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第19話 猫娘の依頼

「ミーのクエストをなんで途中で止めちゃったニャ!」

「ああもう! ハンターは休業したって申し上げてるではないですかぁ!」


 フィーリアは喚きながら、身体にしがみついている猫娘を振りほどこうともがく。

 しかし猫娘はひっしとくっ付いて離れようとしない。

 二人の攻防は茶の間中を荒らした。


「ウチの中で喧嘩するな!」

 

 俺は一人と一匹の首根っこを掴み、力づくで引き剥がした。

 本日二回目だ、もういい加減にしてくれ。


 思いっきり身体を掴まれて我に帰ったのか、猫娘はコチラの世界を驚いた表情で見まわした。


「ここは、ここはどこニャ……?」


 猫娘の鼻と耳がヒクヒクと絶え間なく動いて、見たことのない空間に緊張しているのがわかる。


 だがそれはコッチのセリフだ。お前は何者だよ?


「……誰だよキミは」

「ヲタクこそ誰ニャ」

 

 キッと猫娘が俺を睨んだ。

 

 ベルベットの毛皮が美しい、ロシアンブルーと人間の女の子をミックスしたような娘だ。

 アルプスの麓に居そうな民族衣装を、今風に着こなしている。

 猫娘が動く度、赤地のミニスカートがピョコピョコと跳ねて愛らしい。

 服の上には深い色みの銀髪が流れ、大きな目は蒼く、キョロキョロと動いて周囲をすばしっこく観察した。手足には肉球、尻尾がゆらゆら揺れて、勿論猫耳も搭載。

 

 け、ケモミミじゃねえか! 

 

 全然アリだ……めっちゃ可愛い……モフモフしたい……ってそんなことを妄想している場合ではない。


 他人に名乗らせる前に自分が名乗れ、とこの猫娘は言いたいのだろう。

 至極真っ当である。


「俺は春田光一、ここの住人だけど」

「人間かニャ? ハンターと何の関係があるニャ」

 

 フィーリアが迷惑そうな顔で答えた。


「フィーのマスターですぅ」

「マスターって、何ニャ」


「フィーを操作する方ですぅ」

「操作、ニャと?」

「クエストに出るとき、マスターに従って狩りをするですぅ」

 

 猫娘は信じられないといった感じで、大きな青い目をパチクリさせた。


「そ、そんなヤツがいるニャか?」

「はいですぅ、マスターが狩りをしないと仰る限り、クエストはいたしませんですぅ!」

 

 フィーリアは猫娘の依頼を、「俺に」断らせようとしている。

 おいおい、面倒なことさせんじゃねぇ。


「ややこしいこと言うな、お前がやりたくないだけだろ」

「うぇ~ん、マスターぁ! フィー怖いんだもん!」

「むしろこの人間がやると言うニャら、ハンターは出動するニャね」 


 この猫娘、意外に知恵が回る。

 彼女はモフモフな腕で、ガシッと俺の手を握りしめた。


「幻の特産ワラビをもう一度探して欲しいニャ! そうしないとミーは破産ニャ!」

 

 必死の形相で俺に訴える。

 猫娘が手に力を込める度、肉球がムニュムニュした。


 最高に気持ちいい、絶品だ! 

 もっと色々なところをムニュムニュして欲しい……とか考えてる場合でもない。


「そんなの、自分で採ってくればいいじゃないですかっ!」

 

 フィーリアが癇癪を起こす。

 俺の手を握りながら、猫娘は反論した。


「無理ニャ、あれは白亜林にしか生えないニャ」

「白亜林って、クエストのフィールドか」


「そうにゃ。モンスターが出るから、素人のミーは行けないニャ」

「なるほど、だからハンターに頼んだのか」


「フィーは嫌ですっ!」

「なんでその、特産なんとかが必要なんだ?」

 

 猫娘はその言葉を聞いた途端、ズーンと顔色が悪くなった。


「実は……借金のカタにしたにゃ」

「借金のカタ?」


「ミーは商売人ニャ。村で雑貨屋を開いたニャが、駆けだしの頃に資金が足りなくなって、借金をしたニャ」

「借金したらダメだろ」


「商売人はドドンと仕入れて、ドドンと売る。それが鉄則ニャ。でも……全然儲からなかったニャ」

「そんなの自分の責任じゃねえか」

「ウチの村にハンターが来ると聞いて、ハンター用の商品を大量入荷したのニャ。でも一向に買いに来る気配がニャくて……」

 

 ちょっと待て。

 完全に俺が放置した所為じゃねえか! 


 まさかそんな事態になってるなんて、夢にも思わなかった。

 段々と猫娘の息が荒くなり、手がプルプルと震えだす。


「とうとう、借金取りが痺れを切らして怒鳴り込んで来たニャ。でも返せるお金なんてニャい。だけどそんなこと正直に言ったら、縛り猫ニャ」


 縛り猫って……。コイツはどんな相手に金借りたんだ?


 銀行マンの俺に言わせれば、融資を頼む相手は慎重に選ぶのは常識だ。

 もっとも、本当にマトモな相手なら、この猫娘は審査でハネられるか……。


「もうこっちも必死ニャ。気付いた頃には『代わりに特産ワラビを届けるニャ』って言ってしまったニャ。でもそれは危険な地域にある幻の一品。ハンターに頼むしかないのニャ」


 なるほど、ワケは飲みこめた。

 だが無理に、フィーリアのようなヘタレに頼む必要があるのだろうか。


「他のにもハンターはいるだろ、そっちに頼めないのか?」

「それはヨソの話ニャろ。ウチの集落ではこのハンターしかいないのニャ」

「うーん、そんなもんなのか」

 

 イマイチ、あちらの世界の事情がわからない。

 しかし猫娘が言うのだから、彼女がいる村ではフィーリアにしか仕事を頼めないのだろう。

 猫娘は大きな瞳から、ポロポロと涙をこぼした。


 熱い雫が、俺の手の甲に落ちる。


「お願いしますニャ……このままではミーは、ミーは!」

「わかったわかったよ!」

 

 女の涙ってのは苦手だ、このまま泣き続けられても困る。

 それに、俺にも一因がある。ならば、おっさんたるものやるしかない。


 だがこの決定に、フィーリアは不服のようだ。


「えー!? マスター本気ですかぁ!」

「しょうがねえだろ、俺らがやらねえと死ぬってんだから」


「そんなぁ」

「では早速村に戻るニャ!」


「ちょ、今からか?」

「返済の期限が迫ってるのニャ」

 

 ま、結局やらねばならないなら、今でも後でも変わらない。

 

 本日は朝から早出、おまけに深夜からゲームというデスマーチ。

 だが哀しいかな、俺はよく訓練された社畜だ。

 これしきのことで根を上げない。


「明日休みだし、久々にプレイするか……あれ?」


 そういえばオカンの気配がしない。

 ここでやっと、茶の間の床に気を失って倒れているオカンを発見した。


「えええ、またぁあああああ!?」


 エルフは許容出来ても、猫娘はダメだったらしい。

 オカンの卒倒の基準が、俺にはよく解らない。



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