第34話 徹夜明けのブランチ
「早速食べるニャよ、久しぶりのマトモな食事ニャ!」
既に猫娘の手によって食事用の木のテーブルが準備され、三人分の食器が並んでいた。
真っ赤なイチゴジャムに、太陽を溶かしたようなマーマレードも置かれている。
その中央にドンと山盛りホットケーキが据えられた。
かなりのボリュームだ。
フィーリアは食卓の完成を確認して、ティーポットに暖炉で沸かした湯を注ぐ。
「整いましたですぅ、マスター」
「おう」
促されるまま席についた。
右側にフィーリア、左側に猫娘が座る。
「じゃあ食うぞ。ホットケーキは山から好きに取れよ」
「食べ放題ニャね!」
「では、食事の前に皆さんでお祈りしましょう」
フィーリアが当然のように、上品に手を組んだ。猫娘も続く。
「は、祈り?」
「コチラでは皆、神様に生きる糧を得られたことを感謝するのですぅ」
「ユーの世界では無かったのかニャ?」
「ああ……いただきますが近いかな」
「いただくメス……ニャ?」
「『いただきます』だよ、相手の命をいただくってことだ」
「ふうん、変わってるニャ」
「ではマスター流で参りましょうか」
「いや、別に俺に合わせなくても」
「でもこの食卓の主はマスターですよぉ」
俺が食卓の主?
何だか妙にくすぐったい気持ちになる。
「じゃあそうするか。アッチじゃこうやって手を合わせるんだよ」
「はいですぅ。では、ご一緒にお祈りですぅ」
三人全員で、日本式に手を合わせた。
「いただきます」
「いただきますですぅ」
「いただきますニャ」
お祈りは早々に切り上げ、全員が早速、分厚く焼けたホットケーキにナイフを入れる。
「しっかりしたケーキさんですねぇ、ダマダマさんもありませんですぅ」
「だから言ったろ」
「このジャムをかけるニャ?」
「おう。果肉入りのちょっといいヤツだから、美味しいぞ」
二人に見本を見せるように、惜しげも無くジャムを乗せ口いっぱいに頬張った。
生地がほろほろと崩れて、昔から変わらない懐かしい味だ。
だが今回はそれだけではない。
生地自体が薪火に燻されて、ガスや電気では出ない薫りをまとっている。
やはり焚火ならでは、というところだろう。
焼き上がりも香りも段違いだ。
本来ならメープルシロップか蜂蜜をかけたいところだが、ジャムの甘酸っぱさがかえって癖になりそうである。フィーリアと猫娘も、後に続く。
「とってもふわふわさんですぅ、これならいくらでも入っちゃいますぅ~」
「こ、こんなに美味しいの食べたことないニャ!」
「ね、マスターはすごいお方なんですぅ」
「ホットケーキごときで言われてもな。コッチの飯がマズ過ぎなんだよ」
「……それもこんなにすぐ出来るなんて、信じられないニャ。ユーは魔法を使うニャ?」
「ホットケーキミックスの力だ。必要な物が全部入ってて、後は混ぜて焼くだけ」
「……ホットケーキミックス、ニャと? そんなものがあるニャ?」
「俺の世界ではどこにでも売ってるよ」
「異世界、恐るべしニャ……」
猫娘はしばらく口を動かすのを止め、じーっとフォークに刺したホットケーキを見つめた。
腹が減っているはずなのに、一体どうしたというのか。
「おい、食べないのか?」
「無くなっちゃいますよぉ」
早くも、フィーリアが大皿から二切れ目を取りながら言う。
このペースじゃ本当に無くなっちまうぞ?
「どうした、具合でも悪いのか?」
「……これニャ!!!」
突然、猫娘が机をバンと叩いて立ちあがった。
その拍子に危うく紅茶がひっくり返りそうになり、すんでのところで俺とフィーリアがカップを抑える。
「ちょ、危ないだろ!」
「ミーは長く商売をしてきたニャが、こんな商材は初めてニャ! これはミーの最後の運をかける価値があるものニャ!」
「しょ、商材?」
急に何を言い出すんだこの猫は?
「まさか、これで商売する気か?」
「その通りニャ!」
猫娘はフォークを突き上げ、自らの決意を固めるように高らかに宣言した。
「猫の商人レベッカ・ブルーは、これで人生の大勝負を打つニャ!」
「お前、レベッカって名前だったのか……」
初めて猫娘の名前を聞いた……って、今はそういう話をしてる場合じゃない。
商材?
人生の大勝負?
何を言ってるんだこの猫は?
フィーリアも呆気にとられて、ポカンとしている。
ケーキの甘い匂いに淹れたて紅茶の芳しい香りが入り混じる室内で、暖炉の火が大きく爆ぜた。




