ふたりの告白
先生の部屋に戻って、残りのケーキを全部いただいてしまった。
食の快楽に酔うというのはこういうことだ。
先生は、ケーキとビールをチャンポンにして口に入れている。
目で見ても酔っぱらっているのがわかるレベルで、ちょっと心配になる。
「あんまり食べると、太るよ」
先生からきついお言葉。
「今晩は特別ですから」
わたしは開き直った。
「あ、ちょっと待って」
先生が、急接近してくる。
「!」
「クリームがついてた」
先生は人差し指でわたしの口もとを拭うと、自分の舌でぺろりとやった。
今のは、間接キス……だよね。
って、わたしは中学生か?
酒盛りがひと段落したところで、わたしは本題にはいった。
「先生、ちょっとお話したいことがあります」
居住まいを正すわたし。
「さっきの、変な反応についてなんですけど」
「うん」
「わたしの両親は、実の親ではないんです」
わたしは、語り始めた。
「本当の両親は、交通事故でいっぺんに亡くなりました。
まだ、わたしが二歳のときでした。
父の姉夫婦に、たまたま子どもがいなくて、わたしはそこに養子として引き取られました。
何不自由もない暮らしをさせてもらったんです。
物心つく前でしたから、なんの疑いもなく。
でも、一年後、ふたりの間に子どもができて。
わたしはそれから、ひどい疎外感を味わいました。
この感情がどこからくるのか、最初は見当もつかなかったけれど、
今思うと、幼いなりに本能的に察していたんでしょうね。
中学生のときには、自分の境遇をはっきりと認識していました。
義母から、事情を説明されていたということもあります。
いとこにあたる子は、わたしよりすべてにおいて、能力で勝っていました。
勉強も、芸術分野も、スポーツも、友人関係も。
平等に愛するという建て前があっても、やはり、実の子どもに目がいくものです。
わたしの疎外感は、はっきりしました。
自分が邪魔ものだという考えが、頭から離れなかった。
義父からは、一枚の写真をもらっていました。
事故に遭う直前に撮られた、両親と、わたしの写真です。
本当に幸せそうな一家でした。
わたしひとり生き残ってしまったという後悔があって、ずいぶん苦しみました。
もし、わたしがこの写真に写っていなかったら。
両親は助かったのかもしれない……。
そんな妄想めいた考えが、わたしを離しませんでした。
妄想とわかっていても、呪縛は解けないままで……。
わたしと写ったひとは、不幸になるのではないか、そう思い込むようになったんです。
だから、わたしは写真が苦手なんです」
先生まで、不幸にしてしまいそうな気がしたから。
先生は、じっとわたしを見ていた。
そして、ひとつため息をついて、
「……そうか」
と、ぽつりといった。
「きみは、なにかを抱えているとは思っていたけど……。
なかなか、つらい思いをしてきたんだね」
わかってもらえた、という安堵感が、わたしの心を満たす。
「考えてみれば、きみのことを、ぼくはほとんど知らないんだなあ」
先生は、まじめな顔でいう。
わたしも、先生のことを、まったく知らない。
いくら同じ時間を過ごしたといっても、わからないものはわからない。
「うーん……」
先生は、頭をぽりぽりとかいたあと、こちらに視線をやる。
「考えたんだけど」
「ぼくと、付き合ってみないか」
「先生、酔ってらっしゃいますよ」
わたしは、なんとかかわそうとする。
胸の高鳴りがうるさい。
「こんなこと、しらふではいえないよ」
先生は、苦笑した。
「きみさえよければ……。
考えておいてほしい」
……本気、なのだろうか?
「ぼくは、きみのこと……
ぼおえっ!」
「なっ、先生?!」
「気持ち悪い……!」
先生の顔色が、紫色になった。
「生クリームと、ビールと、ワインが、胃のなかでカクテルに……」
「先生、せめて洗面所に……!
ぎゃあああっ!」
ロマンティックな夜は、終わった。




