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つぎはぎざあんでっど  作者: 風時々風
8/8

 俺はゆっくりと目を開ける。俺はちゃんと自分の事を覚えている。俺はもうキリツギじゃない。俺の名前は堂上トビーだ。

「起きた?」

 サラが俺の顔を覗き込んでいた。

「サラ」

「全部思い出した?」

「ああ。全部思い出した。なんといって良いのか。色々、悪かった」

「お互い様でしょ。キリツギなんて名前付けたり嘘の記憶を作ったりして私も酷い事色々してるし」

「キリツギは傑作だったよ。だが、それで良いのか? 責めたりしないのか?」

「うん。しない。そんな事より大丈夫? 辛くない?」

「意外と平気みたいだ。時間と経験して来た事が俺を良い方向に少しは変えてくれたみたいだ」

「そっか。それなら良かった」

「なんていうか、色々ありがとうな」

「もう良いよ。さっきも言ったけどお互い様なんだから」

 俺は上半身を起こすと、部屋の中を見回した。天井や壁やベッドに見覚えがあった。

「組織の研究所。覚えてる?」 

「ああ。覚えてる。なんだか懐かしい気がさえする」

 俺は自分の顔が自然と綻ぶのを感じた。

「懐かしい? ここが? 嫌な思い出ばかりなのに?」

 サラも笑顔になった。

「嫌な思い出ばかりでも懐かしく感じるんだって事を今知ったよ。そうだ。倫子はどうしてる?」

サラがすぐにマリサに変身して倫子を呼ぶと倫子が部屋の中に入って来る、倫子の名前を言いながらそんな場面を想像した。

「それなんだけど」

 サラが目を伏せながら押し黙った。

「なんだ? どうしたんだ? あの時か? 俺が死んだ後、何かあったのか?」

 まさか、怪我でもしてるのか? サラが残っていたから大丈夫だろうと勝手に安心しきっていたが、あんな状況だ。不測の事態が起きていても不思議じゃない。

「撃たれたとかじゃないの。あいつらには何もされなかった。でも」

 サラがそこまで言ってまた押し黙った。

「そんなに言い難い事なのか?」

「うん」

「心の事か? また発作が起きたとかか?」

 サラが何も言わずに小さく頭を左右に振った。

「らしくないじゃないか。俺の知ってるサラなら、いや、アクレイギアならもっとはっきりと言うはずだ。俺は大丈夫だ。言ってくれ」

 サラが話しやすいようにとできるだけ軽い口調で優しく言った。

「倫子は手術を受けた。前のキリツギと同じになったの」

 サラが聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声で告げた。

「今、なんて言った?」

 そう言わずにはいられなかった。聞こえてはいたし意味も分かってはいたがそう確認せずにはいられなかった。

「君の死を間近で見て倫子はマリサが死んだ時の事を思い出したみたいだった。それで、あの子、お兄ちゃんと同じにして欲しいって」

「どうしてだ? どうしてそんな事させたんだ? 無理だと言えば良かったじゃないか。そんな事はできないって」

 俺はサラに救いを求めるようにサラの肩を掴みながら言った。

「あの子、自分の頭を撃ち抜いたんだ。自殺しちゃったの」

 サラが伏せていた目を上げると涙で濡れた瞳を俺に向けて来た。

「普通で良かったじゃないか。ただ生き返らせて記憶を戻せば良かったんだ。どうしてキリツギみたいにしたんだ」

 俺はサラの肩から手を放し顔を俯けると誰に言うともなく言葉を床に叩き付けるようにして吐き出した。

「最初はそうしたの。そうしたらまた自殺したの。生き返る度にあの子は死んだ」

 そんな。そんな馬鹿な。あの時倫子は言ってたじゃないか。「はい。私は絶対にお兄ちゃんの事を忘れません。だから、大丈夫です」って。

「なんだこれ。こんな事ってあるか」

 俺は体を震わせながら頭を抱えて蹲った。

「ごめん。こんな能力を身に付けさせないで殺してしまおう、死なせてしまおうって何度も思った。けど、生きてれば、生き続けてさえいれば、いつか、君みたいに、今の君みたいになるかも知れないって」

 サラが俺の背中を抱いて来た。そうか。サラ。そうか。そう思ってくれたのか。そうだな。そういう可能性もある。

「ごめん。サラ。辛い思いをさせた。そうだな。俺がこんな風になれたんだ。倫子は頭の良いしっかりした子だ。きっと俺なんかよりも早く元に戻る。記憶の、思い出の大切さとか忘れちゃいけない事があるとかって事をちゃんと理解できるはずだ」

 俺は体を起こすとサラを抱き返した。

「私ね、もっと倫子に冷たくできるって思ってた。あの子に何かあっても平気だって思ってたの。けど、違ってた。自分で思ってるよりも倫子の存在が自分の中で大きくなってた」

「サラ。二人で倫子を変えて行かないか? 俺が倫子とマリサに会って変わって行ったように」

「君は私の傍にいる時は全然変わらなかったのに思い出すと腹が立つ。だから嫌だ」

「嫌だって、そんな」

 俺はサラを抱いている手を緩めると顔と体を動かしてサラの顔を見た。サラがにこっと微笑んだ。

「嘘。良いよ。三人で家族になろう。おかしな能力を持ったおかしな家族に」

「サラ。ありがとう」

倫子。大丈夫だ。きっと、いつかきっと、俺のようになれる。苦しい事も辛い事も受け入れて生きて行けるようにきっとなれる。マリサ。倫子の事は大丈夫だ。俺がしっかりとみてやる。一般市民にはできなかったが、俺が引き取る。あの街から出られるから。マリサと倫子がいたから俺は今の自分になれた。だから今度は俺が倫子を変える。絶対に変えてやる。


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