改革の始め
大震災から六年です。
亡くなった方々に平穏を
震災を生き残った方々に希望あらんことを...
1935年1月5日日曜日午前10時45分
帝都東京 御所 第一会議室
そこには扶桑帝国の国政を担う大臣や軍人達が、円卓のようなテーブルの周りに座り皇帝が来るのを話しながら待っていた
「皇帝陛下はなぜ我らを召集したのだろうか?」
茶色の軍服を着た筆髭が特徴的な中年男性がそう疑問の声を出すと
「わからんな、陛下は突拍子もないことを平然とやってしまうからなぁ...しかもそれが国益になるから放置も出来ないからなあ」
白い軍服を着たがっちりとした中年男性がそう答えると
「石原陸軍大臣に島郷海軍大臣、その言葉不敬に当たりかねませんぞ? まああの陛下は気にしないでしょうが。」
スーツを着て眼鏡を掛けたまさしく内政屋と言わんばかりの中年男性がそう軽く戒めた
そしてそこに
「そうじゃ、気にせんから好き勝手言うがいい、公式の場以外での。」
和服を着こなし心なしか肌の艶が良く上機嫌な神楽が、護衛の近衛二人と近衛の特徴的な緑色の軍服を身にまとった直哉を引き連れて入って来た
座っていた大臣達は立ち上がろうとしたが神楽はそれを手で止め上座に座った、近衛二人と直哉は神楽の背後に立とうとしたが神楽は
「これ直哉、お主はわらわの隣に座れ。」
と無理矢理座らせた
それに出席者たちはどういうことかと耳を疑ったが、神楽の
「こやつは神隠しの人間じゃ、わらわの近衛武官兼宰相にする!」
という宣言に納得と呆れた溜息を出した、ただ次の言葉には
「それと直哉をわらわの夫候補一番にするからよろしくの! 純潔もこいつにくれてやったわい!」
『何言ってるんだこのアホ皇帝』
と仮面が剥がれ落ちて罵倒した
それに直哉は
「(思ったの俺だけじゃなかったか)」
と半分放心状態で能天気に思っていた
その間も
「おいもう仮面は外すぞ...馬鹿かお前!」
「なんてことを! 他の皇族...って誰も特に気にしなさそうなのばっかだ!」
「ああ、国民に何て説明すれば...あ、神隠しで来た事も公表したらいけるか。」
「納得すんじゃねぇ! 幾ら何でも...いや、大丈夫かもしれんな。」
大臣達は混乱しながらも慣れたように対策を立ててくあたり、神楽の無茶ぶりに振り回されている事がよくわかり哀愁を漂わせていた
それに直哉は同情する様に声を掛けた
「苦労なされてるんですね...」
『ええ、たくさん苦労してます...』
大臣達も疲れ果てたように返した
もはや会議の雰囲気ではなくなったが、神楽の言葉で
「話は終わったかの、では直哉、お主が知る歴史を話してみよ、そしてこの国が焼け野原にならないように行動していこうかの。」
そんな空気は消し飛んだ
一瞬で国を守る指導者に戻った大臣達を見た直哉は、覚悟を再確認して己が知る全ての事を話し始めた
その空気は、会議室に昼食を運び込んだ給仕が腰を抜かしかけるほど迫力があったという
そして直哉が全てを話し終えた時、時間は午後2時30分を回っていた
大臣達は皆沈黙しタバコを吸いながら真剣に考えていた
そしてその沈黙を石原と呼ばれた陸軍大臣が破った
「...そうか負けるか、幾ら資源があっても物量に押されて。」
直哉はそれに
「確かに自分が生まれた国日本はそうでした、陸軍は優秀でした、ただ海軍は頭が固く輸送の護衛を怠り資源不足に陥りました。」
と付け足した、島郷と呼ばれた海軍大臣も
「二の舞はしないようにせんといかんな...」
と覚悟を決めたように呟いた
外見内政屋の大臣も
「直哉君、私は内務省をまとめている黒崎という者だ、私は何をすれば良い、何をすればこの地を守れる!」
と覚悟決めて声を上げた
神楽はいつも浮かべている笑みを消して真面目な顔で
「ここにいる者達は直哉の話を聞いて想像できたようじゃな、確かに扶桑は強大じゃ、じゃがこのままでは同じく強大な国々に押しつぶされるじゃろう...わらわの考えを話す。」
出席者達は皆神楽に顔を向けた
「この国には領土的野心が無い...しかし諸外国は違う、あやつらは飢えておる、飽くなき野心は戦争を起こすじゃろう、わらわは外交で時間を稼ぎ国力を上げ軍を整えようと考えておる...諸君らの考えはいかに?」
神楽は周りを見渡した
「陸軍と致しましては陛下の考えに賛成です、何が何でも!」
「海軍も陸さんと同じです!」
「内務省も同じく、陛下の御心の侭に!」
「外務省も同じく!」
「近衛もであります!」
出席者達は目をぎらつかせながら答えた
神楽は満足そうに頷くと、控えていた近衛に資料を配らせた
「それは今朝会議が始まる前までに直哉が作ったものじゃ、直哉曰くまだ抜けている所があるかもしれないがこれからなすべき事を書いたものらしい、まだわらわも詳しくは見ておらんがな。」
大臣達は直哉の方を見た
直哉も頷きながら
「自分は本職ではありませんが微力を尽くします、追加などはしますが十分に書き出しました、それでは資料の一ページ目をご覧ください。」
直哉は会議室に用意されている黒板の横に立った
直哉のプレゼンが始まった






