表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
3/26

はじめての講義

 週明けの月曜日は、この時期にしては驚くほどあたたかかった。

 桜はもう散り始めており、お花見をするのなら今のうちよ! とわたしたちを急き立てている。


「おはようございます!」

 うしろから軽く肩を叩かれる。

 

「おはよう」

 綾乃ちゃんだ。

 笑顔がこぼれんばかりにまぶしい。


「いよいよ、今日から講義ですね!」

「そうだね」

 履修登録は、ネットで先週のうちに済ませたのである。


「しかも……」

『長谷川先生の!』

 きゃーっ、と歓声を挙げて盛り上がるわたしたちを、先を急ぐ学生たちがよけていく。


 予鈴が遠くから聞こえる。


「急ごう!」

「急ぎましょう!」

 

 わたしたちは、走り出した。


 大教室に着いたとき、先生の姿はまだなかった。

 口の中で、セーフとつぶやく。

 初回の講義から遅刻はまずい。先生に悪印象を与えてしまう。


 それよりも……。

「ひとの数、少なくない?」

「そうですわね……」


 ぐるっと見渡して、数えられるほどしか、学生が入っていなかった。


「不人気の講義なのかな……」

 ネット情報では、単位は取りやすいという話だったから、わたしたち以外のひとにもアピールするはずなのだけど。

 首をひねりながら、ガラガラの席の最前列に座った。


 そのとき、ドアが音を立てて開いた。


「!」

 わたしたちふたりは、目を見ひらいてフリーズする。


 長谷川先生だ!

 こんなに近くに! しかも本物!


 シャツにカーディガン、ヴィンテージデニムというラフな服装が、鼻血が出そうなほど似合っている。


「えーと」

 先生は、教室を見まわして、なぜか苦笑のようなものをもらした。


「それでは、今日はガイダンスということですので……」

 表情を引き締めて、ペーパーを読み始める。

「講義は一年間、全三十回を予定しています。これだけ時間があれば、たいていのことはできる」


 そして、プリントを配り始める。


 課題図書一覧と書かれたプリントを見ると、長谷川作品に触れたことのあるひとなら、なじみのある本ばかりだった。


「一年かけて、最低でもこれくらいは常識と思って、読んでください」


 もしかして、この義務化した読書が、講義の不人気につながっているのだろうか?

 そうだとしたら、長谷川ファンであるわたしたちは、ラッキーなのでは……。


「それでは、講義の内容について、ざっと説明します」


 ノートをとりながら、先生を見つめる。

 憧れのひとを凝視できる幸せにうち震えながら。


 ああ、本当に大学に受かって、よかった……!


 喜びをかみしめていると、音楽によって講義の終了が告げられる。

 えっ、もうそんな時間!?


「ああ、あっという間でしたわね……」

 綾乃ちゃんのつぶやきにも、実感がこもっている。


 先生は、呼び止める間もなく、さっと教室を退出してしまう。

 まあ、声をかける勇気なんて、ないけどさ……。


「移動しないといけませんわ……」

「綾乃ちゃん、二時限目なに?」

「文化人類学です」

「あ、わたしも」


 荷物を手に、教室を出ようとしていると、


「ちょっといいかな、きみたち」


 背後から男のひとの声が聞こえた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ