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第12話 オカンとの遭遇

 突き上げる衝動をなんとか抑えた俺は、そっと毛布をフィーリアにかけた。

 これは優しさではない。

 こんな目のやり場に困るモン、隠すに越したことはない。


 その時だった。ガチャッ……ガチャガチャ、キーッ。

 

 玄関から物音がする。

 鍵がかかっているドアを無理やり開けようとするのは、明らかにオカンのやり方だ。


 毎度毎度、どうして学習しないのか。


「こ・う・い・ち~、ママのお帰りよ~ん」

 

 とうとう、オカンが帰ってきてしまった。

 酒と上品な香水の匂いが、ほんのり茶の間まで流れてくる。

 いつまでたっても三十過ぎた息子にママと呼ばせたがる、オカンの悪ノリもいつも通りだ。


 さあどうする俺。何と説明すればよいのか……。


 ゲームからエルフが出てきて、ウチで飯食って寝てますと、正直に申告すればいいのか? 


 ……絶対にダメだ。話が滅茶苦茶ややこしくなることは目に見えている。


 とすれば、もうフィーリアの存在自体を隠し通すしかない。

 オカンにバレる前にアッチの世界に送り返せば……こっちのものだ。


 すべて丸く収めるにはそれしかない。


「光一~、ママがいなくて寂しかったでしょ~」

 

 オカンが靴を乱暴に脱ぎ散らす音がする。


「いい加減ママとか言うのやめろよオカン!」

 

 軽口を叩きつつも、冷や汗が背中をつたった。

 このまま茶の間に入ってこられたら一巻の終わりだ。

 慌てて玄関に出て、オカンがフィーリアを見ないようにさりげなく入口を塞ぐ。


 玄関で相対したオカンは、仕事帰りの常でベロベロに酔っていた。

 綺麗にまとめた髪はほつれ、派手めな服はヒラヒラと少しはだけている。


 ここで一つ諸君に伝えておくが、俺のオカンは一般的な尺度でいくとかなり可愛い熟女だ。


 低身長、童顔、高めのボイス。

 所謂「ロリ」の上玉である。


 ただ哀しいかな、俺はその魅力がまったくわからない。

 家にロリ人妻(離婚してるけど)がいても、食指など全く動かない。


 そらそうだ、オカンだからな。

 さて、このベロベロのオカンをどうやって茶の間に入れずにやりすごすか。

 その間にどうやってフィーリアを送り返すか。それが問題だ。


 平静を装いつつ、オカンの誘導にかかる。


「オカン、酒臭いわ。今すぐ風呂入れ」

「そんな寂しいこと言わないでよ~」

 

 オカンがべたべたとくっついてくる。

 酔うと甘えるのは昔からだ。挙句にほっぺにチューまでしようとする。


「やめろっウザい!」

「ええ、光一のイケズぅ。ちっちゃい頃はママ、ママってくっついて来たのにぃ」


「それちっちゃい頃だろ」

「うっふ~ん、ママのおっぱい飲んでた癖に~」


「それ赤ん坊の頃だろ」

「うふふ~ん、ママの……」


「もう喋るなメンドクサイ。早く風呂行けよ!」

「もう、冷たいんだからぁ」


 なんとかオカンの誘導に成功する。全く酔っ払いほど面倒なヤツはいない。

 オカンを見送ると慌てて茶の間に入り、毛布でフィーリアを隠した。


 オカンの風呂は長いから、その間にこの状況を打開しなくては。


「俺の部屋へ運んでしまえばバレねぇだろ……」

 

 万全を期して、毛布にフィーリアをくるみお姫様だっこの要領で抱え上げた。

 そろりと物音を立てないように、茶の間からの脱出を図る。


 しかしそこに、素っ裸のオカンが乱入してきやがったのだ。


「コウイチ~、シャンプーもう切れちゃってるぅ~」

 

 歯磨き粉で口を泡だらけにし、可愛い手拭いを肩から下げたオカンは上機嫌だ。

 俺は人一人分の重量の毛布を抱えたまま、まともにカチあってしまった。


 オカンはベロベロだからか、まだ俺の不自然な状況に気がついていない。


「このババア! ハダカでうろちょろすんな」

「ババアとは何よ、ママといえども女なのよ❤ そんな物言いするからオンナノコにもてないんじゃないのぉ?」


「うるせぇほっとけ」

「ねぇ、シャンプーの詰め替え知らなぁい?」


「風呂場の棚の中じゃねぇのか?」

「えぇ~、どこぉ~? 忘れちゃったぁ~」


「この酔っ払いが!」

「出してきてよぉ~」


「自分でやれ!」

「いいじゃんいいじゃぁん!」

 

 オカンは俺を風呂場に連れて行こうとする。

 フィーリアを抱えた俺は必死に抵抗した。

 

 オカンに揺さぶられ、毛布が落ちそうになる。

 

 ここで落としたら一巻の終わりだ。


「う……ん」

 

 この攻防に刺激されたのか、毛布がもぞもぞと動き始めた。

 流石のオカンも異変に気がついたらしい。


 急に酔いが冷めたのか静かになり、蠢く毛布の塊に警戒心を示し始める。


「……光一ぃ。その毛布何?」

「ええと……、これは……」


「動いてる」

「ほら、あれだよ。ゲームのアクセサリ」


「ゲーム?」

「そう、こうやって動くんだよ」


「そんなに大きなの、何に使うの?」

「ダイエット……、かな。落とさないように持つと、カロリーが消費されるんだ」

「光一って……可愛い女の子のゲーム以外、しない思ってた」

 

 オカンはこういう時、無駄に鋭い。

 フィーリアのモゾモゾが、更に大きくなる。


 もう限界だ! 何が何でも、オカンを突破しなくてはならない!


「とにかく、もう充電しないと壊れっから! 部屋行くわ!」

 

 意味不明な理由だが仕方がない。

 いぶかしむオカンの脇を、強引に突き進んだ。

 

 だが、運命は残酷だ。

 急ぐ俺の足もとに、3DLが転がっていたのに気がつかなかった。


 躓いた俺の腕から毛布が、こぼれ落ちる。


 カエサルの元に忍んだクレオパトラよろしく、フィーリアは毛布の中からクルクルと転がり出た。


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