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先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
25/26

親友

 心ここに在らずという状態のまま、のろのろとハンドバッグを拾い、先生の部屋を出る。


 拒絶された。

 気持ちの整理などまったくできやしない。


 とにかく、帰ろう。

 そう思った瞬間、スマホに着信があった。

 綾乃ちゃんだ。


『あれからどうしました?

 心配しています』

 胸にこみあげるものがあった。


『綾乃ちゃん、今から会えないかな』

『いいですよ。

 迎えに出ましょうか?』

『こちらから行くから、待ってて』


 最寄り駅が、都心の一等地であることは知っている。


 地下鉄で向かうことにする。

 不機嫌になるくらい暑い日だから、地下に潜るくらいがちょうどいい。


 送られてきた地図情報を頼りに、綾乃ちゃんの家を目指す。


 想像していたのは大邸宅だったが、

「あれ……?」

 建っていたのは高層マンション。


 オートロックを解除してもらい、中に入る。


 最上階が、三十六階って……。

 そこが綾乃ちゃんの家らしい。


 エレベーターが、なめらかに到着する。

「いのりちゃん」

 ドアが開くなり、綾乃ちゃんが待ち構えていた。


「綾乃ちゃん」

 最初に謝った。

「いろいろと黙っていて、ごめんなさい」


「いいんですわよ、そんなこと」

 綾乃ちゃんは、ちょっと複雑そうではあるものの、笑ってくれた。

「こちらにどうぞ」


 いきなり、大展望を誇る部屋に通された。

 天気がよければ、富士山まで臨めるのではないだろうか。


「なにも召し上がっていないのでしょう」

 かなめちゃんは、お昼を用意してくれていた。

 もうそんな時間なのかと思ったけれど、食欲はまるでない。


 断って、アイスミルクティーをいただきながら、事情を話した。


 先生の秘書的な仕事をしていたこと。

 先生に事情があったこと。

 先生の病気、さっき先生に言われたこと。


 かなめちゃんは、真剣にこちらのいうことを聞いてくれていた。

 ときに顔を赤らめ、ときに呆れ、ときに微笑み、ときに眉をひそめながら。


 話し終えて、グラスを干してしまうと、徒労感が疲労に変わった。


 綾乃ちゃんは、膝のうえにおいた自分の手のひらのなかをのぞきこんでいる。


「……許せません」

 やがて、彼女は声を絞り出した。


「先生が、許せません!」

 綾乃ちゃんが、突然テ―ブルを平手でたたいた。

「確かに、ご家族にいろいろご不幸があったのは、お気の毒だと思います。

 でも!

 それを口実に、いのりちゃんの気持ちまで引っ掻き回すだけしておいて、突き放すなんて!」


 わたしはただただびっくりして、綾乃ちゃんを見つめていた。


「先生は、利己的すぎます!

 結局、自分がかわいくて、これ以上傷つきたくないんじゃないですか!

 自分がだれかを不幸にする?

 笑ってしまいますわ!


 先生しか、いのりちゃんを幸せにできるひとは、いませんのに!」


 綾乃ちゃんは、涙ぐんでいる。

 わたしは、彼女が友達でよかったと思った。


「行きますわよ」

 すっと立ち上がる綾乃ちゃん。

「え、どこへ?」

「決まってますわ。先生のところへです」


「わたしの大切なお友達を、傷つけるひとは、誰であっても許せません」

 綾乃ちゃんは、今まで見たことのないくらい、怖い顔をしていた。

 






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