33話 習わし
伝えられた?
しかも日本語のみ?
「混乱しているようであるな」
「ええ」
「ラージェス殿、この世界のについてヒサナギ殿に説明はしたのであるか?」
「いや、ほとんどなにも伝えていない」
「ならば混乱するのも当然であるな」
「そもそも私もヤイチと出会ってから6日ほどだ。なにかを話し合う程の時間はなかったからな」
「であるか」
そういえばこの世界の話って、戦闘方面以外はほとんど聞いてないな。
まあ、生き延びないことにはどうしようもなかったし、しょうがないか。
「ならば良い機会なのである。ヒサナギ殿、簡単にではあるがこの世界のことを説明するのである」
「それは助かります。文化もルールもなにもわらなくて」
「それはそうであろうな。ならば最初は我輩達が、ニホンゴを話せる理由辺りから教えるのである」
「お願いします」
「この世界は、他の世界を飲み込んで大きくなる不思議な世界なのである」
他の世界を飲み込む?
「ヒサナギ殿が住んでいたチキュウも、この世界に飲み込まれたのであるな」
「飲み込まれる、と言うのは具体的にどういう状態になるのですか?」
「元いた世界がバラバラにされ、この世界の各地にはめ込まれのである」
ということは地球にあった街なんかは、この世界のどこかにあるってことか。
「ただ、飲み込まれたばかりでは世界のルールも異なるし、言葉も文化もわからない、その上この世界特有の危険もあると、大変なことが目白押しなのである」
確かに。
そういえば電力だけでなく火も使えなかった。
そういう部分のルールも異なるからってことなのか?
「そんな状態では飲み込まれる側があまりにも不憫だということで、この世界の最高神と言われる八柱の女神が、ある程度の援助を行うのがこの世界の習わしなのである」
「援助? 習わし?」
「うむ。援助に関して言うと、一つは言葉の問題であるな。こちらの世界では女神の命によって、ニホンゴの習得が進められ、各国が国策として、ある程度高位の者や知識層を中心にニホンゴの習得者を増やしていたのである」
相手を選んでるのは悪用を避けるためか?
たしかに、右も左もわからない状況で騙されるとか、たまったもんじゃないよな。
「もう一つがこちらの世界に来た人々の救助であるな」
「救助? ラージェスさん達が来てくれたのは、その為ってことですか?」
「そうだ、各国が女神様の命に従い、大なり小なりの救助隊を結成しているのだ」
なるほど。
「異変から短い時間でラージェスさん達が来てくれたのは、そういう理由があったからなんですね」
「ヤイチのいた場所は運も良かった。たまたま見回りのエリアの最初の方にあったから発見も早く、多くの者を救助できたが、運が悪いところは数ヶ月や数年単位で発見されない可能性もありうるからな」
運が良くてあれだけの被害。
電気も火も使えない状況、救助隊も来ないとなると……。
地球規模でどれだけの被害になるのか想像もできないな。
「どうしたのであるか?」
「いえ、今のお話を聞いて地球規模での被害を考えると」
「であるか」
「そういえば、ドリターラウさんもこの世界に飲み込まれた世界の住人だったんですよね?」
「であるな」
「ドリターラウさんの世界の人たちはどうなったんですか?」
「知らないのである」
え?
「我輩は元の世界の王でも政治家でもない、見たこともない世界中の者たちの心配までしていられないのである」
……。
「ヒサナギ殿が気負うことで、チキュウの人々が救われるのであるか?」
「それはないですね」
「であれば、友人知人に思いをはせるくらいにして、それ以上は考えても仕方がないのである」
「ヤイチ」
「ラージェスさん」
「お前の世界がどうだったのかは知らんが、この世界ではまずは自分の身を守ることを考えろ。脇見をしていれば死ぬぞ」
脇見は死か。
そうだなあれもこれもとやれるほど器用でもないし。
まずは生き延びること、そこに集中だな。
 




