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先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
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何年かぶりの恋

「先生は、今日はどちらへ?」

「大学だと思う。

 秋からの講義の準備のはず」


 わたしたちは、電車に乗る。

 綾乃ちゃんは、眉間にしわを寄せて黙り込んでしまっている。


 さっきの剣幕では、相当先生のことを怒っているようだ。

 いまのわたしにない気力を持ってくれている。


 本気で自分のために怒ってくれるひとがいるのが、こんなに頼もしいなんて、知らなかった。


 でも、綾乃ちゃんは、このままわたしと先生がどうにかなってしまってもいいのだろうか。

 それは、愚問か。


 回らない頭で考えているうちに、学校のある駅についてしまった。


 綾乃ちゃんは、音を立てそうな勢いで大学に入っていく。

 目指すは先生の研究室。


「長谷川先生!」

 ノックもせずに、ドアをバン! と開けてしまう。


「あ……え?」

 わたしたちふたりを見て、先生が当惑している。

 顔色がいい。もう、すっかりお元気のようだ。


「先生、いのりちゃんをなんだと思ってるんです?」

「え、と、西園寺くんだったっけ」

「そうです。そんなことより、ここではっきりさせてください」

 先生は、いのりちゃんを好きなんでしょう……と綾乃ちゃんが詰め寄る。

「いのりちゃんを苦労させたり、悲しませるのは、このわたし!

 西園寺綾乃が許しません!」

 

 どこまで話したんだ、と先生が、戸惑ったままわたしに目で訴えてくる。

 ごめんなさい、全部です、とわたしも視線と態度で返す。


「……わかったよ」

 先生は、ため息ひとつ。

「西園寺くんは、外に出ていて。照れくさいから」


 綾乃ちゃんは、安堵と絶望が入り混じった顔を一瞬だけ見せた。

 きびすを返し、素早く、部屋から出ていく。


 すれ違うとき、わたしの手に触れた。

 この感触は、忘れないでおこう。


「いのり」

 名前で呼ばれ、飛び上がって「はい!」と返事をした。


「ぼくは、自意識過剰だ」

「はい」

「おまけに、基本自分のことしか考えていない」

「知ってます」

「モラルも、デリカシーもあまりない」

「そうですね」

「ひとを傷つけて、楽しむという悪癖もある」

「よくわかってらっしゃいますね」


「そんなぼくとでも、付き合ってもらえるだろうか」


「……はい」


「よかった」

 何年ぶりの恋だろう、と先生は微笑んだ。


 そっと近づいて、手に手を重ねる。

 もう火のような熱さは、その手のひらにはなかった。




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