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先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
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衝撃の提案!?

「そんなことありませんっ!」


 気がついたら、叫んでいた。

 頭が熱くなっている。


「先生は、世の中から必要とされています!

 確かに今、先生のお書きになるようなわかりにくいものは、読まれにくくなっているかもしれません。

 でも先生だって、文体を変えたり、新しいジャンルに挑まれたり、

 いろいろなさっているじゃありませんか!

 文学のかたちが大きく変わるときには、そういった文学者の模索が必要なんです!

 先生だって、文学の可能性を信じているのでしょう?!

 だから文学に固執して、書き続けていらっしゃるのでしょう?!

 わたしみたいな長年の読者は確実にいるんです!

 読者の立場まで無視しないでください!

 先生には、読者に向き合って作品を書き続ける責任があるんです!

 その責任がある以上……、


 先生は、オワコンなんかじゃありませんっ!」


 肩で息をしながら、先生を凝視する。

 先生は、目を見開いて、わたしを見つめている。


 その瞳が、ゆっくりと穏やかに動いたとき、エレベーターが一階に着いた。


 失礼します、と一礼して、駆け出す。


 胸が痛い。

 長谷川先生が、あんなネガティブなことを無関係な学生にぶつけるひとだったなんて、知らなかった。


 なにがあったのかは知らない。

 先生の苦しみや心の中まで、わたしがのぞき込めるわけがない。


 でも、はっきりいって、さっきの発言は読者を見くびっているとしか受け取れなかった。

 だからこそわたしは、過剰反応してしまったのだ。


 長年の、愛読者として。


 駅の近くまで、がむしゃらに走った。

 ただただ、からだが疲れることを欲していた。


 少し頭が冷えた。

 さっき先生にぶつけた言葉を、脳内でリピートしてみる。


「……あーっ!」

 恥ずかしさに、身もだえした。


 正直、何様だと思われたに決まってる!

 これから相手にしてもらえないかもしれない……!


 ほかの誰もあの場にいなくてよかった……。

 

 こんなこと、綾乃ちゃんにだって打ち明けられない……。


 そのまま、わたしは帰宅した。

 途中で綾乃ちゃんにはメッセージを送ったけれど、先生については触れずにおいた。



 数日後。

 学生専用のメールアドレスにメールが届いており、わたしはスマホでそれを開いた。


「なになに……。

 今日の五時限目に、長谷川研究室まで来ること。

 って、

 えええええええ!?」


 なんじゃそりゃあ!

 呼び出しをくらうほど、わたしの言動が失礼だったのか?!


 土下座か?!

 土下座を迫られるのか?!


 拒絶することもできず、わたしは時間通りに、研究室を再訪した。

 恐怖におびえながら……。


 ひとりで突撃するのが、こんなにつらいものだったなんて、知らなかったよ……。


 ノックを二回。

「失礼します」

 できるだけしおらしい声をつくる。


「あー、高宮くん、いらっしゃい」

 先生じきじきのお出迎え。


 ……え?

 怒って……ない?


「コーヒー淹れたから、そこに座って~」

 鼻歌を歌いながら、カップにコーヒーを注ぐ先生。


 な、なにこれ?

 まるでこの前とテンションが違う……。


 ……はっ!

 なにか企んでいるのではっ?!


「どうぞ♪」

「あっ、ありがとうございます」


 コーヒーカップを口に運ぶ。

 あら、美味しい。


「この豆、有名店で仕入れてきたんだよ~。美味しいでしょう?」

「そうなんですか~、道理で……」


 へらっと笑い合ってから、わたしは顔を引き締める。


「この前は、失礼しましたっ!」

 とりあえず、頭を下げておく。

「先生の前で、自説を展開するなんて、身の程を知らないことをしてしまって!」


「あー、もうそれはいいの」


「……は?」


「今日は、そんなことで呼び出したわけじゃあないんだから。

 別にぼく、怒ったわけでもないし」


「は、はぁ……」

 じゃあ、なんでわたしはここに……。


「相談があるんだよ」


 先生は、とびきりの笑顔をよこしてみせる。


「きみ、ぼくの秘書にならない?」






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