少年の齢は7つか8つだと思う。
高校が午前授業でいつもより早めの下校。
通学路の公園を歩く僕を夏の蒸し暑さが酷く苦しめる。青く澄んだ空に登った太陽は僕に光の眩しさと汗の不快感を与えてくる。
そんな日でも子どもたちは元気に草の上を走り回っていた。
広い公園には池があり、その近くには木が生い茂っていた。
まるで小さな森のようになっており、夜になると暗く不思議な怖さを持つのだが、昼は木陰となり強い日光を遮るとても素晴らしい場所である。
そこにあるベンチに座り、静かに本を読むことは暑い中アイスを食べることと並ぶ至福である。
ただ今日は運が悪くベンチには先客がいた。子供だ。年は多分7か8。髪の毛を短く切った元気そうな男の子だった。
男の子はニコニコとしておりそしてじっとこちらを見ていた。
なにか奇妙なものを感じ取り僕は彼に話しかけた。いつもなら見知らぬ子供に話しかけることなどしないものだがこの男の子だけはなんとなく話しかけやすかった。
「きみ、なにしてるの?」
僕は問いかけた。話しかけようとしたのはいいが、話題が思いつかずに必死に頭から絞り出したのがこれだった。
男の子はそんな質問を受けながらベンチから立ち上がった。
そして僕に背中を向け、振り返り
「ついてきて!」
そう言って歩き始めた。
僕は男の子の言葉を受けてついていった。
きっと男の子はなにかを作ったのだろうか。そしてそれを誰か見てほしくてあそこで待っていたのだろうか。
それならとても可愛い子だ。
少し歩くと男の子は止まってこちらを振り返った。
「ここまで来て!」
僕はいったい、男の子は何を作ったのだろうと疑問に思いながら近づいていった。
そして次の瞬間、足元にあるはずの地面の感覚が失われた。
多分男の子が作ったのは落とし穴だったのだろう。
それにしても深い。
すぐに地面につくと思ったら穴の中は滑り台のようになっていて長く続いているようだった。
長く、長く落ちていく。
戻ったら怪我をするかも知れないと男の子に注意しなきゃと思いながらここまで掘った男の子の努力が目に浮かんで苦笑した。
そして意識を失った。