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先生の秘書になりました。  作者: 佐島楓
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謎と、恋のはじまり

 門を通り、自分の部屋の鍵を開ける。

 決して広くはないが、生活ができる最小限のものがそろった空間が現れる。


 事情があって、わたしはこの部屋にひとりで住んでいる。

 家族と話すことはないわけではないが、たいていの場合孤独に勉強している。


 家族は離れのきちんとした住宅にいる。

 わたしが帰ってきたら、部屋の明かりをつけるのが決まり。それが生存確認になっている。


 わたしは荷物を置き、部屋の一角を占める本棚に近づく。

 どうしても今晩のうちに自分の頭で考えておきたいことがあった。


 長谷川先生の本だけ、棚の前面に出してあるコーナーがある。

 きちっと発刊年代順に並べ、日に焼けないように気を使ってもいる。


 この本たちを、わたしは、暗唱できるくらい読みこんできた。


 先生は、二十年前、大学入学と同時にデビューしている。

 それから出された本は、いち、に、さん……、四十冊。

 内訳は、小説が二十五冊、エッセイなどが十五冊。


 年代でいうと、先生が三十歳になられた八年前までに、小説が十冊、エッセイが二冊。

 これには、先生の代表作となる、「魔法少女三部作」が全巻含まれる。


 ターニングポイントとなっているのは、いち読者の意見ではあるけれど、その三十歳前後のように思う。

 作風ががらりと変わり、それまですべてハッピーエンドだった作品が、バッドエンドばかりになったのだ。


 具体的には、恋愛に成功し、幸せを手に入れる主人公という展開が大半だったものが、

 失恋し、死を選んだり、病魔に侵されるというものばかりになってしまった。


 読者は、それを境に急速に離れていった。

 やはり読んでいて、幸せな気持ちになりたいという身勝手な欲求をもつ読者が多かったのだろう。


 それだけではない。

 八年前から、刊行点数は増えているものの、作品としてのクオリティは下がっている。

 多くの批評家や、読者のブログ、レビューで指摘されているため、ファンには周知の事実だ。


 それに負けないという宣言のように、先生は仕事を増やしていく。

 テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の取材を断らなくなり、大学の教授の地位も手に入れた。


 よくいえば、精力的に仕事をしている。

 悪くいえば、まるで生き急ぐようなペースで、がむしゃらに活動をしている。


 この、八年前という点が意味するところは、なんなのだろう。


 これは、考えてみてもわかるわけもない。

 例えエッセイであっても、先生は、現実を遊離したような文章しか書かないのだから。


 これから先生のそばにいて、この答えを教えてもらえる日は、来るのだろうか。


 そこまで考え続けて、わたしは、先生のことをまるで知らないことに、ようやく気づいた。


 今まで見ていた先生は、あくまで小説家としての長谷川真だった。

 わたしの頭の中で、作品と一体化していて、そこからはみ出ることはなかった。


 でも、今わたしが知りたいと思っているのは、

 そんな表面的なものではない、血の通った、ひとりの男性なのだった。


 動揺した。

 まるでこれでは、恋だ。


 どうすればいいのだろう。

 混乱したままわたしは、先生の本を読み続け、朝日が出るころにようやくベッドにもぐりこみ、とろとろとまどろんだ。





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