味を持ったレンは、
「え!、その袋どうなってるの? 今明らかに袋よりも大きい包丁が、そこから出てきたでしょ」
とバーリアルに質問すると、
「ああ、これね。これ結構高いんだよ。これは大食らいっていう猫の胃袋でできていて、中の空間が直径約一キロの球体くらいの体積になっているんだよね。だから中で物をなくすと探すのがほぼ不可能なんだよね」
と言いながらもクジラの解体を進めるバーリアル。しれっととんでもない道具を説明しているが、それがどのくらい珍しいものなのか分かっていないレンは、「ほぇ~」と馬鹿っぽい相槌をしながらもバーリアルの解体をじっと待っている。
そうして、解体が終了した後、そのほとんどが袋に収納され、残りをクインと俺たちで食べることになった。
「空クジラの肉は、味は普通だけどとにかく柔らかいから、それなりにおいしいと思うよ。」
そんなバーリアルの説明を聞きながら、基本すべてお任せで、肉を焼いてもらったレンは、何も食べてなかったこともあり、一気に肉を平らげた。空クジラの肉は、確かに味自体は普通のお肉だったが、綿菓子のように軽く、マシュマロのように柔らかく、とても不思議なお肉だった。
「いや~おいしかった~」
そういうレンに対して、バーリアルは嬉しそうに、
「そういってくれると、ふるまったかいがあるよ。クインもおいしそうにしてくれてるし、よかったよかった」
そういって、片付けを始めた。
しばらくして、あと片付けが終わったバーリアルが、
「僕は今日はここで眠るけど、レンはどうするの?」
と聞いてきたので、
「そうだね、ほんとに何も予定ないし、俺もここで野宿かな」
とレンが答えたところ、バーリアルが、
「本当に何もやることがないなら、取り敢えず明日人のいる町まで送るよ。ここから歩いたら2,3日はかかるからね」
といってくれたので、レンはありがたくその提案を受け入れることにした。
「本当に!? それは助かるよ。右も左もわからないから、いろいろ教えてくれると助かる」
「いいよ、僕が知っていることなら、何でも教えるよ」
そうして、レンはこの世界での初めてであった人である、バーリアルにいろいろ聞くことにした。
この出会いがのちのレンの人生にとって、とても大きなものになる。なぜなら、これがきっかけでレンはプロのGuardianを目指すことになるのだから。
まあ、この世界で生きていれば、否が応でもGuardianの存在は耳にするし、レンの性格上それに興味を持つことは避けては通れないようなものだが、プロのGuardianの性質上、この出会いがとても大きなものになるのだった。
そうして、レンはバーリアルにいろいろこの世界のことについて聞いた。空に浮かぶ四つの突きが照らすなか聞く、バーリアルの話はどれも面白く、次第に自分もプロのGuardianになりたいと感じるようになった。
「バーリアル、俺決めたよ、取り敢えずプロのGuardianになってみることから始めてみることにする。そのあとのことはまだわからないけど、まずはそれを目標に頑張ってみるよ」
「そうか、プロのGuardianね……うん、向いていると思うよ。クインが気を許していることや、いきなり目の前に現れた僕に対して説教から始まるなんて、普通じゃ無理だしね。でもプロになるのはとても大変だよ。まず試験を受けるためには現役Guardianからの紹介がないといけないし、その上試験に受かるのは毎年10000人に一人の確率だよ」
「まあ、もし受からなくても何度も挑戦するよ、どうせやることもないしね」
「ま、なんとなくだけどレンなら受かる気もするし、いいと思うよ。僕からの紹介状を書いとくよ。でもGuardianってのはなるのも大変だけど、なった後の方が大変だからね、その分お金は稼げるけど」
「おお!紹介状書いてくれるの! それはめちゃくちゃ助かるよ、ありがとう! 確かに俺はお金も稼がないと生きていけないしね、ちょうどいいよ。それにバーリアルの話を聞いてると、どんな仕事なのかわくわくが収まらないんだ。もうやりたくて仕方がないよ!」
そうして、レンの今後の目標が決まった。まずは明日バーリアルに町まで送ってもらって、その後は年に一回行われるGuardianの試験に参加する。次の開催は2か月後らしいので、それまでは暇になるが、この世界になれるために、ちょうどいいとも考えられる。
Guardianになって何をするのか考えていないが、行き当たりばったりで何とかなるだろう。そう持ち前の楽観的な考え方で計画を立てたレンは、その後もバーリアルにいろいろなことを聞きながら、その日は楽しい時間を過ごした。
次の日、朝になって、バーリアルに起こされたレンは、寝ぼけ眼で顔を洗い、そのまま町まで送ってもらうことになった。
「クインは鱗を抜かれるのを嫌がるから、絶対に抜かないでね。そう簡単に抜けるものでもないけど気を付けて」
「背中に乗せてくれるクインの嫌がることは絶対にしないよ、よろしくなクイン」
そういってクインの背中を撫でるレン。そうバーリアルはレンをクインの背中に乗せて町まで運んでくれるというのだ。
もちろんシートベルトもなく、上空数百メートルを何の防具もなしに跳ぶため、とても危険な行為なのだが、なぜだかレンもバーリアルも大丈夫だろうと考えていた。
そうして実際に乗せてもらったレンだが、いつも乗っているバーリアルは勿論のこと、レンも多少寒くは感じたが、特に問題もなく、むしろクインの背中から見る広大な大地の景色に、終始興奮しっぱなしで、とても楽しんでいた。
そうして時間にして約一時間半程度、今まで自然の景色だけだったところに、大きな町が見えてきたところで、バーリアルが、
「レン、あそこがレンを送る街、Guardianの総本山がある街≪ジェネリウス≫だよ。まあこの町の名前を呼ぶ人はほとんどいないけどね、皆Guardianの町ってい呼んでるよ」
「Guardianの町か、なんだかわくわくしてきたな」
そうして町に近づいていき、そのまま町のなかで一番大きなビルの横の空き地まで運んでくれたバーリアルとクイン。なんだか地上で何人かが怒鳴っているようだけど、そんなことお構いなしに、いつのも華麗な翼運びで音一つせず着地したクインに対して、
「いつ見てもクインの着地はきれいだね、ここまで運んでくれてありがとう」
レンがそういいながらクインの背中をなでると、クインも嬉しそうに「クゥ」と一鳴きして返事を返してくれた。
その横でバーリアルがぴょんとクインの背中から飛び降り、地面に降り立ったので、レンも続いて降り立つと、そこには鬼の形相の筋肉ムキムキのスキンヘッドと、あきれた表情のおばあちゃんが目の前にいて、遠くに何人もの人物が遠巻きにこちらを見ている。
普通に考えて、やはりこれだけ大きなドラゴンで、いきなり町中に乗り付けるのは非常識なのだろう。目の前で明らかに怒っているスキンヘッドのおじさんを見て、レンはそう思ったが、バーリアルは何も気にした様子もなく。
「やあ、会長に副会長。お久しぶりです。まだまだ元気そうですね」
と普通に挨拶をしていた。なのでレンも一応挨拶をした方がいいかなと思い。
「あ、初めまして、俺…」
と自己紹介を言いかけたところで、スキンヘッドのマッチョが、
「いつもいつもふざけるな! この馬鹿者が!」
と怒鳴った。
その時、そのマッチョを中心に風が巻き起こり、周囲を吹き飛ばしていたが、その横にいたおばあちゃんが、
「うるさいのう、黙らんか!」
と一括したため、マッチョは「いや、しかし…」と黙り、風はやんだ。どうやらこのおばあちゃんの方が立場が上の様だ。
「お前さんも、いつもクインに乗ってくるときは事前に連絡せいっていっておるだろうに、全く…」
とおばあさんはあきれており、あきれられているバーリアルは「ははっ」と全く気にした様子もない。そんな個性豊かな面々の前に立ちながら、レンはとりあえず自己紹介してもいいのかなと、考えていた。
全員が個性豊かすぎて、まとめ役がいないと会話が成立しない。
しかしGuardianという者たちは、往々にしてそういう人の集まりなのである。
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字などございましたら、教えていただけるとありがたいです。