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第21話 拠点の村、ベルニア

 ――外に一歩踏み出すと、目の前にゲームそのままの雄大な自然を擁した村の風景が広がった。 

 青々とした草原が目に鮮やかな高原である。

 遠くには白い雪を残す山々が高くそびえ、石造りの家が点々と建っている。


 元々緻密なグラフィックだったが、三次元になると圧倒的だ。

 風景の奥行きは何百倍、いや何千倍になり、どこまでも空間が広がっている。

 

 空気が呆れるくらい美味しい。

 気持ちのいいそよ風が、頬を撫でた。

 ハンターの拠点となる、はじまりの村だ。


「ここがベルニア村ニャ」

「す、すげぇええ!」


 来たぜ、ガチの異世界! 

 これは眼福だ。


 一生分の綺麗な景色を見たようで、心が洗われる。


「どうしたニャ?」

 

 俺の興奮ぶりに、猫娘が不思議そうに尋ねた。


「いや、こんな風景、俺の世界には無いからさ」

「それは良かったニャ。さ、屋台はこの先ニャよ」


 そこからしばらく歩くと、コック帽印の看板を掲げた店の前にたどり着いた。


 『異世界ハンター』ではおなじみの、コックの飯屋だ。

 大きな石釜のある露店で、いつもなら食材が山と積まれ、脇に座席が並んでいる……はずだ。


 しかしここの飯屋は、どこか様子が変だ。

 座席どころか食材も無く、釜には火さえ焚かれていない。


 猫娘が店をキョロキョロと見回す。


「あれ……どうしたんだ?」 

「おかしいニャ……店主がいないニャよ。いつもは必ずいるニャに」

「マスター、看板に張り紙が張られてますぅ」

 

 フィーリアが指差した先に、確かに張り紙があった。

 慌てて張り紙を覗きこむが、異世界語で全く読めない。


「な、なんて書いてあるんだ?」

「ええと……」


 フィーリアがゆっくりと読み上げた。


「誠に勝手ではありますが、不景気につき一時閉店いたします……って書いてありますぅ」

「閉店!?」


「そういえばこの前、店主が『ハンターが来なくて商売上がったり』って言ってたようニャ」

「嘘だろ……」


 なんて脆弱な経済なんだ。

 俺が融資担当なら、ビジネスの抜本的改革を提案する。


 そして悲劇はクエスト案内所でも起こった。

 本来なら常駐しているはずの受付嬢が、見当たらないのだ。


 そこにはまたも、紙がペラリと一枚張ってある。

 再びフィーリアが読み上げた。


「……しばらくバカンスに行ってきます、クエスト受注はセルフサービスで♪ だそうですぅ」

 

 なんだよセルフサービスって、雑過ぎだろ! 

 どうなってんだこの村は!


 猫娘がのん気に腕組みをしながら頷く。


「ま、とにかく暇そうだったからニャあ」

「それなら仕方がないですぅ」

「はあ……」


 どっと疲れが押し寄せた。

 

 いいなぁ、みんな自由で。

 ウチの会社なら『暇でも働け』って真顔で言うぞ、絶対。

 

 結局飯は無し、クエストについての詳しい案内人もなしという状況になってしまった。

 溜息をつきつつ、出発前にクエスト用アイテムバッグを確認する。

 これは狩りに必要なアイテムを持参したり、クエスト中に素材を採取するときに使うものだ。

 

 だが、バッグの中には使えそうなモノが全く入っていない。

 採取用の空瓶が入っているだけだ。

 ここで飯が食えないとなると、体力が最低のままクエストに赴くことになる。


 それはマズイ、かなりマズイ。


 俺は慌てて猫娘の雑貨屋に寄り、しこたま回復アイテムを買い込んだ。

 大した敵は出ないはずだが、手ぶらは不安だ。


「お買い上げありがとうございますニャ!」


 猫娘はというと、久しぶりの収入にホクホクしている。

 代わりに俺の所持金ゴールドはスッカラカンだ。


「スタミナ系のアイテムもあれば良かったんだが」


 スタミナは走ったり、攻撃を仕掛けるときに重要な要素だ。

 だが雑貨屋では取り扱っている商品が限られている。

 

 スタミナを補給する物資は、無い。


 困ったな、スタミナチャージ出来ないのはかなり痛いぞ。


「普通のハンターニャら、自分でこんがりとお肉でも焼いてスタミナ補給するニャ」

「そりゃそうなんだが」


「焼き肉用の機械もあるニャよ!」

「そんなの買う金ねぇよ。仕方ない、このままフィールドに行くか」


「はわわ~ん、やっぱりフィー怖いですぅ!」

「うるせぇ、付き添ってやるんだからつべこべ言わずに行くぞ」


 渋るエルフの耳を引っ張り、出発ゲートへと進む。

 多々不安はあるがとにかく気合で乗り切るしかない。


「頑張ってきてニャ!」


 猫娘に見送られながら、フィールド行きの飛行船に乗り込んだ。



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