最後の戦いへの準備
『3月21日、ガリア共和国単独講和』
1937年 3月21日
この報はすぐさま全世界を駆け巡った
ガリア共和国で戦っていた連合軍はブリティッシュ連合王国領グレート・ブリテン島やアフリカの連合陣営勢力支配下の地域への全軍の撤退を開始した
対する同盟軍も連合軍が撤退した後のガリア共和国領に進出し、現地のガリア共和国軍部隊や基地等の施設の武装解除や接収を開始した
ただそれに異を唱える者達も出て来たのは言うまでもない
「今ここに自由ガリアの設立を宣言する! 同盟の圧政に抵抗する同志達よ、集うのだ!」
ジャメル海軍中将を中心とした反同盟を掲げる軍部隊や戦犯として裁かれる軍人達や民間人達が政府の決定に反発し、反同盟抵抗組織『自由ガリア』の設立を宣言、装備や艦船を所持したまま連合軍の撤退に紛れ亡命を果たしたのである
亡命した彼等は連合王国や合衆国の港湾に集結し、編成や補給に艦船の修復などした後、連合陣営諸国の亡命政府として自由ガリアを設立させたのである
それに対して同盟陣営の反応は
『おいガリア、さっさと何とかしろよ、つかしろ。』
とガリア共和国に詰め寄ると同時に、各海岸線に要塞線を築くと同時に最後の大攻勢を行う準備を始めたのである
その参加兵力は自然に膠着状態に陥ったアフリカ戦線・ガリア降伏により消滅したヨーロッパ戦線の2戦線から抽出・移動させた陸上兵力2個軍団総数約21万を先発隊とし、その後方には13個軍団約130万が後方待機
海上戦力も各国の主力艦隊を中心に構成された艦隊だった、その内訳は
戦艦12隻
正規空母4隻
軽空母8隻
強襲揚陸母艦4隻
強襲揚陸戦艦2隻
重巡洋艦21隻
軽巡洋艦33隻
駆逐艦53隻
小型艦121艇
にも及ぶ統制すら困難な規模になった大艦隊だった、ヨーロッパ諸国特有の空母はあまり重視せず、攻撃能力継戦能力に優れた戦艦や小回りの利く小型艦を中心に揃えた艦隊戦力は圧巻と言わざる負えない規模だった
旧式艦も多いが、彼等の運用する艦艇の5分の2近くは扶桑帝国の造船所などで改修や造船、残った艦も戦争の被害の受けていないモスクワや他の同盟陣営の中小国の造船所などで改修や造船を行っており、十分に最新鋭艦と戦えるレベルになっていた
そんな大艦隊の内地中海から派遣されてきた艦隊は、古くから連合陣営であるブリティッシュ連合王国にジブラルタルを掠め取られ復讐の機会を狙っていたスペイン王国が同盟陣営に加入し連合陣営に対し宣戦布告した事により使用可能となったサンタンデール軍港に集結し、残りの北海・バルト海方面から派遣されてきた艦隊はゲルマン連邦帝国海軍主要港の1つヴィルヘルムスハーフェン軍港に集結し、3か月の準備期間を設けたのち出撃する事を決定し準備に入った
そして世界は再び極東の眠りし大国の力を知る事になる...
1937年4月3日午前11時
横須賀造船所 建造区画
「ほーら輝夜~、お船じゃぞ~」
「あい~」
今日この日艦艇の建造作業に勤しんでいた作業員達は赤ん坊を連れた女性を中心として入って来た一団...神楽とその供回りと護衛達を見て緊張を隠せないでいた
しかし緊張していたのは出稼ぎで地方から出て来た作業員達だけで、それ以外の地元出身者や熟練工達は
「おう神楽の姉さん、お久しぶりっす!」
「譲ちゃん久し振りだな!」
と気軽に声を掛けると、緊張で固まっている作業員達を軽く小突いて作業に戻っていった
付いて来ていたエルザ(つい先日荷物一式もって嫁入りして来た)はそんな様子を不思議そうに見ていた
直哉はそれに気付くと
「国外から来た人々はこの光景に最初は驚く、なんせ一般市民が気軽に皇帝に声を掛けれるんだからな、俺も驚いたさ...でも居心地は良いさ。」
とエルザに言うと、案内人として付いて来ていた建造区画責任者であるの真田建造長に話し掛け始めた
「建造は順調のようだな真田建造長、今は金剛型戦艦の後継艦の建造中か。」
「はい近衛武官殿、今まで後方支援用の艦船ばかり建造して参りましたので新型の電気溶接の訓練も済みました、今度からは正面戦力の拡充に努めています。」
直哉の言葉に真田は建造中であちこちから溶接の光が飛び散っているのを指で刺しながら紹介した
現在扶桑帝国海軍の艦隊決戦用の艦艇は開戦前に建造した物や比較的短期間で建造できる軽巡洋艦や駆逐艦を中心に構成されており、1航戦や2航戦や3航戦の空母などは総力を上げ建造をした為間に合ったが、それ以外の戦力はその半分を欧州派遣艦隊に送っており、残った半分も長い補給を支える航路の防衛・哨戒任務に充てており、正面戦力の数的主力を旧式艦が担う状況になっていたのである...そりゃ史実での間宮型給糧艦14隻に鷹野型給油艦20隻に強化済みの明石型工作艦20隻に加え、大量の戦時急造型の輸送艦や油槽艦にそれらを護衛する小型艦を乱造しているのである、それらの建造により後方支援体制は完璧を通り越している状態となっていた
そして現在はウルル大陸で産出される有り余る資源に物をいわせ、太平洋全域を領土としている扶桑帝国のありとあらゆる造船所で大量の艦船の建造が急ピッチで行われていた
将兵達の養成も行われており、それに伴い扶桑帝国軍は今までの怠惰を返上するかの如く急速に拡大を続けていた
「そうか、何とか決戦までに間に合うと良いが...」
「8時間3交代を行い3ヵ月で済ませます、内部の工事は完了し後は武装と電気系統の設置だけです...金剛型の設計を元に作り上げた6隻の伊勢型航空護衛戦艦、技術屋の意地に掛けて完成させて見せます。」
そんな話をしていると
「あい!」
「おっと、よしよし...」
神楽が近くに寄って来て輝夜を直哉に渡してきた、近くにいたエルザも顔をだらしなく笑顔を浮かべながら直哉の腕に抱かれている輝夜を撫で始めた
真田建造長はそれを横目で見ながら説明を続けた
「ほかにも伊400型潜水母艦の改良型である伊500型潜水空母、ゲルマン連邦帝国海軍のUボートXXI型の設計を元に作り上げた呂200型潜水艦の量産も順調です、既に伊500は5隻完成し呂500は30隻完成し慣熟航海中で、それ以外も伊500は7隻建造中で呂500は140以上が各地の小型造船所で建造中です。」
「新型の対艦駆逐艦と対艦巡洋艦はどうだ?」
撫でられてご機嫌な輝夜を見ながら直哉は尋ねた
「吹雪型対艦駆逐艦と白露型対艦駆逐艦にそれと妙高型対艦巡洋艦ですね、明日にでも完成して乗員の乗艦を開始できます。」
真田建造長の説明に直哉は頷くと
「さっさとこんなくだらない戦争を終わらせたいものだ。」
と真田建造長に話すとこっちこっちと手を振っている神楽の方へ歩いて行った
開戦前から着々と建設されてきてたり不景気によって閉鎖されていた造船所群は息を吹き返し、ウルル大陸から産出される膨大な鉱物資源は工場群で兵器や船舶の装甲や部品になり鉄道で造船所へ運ばれると、組み立てられ完成すると各地へ派遣されていった...現在建造中の艦船は大型艦こそそこそこだが中型艦小型艦は合衆国に僅かに及ばないという物量を展開し始めたのである、それにより同盟陣営諸国の消耗した海軍は急速に回復し始めたのである
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伊勢型航空護衛戦艦
旧式化した金剛型戦艦の後継艦として設計された最新鋭高速戦艦
その設計思想としては『高速空母を護衛できる速力と豊富な対空火力でもって空母を守る』という物であり、新型の対艦噴進誘導弾に対空噴進誘導弾を搭載する事で優れた戦闘能力持つに至った航空戦艦...しかし主砲は前部の1基のみで砲戦能力は下がってしまっている、後部には蒸気カタパルト付き逆V字型飛行甲板を設置する事で優れた離着艦能力を持つが、搭載機は基本的に艦上発進可能な水上機な為活用されることは少ない
中型クレーンも設置されている
艦載機はこれまた新型の水上ジェット攻撃機『マキエイⅡ』21機 水上高速対潜哨戒機『鵜』8機 37式水上飛行艇2機の計24機搭載し、主に対潜警戒を担う
またこの艦が就役すると同時に全ての艦艇に新型の射撃管制装置を中心に電気設備等の装備の更新を行っており様々な部分で高性能化に成功している
満載排水量40300t
全長242m
全幅52.7m
機関:ガ号ディーゼルエンジン7基 6万馬力
速力33ノット
武装:50口径42センチ3連装砲1基
零式40ミリ3連装機関砲8基24門
21式20ミリ連装3砲身回転機関砲18基36門
21式75ミリ速射防空砲6基
零式13.2ミリ連装重機関銃12基24丁
31式艦対空8連装小型噴進誘導弾6基
31式艦対艦誘導噴進弾8基
伊500型潜水空母
伊400型汎用潜水母艦の設計図を元に建造された潜水空母
魚雷発射管を装備せ自衛装備も装備していないという思い切った設計により潜水艦であるのに単艦で12機もの航空機を運用する事が出来るのに加え静粛性高いとかいうキチガイ潜水艦、ただデカい為目視で見つかりやすい
新開発の水上ジェット攻撃機『マキエイⅡ』や戦闘回転翼機『S―37К』を搭載する事になった
武装が無い為他の潜水艦等の護衛が必要
呂200型潜水艦
ゲルマン連邦帝国から生産を依頼されたUボートXXI型を技術者が勝手に拡大発展させ生まれた通商破壊兼強襲用攻撃潜水艦
1000tもの排水量の増加があったがその分潜水艦特有の居住性の悪さの改善に成功している、また史実では大問題になったトイレの共同使用による伝染病対策とアイスクリーム及びサイダーの製造設備の導入等も行われている
大量建造され、戦後の攻撃潜水艦の元祖となった
白露型対艦駆逐艦
後方支援体制の構築に力を入れ過ぎていた扶桑帝国海軍の対艦攻撃艦整備計画『○7計画』により建造された戦時急造型対艦駆逐艦
12基の魚雷発射管を装備し海上を37ノットで爆走するじゃじゃ馬であるこの艦は高速で敵艦隊に接近し射程外から長射程の酸素魚雷を斉射した後、接近し再装填した墳式魚雷を叩き込む高速駆逐艦となった
吹雪型対艦駆逐艦
白露型対艦駆逐艦を元に改造を加えた対艦駆逐艦
白露型が雷撃に特化しているのに対し、吹雪型はロケット弾攻撃に特化しているのが特徴
白露型と妙高型と戦列を組み、敵艦の上部構造物にロケット弾を叩き込み白露型の突撃を支援する為に生まれた高速駆逐艦
妙高型対艦巡洋艦
水雷戦隊の旗艦として設計された砲戦能力と電子戦能力に特化した高速巡洋艦
主に妨害電波で敵艦隊のレーダーを妨害し、20.3センチ速射連装砲4基8門から放たれる砲撃で水雷戦隊の突撃を支援する為に生まれた高速巡洋艦
実験艦兼支援巡洋艦として改造された天龍型支援巡洋艦のデータを元に建造されており、高い電子戦能力と居住性に加え高い砲戦能力から、後の同盟陣営諸国海軍の標準的巡洋艦の代名詞とされた
水上ジェット攻撃機『マキエイⅡ』
扶桑帝国軍が開戦前に合衆国の航空機開発競争に政治的要因で敗れ不採用となった航空機の設計図を買い取り、作り上げた高速水上攻撃機
1機当たりの値段は高いが、滑走距離が短く済むことなどから離島防衛を担う部隊や軽空母や潜水母艦を中心に配備された
500キロ爆弾か250キロ無誘導対地噴進弾2発を搭載する事が出来るのに加え、攻撃機という名前なのに新型の零式13.2ミリ重機関銃(ブローミング重機関銃の設計を元に開発された新型重機関銃)2丁と零式20ミリ機関砲(零式13.2ミリ機関銃を拡大発展させた機関砲)2門を搭載して制空任務も可能な艦載機
元々の開発名称はXF5Uというものだった
水上高速対潜哨戒機『鵜』BV 141
こちらもゲルマン連邦帝国での航空機開発競争において政治的要因で敗北した偵察機を水上機化したうえで艦載機化したもの
非対称機というイロモノでありながら視界性運動性共に高く『マキエイⅡ』と共に量産、配備された
元々の開発名称はBV-141である
37式水上飛行艇
二式大艇の設計を元に開発された大型飛行艇、電子戦装備と居住性が強化され哨戒任務には欠かせない存在となった
戦闘回転翼機『S―37К』シコルスキー S-58
モスクワ連邦のシコルスキー博士が開発した『S-37』というヘリコプターを改造して攻撃ヘリとしたもの
その高い汎用性から多数量産された
武装
通常型
零式13.2ミリ重機関銃3丁 側面に1丁づつ前方に1丁
攻撃型
零式13.2ミリ重機関銃3丁 側面に1丁づつ前方に1丁
赤外線式4連装対戦車誘導ロケット弾発射機2基8発
輸送型
無し
史実ではS-58として開発されたヘリコプター、この世界ではシコルスキーは合衆国に亡命していない




