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先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
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迷走する初仕事

 着替えて、軽くメイクをし、電車に乗ってS駅に向かう。

 まだこの時間はラッシュの手前で、比較的空いていた。

 たまには早起きも悪くないのかなあ、なんてぼんやり思う。


 ビッグステーション、S駅からはスマホのナビを使った。

 一度訪れたら二度と忘れないだろう場所に先生のマンションがあった。

 駅から五分。とてつもなく、アクセスがいい。


 部屋の番号を確かめ、緊張しながらインターホンを押す。

「どうぞ~」

 声を確認して、ドアを開けた。


「失礼します。おはようございます」

「ああ、高宮くんおはよう」


 先生は、Tシャツに膝の出たデニムというラフな格好だった。

 うぬぬ、こういうスタイルも似合うのか……。


「ようこそ、我が城へ」

 おどけて手を広げる先生。

 城というには少し手狭だけれど、おおむね綺麗に片付いている。


 女性の気配は……、今のところ、なし。


「綺麗にしてらっしゃるんですね」

 わたしが褒めると、

「今はそう見えるかもしれないけど、資料とか運び込むとすぐ満杯になるんだよ」

 と返ってきた。


「これからも、午前中使って仕事の資料を探しに行こうと思ってて、

 きみにはそれに付き合ってもらいたいんだが……」

 ふと言葉を止めて、眉をひそめる先生。


 わたしのことを、じろじろと見る。

「うーん……」


「な、なんですか、先生?」

「決めた。

 きみのその服を、先になんとかしよう」


「なんとかって……。

 午後からの講義のことを考えて、普段着で来たんですけど」

 ちょっとムッとして、わたしは言い返す。


「ぼくがそれじゃあ、仕事をやる気にならんのよ」

 先生は、奇妙な理屈をこねた。

「さあ、行こう」

 わたしの背中を押して、先生はドアを閉めた。


 地下一階にある駐車場で、車に乗りこむ。

 車種は、最新型のプリウス。確か普通に買うと何か月だか待たされるはず。


「きみ、免許は?」

 エンジンをかけて先生がきく。

「取ってません。受験で時間がありませんでしたから」

「じゃあ、夏休みに取ってもらおう」

「えっ、そんなお金ないですよ?」

「ぼくが出すし、教習所も手配するよ」

 先生が車を発進させる。

「いいんですか?」

「だって、お酒飲んだときに運転してもらえるじゃない?」

 

 あー、そういう魂胆か……。

 こりゃ、本気でこき使われるな……。


「まぁ、それだけじゃない。きみの将来のためにもなるんだし」

 ゆるやかに滑り出すプリウス。

 わたしは思わず先生を意識してしまう。


「ちょっと、服屋に寄るよ」

 車は国道を進み、ほどなくして駐車場に吸い込まれた。


「えっ、ちょっと、ここって」

 わたしは驚いて、周りを見回す。

 確か、高級ブランドしか扱っていないショッピングセンターの地下だ。


「ほら、置いてくぞ」

 先生は慣れた様子で、エレベーターホールへと歩いていってしまう。


「で、でも、まだ、開店前ですよ?」

 チーンと音を立てて、エレベーターがやってくる。

「いいの、いいの」

 先生はさっさと乗りこむ。わたしも慌てて続く。


 二階で下り、開店準備中のフロアを歩く。

 一角にある店で、先生は足を止めた。


「おはようございまーす」

 慣れた様子で、店内に声をかける。

「あら、先生!」

 華やいだ声で、ひとりの女性が顔を出し、駆け寄ってくる。

「いつもありがとうございます。

 今日はどうなさったんですか?」


「いや、この子に服を見繕ってあげてほしいんだ」

 先生は親指で、わたしを指した。


「まあ、可愛らしい。

 先生の新しいガールフレンド?」


「いや、新しいアシスタント」

 さらっという先生に、わたしはなぜか一撃を食らわせたくなる。


「こちらへどうぞ」


 案内されて、シャッターをくぐる。


 わぁ、素敵!

 最新流行の服ばかり!


 でも、お値段は……。

 一瞬では零の数が数え切れません……。


「ねえねえ、これなんかどうかな?」

 先生のはしゃいだ声に振り向き、わたしは激しく噴き出した。


「ビスチェと超ミニスカって!

 下着みたいなものじゃないですか!」


「えー、似合うと思ったんだけどなー」

 このセクハラオヤジ……。


「こちらはいかがでしょう?」

「あー、じゃ、そのへんを試着させてやって」

 わたしは何着かの服とともに、試着室に詰め込まれた。

 



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