3話
「ただいま~」
「……遅かったな。何かあったのか?」
アイラの父親であるデニーが先に畑仕事を終え、家に帰っていた。帰りが遅い事で少し不機嫌な表情をしている。
このデニーはノベルの父親とかつて親友であった。昔から家族ぐるみで付き合いがあり、ノベルの両親が病気で死んでからは、幼いノベルを引き取り、我が子の様に育ててくれているのだが……。
「パパ、ノベルがまた妄想遊びし出してね、ボケーッとしちゃって、まったく!」
「プッ……ハハ! まあそう言うな。ノベルらしいじゃないか」
ぐっ!……この男、誰に向かって言っておるのか!? 決めたぞ!オレの力が戻ったら貴様もペット二号にしてやるからな!
そして馬のようにお前の背に跨がり、尻を血が出るまで叩いてやるわ!!
だが今は……
「……エヘ、ごめんなさい」
チッ、謝罪など死んでもしたくない事なのだが今は、仕方あるまい。
しかしこの体の持ち主の性格が影響でもしているのか?自然に言葉に出てしまうな。
ん?
そんな事よりこの感覚は、何だ?
腹の辺りがよじれるような……
「みんなご飯よ~」
……ゴクリ。
……そうか、これが腹が減っているという事か。
アイラの母親であるニースが、皆を食卓に呼んだ。
ニースは不器用でガサツなデニーには、勿体ない奥さんである。貧乏な村人暮らしにも文句一つ言わず、ノベルに対しても優しく実の息子のように接してくれていた……が。
おお、食事だな!
前の体は、不老不死だった為、定期的に食事を取る事は無く、趣味の範囲で食べるくらいだった。それでも自分で作ってみたり、世界のレシピを集めるなど、ちょっとした食に対してのこだわりはあったものだ。
「む……」
何だこれは?
少し楽しみにしてしまった目の前に置かれている料理は、特にこった料理ではなく、黒パンに具材のほとんど入っていないスープ、蒸した芋だけだった。
……なにぃ!?
これを私に食べろと言うのか。これではまるで私の方がペットではないか!?
ふざけるな!
「……ぐぅ~」
く、屈辱だ。こんな奴隷のエサを用意した、ニースとか言う女はペットのペットで確定だな! 死ぬまでエサは芋にしてやるわ!そして屁をこいたら死ぬほど笑ってやる!!
クク、だがしかし……し、仕方ない。
この腹が減るという感覚、我慢ならぬ。
それに香りも思ったより悪くないようだ。
「ノベルも早く食べなさい。やっぱりボーッとしてるのね。クスクス」
「くっ!……少しだけ食ってやろう。 味見だ味見。……む、これは、中々の……旨い! 」
「あらあら、毎日食べてるじゃないの、へんな子ね。クスクス。」
なんと言う事か、腹が減っている時に食べるとこんなに旨いものなのか! 知らなかったな。ならばこの体も悪い事ばかりでは、……無いかもな。
「アイラにノベル、来月はいよいよ鑑定の儀式ね。何か良い才能があればいいのだけれど」
「鑑定の儀式?」
私はノベルの体にある記憶をたどる。それによると鑑定の儀式は、十歳になった子供達がその身に宿った才能を鑑定してもらい、将来の仕事に役立てる事になっているそうだ。
才能……もしかしてスキルの事か?人間の設定など、興味が無くほとんど忘れてしまったが、この体にスキルがあるならば、それも面白いかもな。……いやいや、そんな事より先ずは、何とか我が居城に帰らねば。
「ふぁ~……」
ん……何だ?体が重い。
眠たくて勝手にまぶたも閉じそうだ。
そうか……
これが疲れというモノか。……思えば今まで疲れる事も無かった。ただ、退屈な日々を楽しむ為に生きて来ただけだ。
……疲れとは、心地よいモノであるな。