17話 チキュウジン(side ラージェス)
結局押しきられてしまった。
ヨシノ殿と言ったか。
姫様やフィネステリア嬢にも劣らないほどの、強の者ではないか。
チキュウジンとは、皆ああも苛烈なものなのか?
……。
いや、そんなことはないな。
避難させた人々をみる限り、むしろヨシノ殿やあの男が変わっているのだろう。
もし、そうではないとしたろ……。
うむ、そういったことを考えるのは私の役目ではないからな。
それよりもあの男は何処だ?
まだ空中にいてくれると見付けやすいのだがな。
いたっ!
なっ、逃げた!?
「お、おい! 待て、逃げるな!」
あまり船から離れると!
「逃げるな。おい! 本当に戻れなくなるぞ」
まずい、これだけ距離が空いてしまうと。
「くそ、ちょこまかと。人の身でなんて早さだ」
早く捕まってくれ!
貴様に逃げられると私が色々と不味いのだ!
「待てと言っているだろう! 我々に貴様をどうにかするつもりはない!」
もうそんなことを言っている場合ではない。
私の命に関わる問題だ。
「頼む、待ってくれ。貴様を無事に連れ帰らないとヨシノ殿に私が殺されてしまう」
私の頭ですむのなら喜んで頭を下げよう!
このままでは姫様もただでは済まなくなってしまう。
「私を助けると思って。たのむ!」
む。
止まった!
「そうだ、聞き入れてくれて感謝する」
今ならまだ戻れるか?
む?
なにか様子がおかしい。
「お、おい。どうした!?」
「うがああああああああ」
な、何事だ!?
「な、だ、大丈夫か!?」
「あああぁぁぁぁぁ!」
「お、おい」
「……」
落ちる!?
まさか気絶したのか?
まずい!
ふう、なんとかまにあったか。
しかしこの男は一体なんなのだ?
生身一つで複数の魔晶獣を退け、今も魔動機兵を翻弄する。
そしてこの状態……。
「おい、大丈夫か。生きてるなら返事をしろ!」
訳がわからん。
「おい!」
「聞こえてる。なんとか生きてるよ」
「生きていたか!」
「なんとか……」
「いきなり叫び出して、落下し始めるたからな。地面にぶつかる前に、回収したとはいえ、死んだのかと焦ったぞ」
ここまで来て貴様に死なれる訳にはいかんからな。
「ラージェスさんでしたっけ? 助けていただきありがとうございます」
「貴様に何かあったらヨシノ殿に殺されかねんからな」
多分、本当に殺されかねない。
「理由はどうあれ、助かりました。本当にありがとうございます」
「気にするな。そもそもチキュウジン達を助けるのが今回の我々の任務だ。それより体は大丈夫なのか?」
この表情。
かなり厳しそうだな。
「相当傷むようだな。一体何事だ?」
「わかりません、私が聞きたいくらいです」
「チキュウジン特有の症状なのか?」
こんな症状が、至るところで発症すれば艦の中は大混乱だな。
「どうなのでしょうか? 今まで、このような症状になったことはありませんし」
「うーむ」
「いつつ」
かなり痛むようだが……。
っと、一体何をするつもりだ?
「おい、何をしている」
「いえ、まずは立とうかと」
こいつは阿呆か?
「貴様は何を考えているんだ。今は差し迫った危険があるわけではない、まずは休養をとるのだ」
大の大人?が気絶するような痛みだ。
無理などして良いはずもない!
「ですが、このままだと艦に追い付くのがかなり難しくなるかと」
こいつは、本当によくわからん奴だな。
あれだけ無茶苦茶やっておいて、急にこの殊勝な態度。
「負傷兵がくだらんことを気にするな。先程も言ったであろう、差し迫った危険はない。ならばまずは休養だ」
「ですが」
「大丈夫だ。何かあっても私が貴様を守ってやる」
そもそもがこいつも保護するべきチキュウジン。
それに私一人で帰ったなら……。
「わかりました。ラージェスさんのお言葉に甘えさせていただきます」
「うむ」
「俺、いや私はヤイチ・ヒサナギ。どうかよろしくお願いいたします」
「ほう、ただの阿呆かと思ったが」
ふむ、こうして話してみると、それなりに礼儀わきまえた男のようだな。
「既に聞いているかもしれんが、私はラージェス・デュアナンだ」
む?
「おい! ヤイチ!」
「だ、大丈夫です。少しねむ、る、だけ、で……」
ふむ、眠ったのか?
これはもう艦に戻るのは無理だな。
となると陸路か。
一苦労も二苦労もしそうではあるな。
まあ、それこれもヤイチが目覚めてからだ。
今はひとまずヤイチの護衛に集中せねばな。




