連合軍北部戦線崩壊 ~パンツァ―ファウスト作戦 第101重機甲大隊~
1937年 2月8日
連合軍が北部にて反撃を開始してから6日後、地中海で起こった大規模海戦である通称『地中海大海戦』において連合国地中海艦隊が文字通り壊滅してから3日後である
4日に起きた戦艦同士の砲撃戦で敗北した連合国艦隊は、終結を終えた同盟国艦隊の空母群や陸上の飛行場から飛び立った航空機隊からの4度に亘る波状攻撃を受け、救助用に敢えて攻撃されなかった艦艇以外文字通り壊滅してしまったのである
その際に際立ったのは当時既に旧式機となっていた急降下爆撃機Ju87シュトゥーカに乗り込んでいたゲルマン連邦帝国空軍中将のハンス・ウルリッヒ・ルーデルだった
彼は4度に亘って行われた全ての波状攻撃とその合間に出撃し彼専用に用意された(てかルーデル以外機体性能が落ちすぎて使えない)1.4t爆弾(つかこれも双発爆撃機で要塞攻略支援する為に試作され、採用されずに信管を抜かれ倉庫で埃を被っていたのを引っ張り出してきた...彼の為だけに)で空母『エセックス』『アークロイヤル』の二隻のエレベーターを貫通し搭載されていた艦載機ごと事誘爆させて粉砕したのである
このニュースは連合国軍にとって恐怖であると同時に畏怖でもあったが、肝心の同盟国軍からは
『『『ルーデルが空母を二隻沈めた? あの男なら艦隊ごと壊滅させることできるだろうが。』』』
と半分呆れたような反応が返って来た
なんせルーデルは単独で戦車521輌・装甲車及びトラック700台以上・火砲100門以上の戦果を1931年から始まった大戦で上げており、両者共に親友だと公言しているゲルマン連邦帝国国家宰相のアドルフ・ヒトラー(ユダヤ人? ああ、戦友だけど? と公言している史実のイメージとは正反対の平等主義者兼元宮廷画家)やゲルマン連邦帝国皇帝ヴィルヘルム2世(この世界では退位する理由が無い名君)の二人から
「おいハンス、お前戦果上げ過ぎて賞金掛けられてるから後方で教官してくれよ、空軍の再建に協力してくれないか。」
「ルーデルよ、黙って空軍中将の位をやろう...わかるな?(意訳、中将にしてあげるから後方に下がってお願いだから)」
と言われたが
「やだね、後方で教えるよりも戦車吹き飛ばして牛乳飲んでた方が性に合ってる、てかお前いい加減子離れしろよ、もう18歳だろうが。」
「シュテファニーとの間にやっとこさ出来た子供だ、ワシが認めた男にしか渡さんに決まっておろうが!」
「宰相閣下、娘さんのアンネ様からです...『お父さん、いい加減ヨハンさんと結婚したいのでさっさとサインしてください。』との事です」
「...そうか、ありがとうエヴァ君(エヴァ・ブラウン、この世界では秘書をしている)...チクショウメエェェェ!!!!」
と誤魔化したり
「ありがとうございます皇帝陛下! この御恩に報いるべく敵機甲師団壊滅させてきます!」
「陛下! なんでルーデルに中将の階級をお与えになったのですか! もはや止められないじゃないですか!」
「やってしまった...すまないなアドルフ...」
「しょうがないのでもういっその事あいつに自由出撃の許可を与えますか...」
「...うむ、まかせる。」
と出撃したりして、次第に諦められた人物なのである
結果としてアメリゴ合衆国大統領のアナベルト・ルーズベルトから
『同盟の悪魔』『連合陣営の天敵』『民主主義最大の敵』
などと名指しで批判され1000万ドルにも及ぶ賞金を懸けられているのである
ともかくこの連合国地中海艦隊の壊滅の報は世界を駆け巡った
アフリカ大陸地中海沿岸の戦線は、ソコトラ島に建設された扶桑帝国海軍ソコトラ島臨時泊地で輸送航路防衛の任に付いていた空母『鳳翔』『龍驤』の第三航空戦隊を中心に構成されている第三航空艦隊が、損害を受けた第二航空艦隊と入れ替わる形で展開し地上戦力や港湾対する空爆作戦を展開し連合軍アフリカ方面軍はアフリカ北部戦線放棄を決定し、中央部に後退を開始したのである
そしてチュニス軍港にはローマ連邦軍第3海兵師団が上陸戦を開始したのである、当時連合軍は北部からの撤退を決めていたが、それは最前線からの段階的な後退を前提に考えられており、後方の軍港を失った際の事を考えていなかったのである
これには現場と後方の司令部との認識の違いが挙げられるだろう
司令部では
『チュニスには1個師団規模の防衛部隊と航空部隊が展開しているから大丈夫だろう。』
と考えられていたが
実際には現場の状態は酷い状態だった
夜間では前線飛行場から飛んで来た爆撃機からの空爆、昼間は浸透して来た特殊部隊からの破壊活動によって兵士達と装備は疲弊していたのである、その対策の為に送られるはずだった多数の重装備で固めた2個大隊規模の精鋭部隊は戦線防衛の為見送られてしまいいとも簡単に制圧されてしまったのである
後にチュニス軍港の防衛についていた司令官は
「あと2個大隊あれば1個師団程度上陸させなかったのに...」
と記者の取材に答えている
ともかくチュニス軍港を落とした同盟軍アフリカ方面軍は、ゲルマン連邦帝国軍所属の1個装甲師団とスルタン中東同盟軍所属の3個騎兵師団を上陸し後方を荒らしまくり、連合軍アフリカ方面軍は多数の熟練兵を失ってしまったのである、そしてその影響はヨーロッパの北部戦線にも影響をもたらす事になった...
1937年 2月8日 午前9時
ヨーロッパ ヘント 北部戦線最前線仮設司令部
地元のホテルを接収して設置された仮設司令部で一人のガリア共和国陸軍中将が一人うなだれていた、周りでは他の参謀や司令官達、そして兵士達が忙しそうに指示を出したり動いたりしていたがその中将...シャルル・ド・ゴール中将は何故こうなったかわからずに大混乱を引き起こし機能不全に陥っていた
本来なら周りの参謀達がそれを止めるべきなのだろうが、参謀達も状況が掴みきれていない為、誰も彼を責められずにいたのである
「どうしてこうなった...どうしてこうなった...」
ド・ゴールの脳内には開戦前の会議がよぎっていた
その会議では国内の政治的混乱を戦争によって収めようと考えている政府と戦果を上げて更なる予算を獲得したいと考えている軍部の通称『開戦派』の思惑が渦巻いており、会議出席者の大半は開戦に同意しておりド・ゴールも開戦派だった、しかし少人数の有力者からは反対の意見が出ていたのである
その筆頭は当時の参謀次官だったモーリス・ガムラン中将だろう、彼は昔梅毒を発症していたが幸運にも快方に向かっており軍務には支障なかったのである、ガムランは
「確かに我が国は15年前に起こったゲルマンとの紛争で勝利しているが、既に兵器や戦術も進化していると同時にモスクワ連邦とは強固な友好関係を構築しており、仮に奇襲攻撃を行い国土の半分以上を占領する事が出来たとしても亡命政府が出来るかギリギリの所で踏ん張って反撃してくる恐れがある!」
と反論し、反戦の意思を表明したが、それを疎まれ開戦前に地中海沿岸の小規模基地に左遷させられていた
ド・ゴールにはその時のガムランの怒りと悲しみがごちゃ混ぜになったような表情を思い出していた
そして何とか精神を持ち直すと
「心配をかけたな、状況を教えてくれ!」
と参謀達に声を掛けた
参謀達は
「良かった、戻られましたね!」
「了解いたしました、現在我が北部方面軍の攻勢は敵同盟軍の厚い防衛線により停止、それに伴い突出した我が北部方面軍の側面から敵同盟軍中部方面軍から攻撃を受けております。」
「現時点では側面防衛線は仮設ではありますが完成し完全に防ぎきっております...ただ」
口々に安堵の声と報告を口にした、ただ1人の参謀は顔を沈ませると
「フソウが動きました、南方より派遣されて来た1個機甲師団に加えを支援部隊に多数の諸兵科連合部隊計5師団が続く大戦力を用意し真正面から戦列を組み前進しています、側面を防御している部隊を除いた我が方の戦力は消耗した2個機甲師団と歩兵8個師団です。」
と報告した
ド・ゴールはそれに
「わかった、ではその戦力で防衛線を引け、本国にいる予備部隊を動かしてもらう...それまで何としても耐えるぞ。」
と目に戦意をたぎらせながら参謀に指示を出した
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1937年 2月8日 午前10時
ヨーロッパ北部 最前線 ブリュッセル
ド・ゴールからの命令が最前線に伝わった頃、北部にて待機していた扶桑帝国軍も動こうとしていた
270両の戦車(10両のオイ車、70両のチリ、15両のオニ車、ゲルマン帝国軍から提供された10両の4号戦車G型、60両のオロ車、残りの90両全てがシロ、4号を除く全ての戦車には対空砲や榴弾砲に加えロケット砲等乗っけた現地改造型等も含まれている)とその乗員2500名にそれらを整備する整備兵2000名を基幹に、榴弾砲やロケット砲等の4個支援重砲大隊と6個補給大隊他5個大隊で構成されている扶桑帝国史上初めて拡大編成された総数19,500名総車両数1000両を超える大規模機甲師団である『第7機甲師団』、その師団長車であるオロ車から降りた牟田口廉也准将と山下奉天大将は前線司令部に待機していた、彼等は現在市街地近郊の平原地帯で他の5個師団規模にまで増強された扶桑帝国陸軍欧州派遣軍所属の歩兵部隊と共にある機甲大隊を待っていた
「もうそろそろだが...」
「迎えには辻の歩兵連隊を護衛も兼ねて行かせております、問題ないでしょう。」
腕時計を見ながら呟いた山下の呟きに牟田口はそう答えた
そしてそれから30分程時間が経ち、山下が捜索部隊を送り出そうとした時
「報告! 辻政信大佐率いる歩兵連隊確認! 更に後方に大隊規模の機甲部隊も確認しました!」
砲撃観測用に何をトチ狂ったのか戦闘によって破損した主砲を外して鉄パイプ等の廃材を使って10メートル程の監視塔を設置した現地改造型(対空擬装済み)のオイ車で付近の警戒を行っていた監視兵から報告が入った
そして暫くすると後方から人員や物資輸送用の輸送型や対空機銃や対空機関砲を搭載し自走対空砲代わりにされているのも合わせて378両のトラックと56両の装甲車を足代わりに使っている約5000名近い完全充足の歩兵連隊『第25装甲歩兵師団所属第一歩兵連隊』が到着し
そしてすぐに対軽装甲や対歩兵用なのか20両の3号火炎放射戦車と対戦車用の35両の4号戦車J型に10両の5号戦車2型(主砲の88ミリ砲は高射砲の改造型から新型の砲に変わり軽量化されて他にも使用資源の高品質化等もされ稼働率が改善している)や5両のヤークトティーガー(これも5号と同じ変更がされて稼働率が改善されている)そして対空用に10両のヴィルベルヴィントと5両のクーゲルブリッツが配備されており、開戦時に大被害を受け再建が進むゲルマン連邦帝国陸軍において最精鋭機甲部隊とされている『第101重機甲大隊』通称『バルクホルン大隊』がやって来た
「遅れてしまい申し訳ございません! し、少々事情がございまして...」
急いできたのか息を荒くしながら辻が山下に報告をしにやってきた
山下は
「...何があった?」
若干嫌な予感がしつつ尋ねた
「じ、実は迎えに行った所までは予定通りだったのですが...向こうの大隊長であるエルザ少将が我が連隊の中でも最強と言われる『不死身の舩坂』事、舩坂弘少佐との摸擬戦を要望し...」
「おいおい、まさかそれをして遅くなったとか言うのでは無いだろうな大佐?」
「...」
「...嘘だろ。」
辻の言葉に突っ込んだ牟田口の問いに無言で気まずそうな雰囲気で答えた辻に思わず牟田口はこめかみを抑えた
そんな雰囲気の中、到着し補給を始めた『第101重機甲大隊』から大隊長車と思われる通信機器を増設しているヤークトティーガ―が1両近付いてくると、そこから1人の女性士官が降りてきて山下達がいる前線司令部に入って来て見事なまでの敬礼を決めた
山下を始めとした扶桑帝国軍将兵達が一目見て思ったのは
『美しい...』
だった
彼女は『先天性白皮症』...要するにアルビノだったその軍帽からはみ出ている白髪は雪の様に白く肌も同じように白かった、眼はルビーの様な綺麗な赤色だった...しかも体はそんなに出てたら足元見えませんよねと言わんばかりのボンキュボンである、そんな体を長袖長ズボンの少将の階級章をつけた軍服で身に包んでおり腰には2丁の拳銃と2本のサーベルをそれぞれ1つづつ吊るしており、最早神話に出てくるワルキューレの如き美しさだった
彼女...ゲルマン連邦帝国皇帝の剣と名高い『第101重機甲大隊』を率いるエルザ・フォン・バルクホルン少将は大貴族であるバルクホルン公爵家出身の御姫様である...のであるが彼女エルザは恐ろしいまでの戦闘マニアである、具体的には初めてサーベルに触れ特訓を始めたのは5歳でそれからと22歳の今までひたすら自身を鍛え続けて来た、また
「私の体を好きにしたければ私よりも強い事を証明しろ、身分は問わない。」
と言い切っており、そのせいで今まで何度も見合いを断っている、因みに2つ名は
『鋼鉄のワルキューレ』
ともかくそんな彼女は
「ゲルマン連邦帝国親衛軍第101重機甲大隊大隊長のエルザ・フォン・バルクホルンであります! 遅れてしまい申し訳ありません! 我が第101重機甲大隊補給が済み次第何時でも出撃可能性であります!」
「そ、そうか、私は扶桑帝国陸軍大将の山下奉天だ、扶桑帝国陸軍ヨーロッパ派遣軍を預かっている、事前の取り決め通り貴官の大隊は私の指揮下では無く対等な立場で動いていただく、支援に関しては辻政信大佐率いる『第25装甲歩兵師団所属第一歩兵連隊』を付ける予定だ。」
と自己紹介し、山下は少し事前に辻から聞いた話とのギャップに混乱しながらも返答した
エルザは頷くと
「了解いたしました、では我が大隊は遊撃戦力となり敵に対する打撃戦力になります...つきましては完全に私用になりますが少々御聞きしたい事が...」
とオーラを放ちながら尋ねた
「...何かな少将」
山下の問いにエルザは肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべると
「フナザカ少佐から御聞きしたのですが貴国で1番強いのは例の異世界出身のナオヤ近衛武官だとか...是非とも御手合わせ願いたく...(訳・フナザカから1番強い人聞きました、仲介してください。)」
と話した、山下は
「...確証は出来ないが、善処しよう。」
と答えた
エルザはその言葉に花開いたような笑みを浮かべると
「ありがとうございます! ではもうそろそろ補給も済む時間だと思うので部隊に戻ります、Sieg Heil!(ジークハイル!・勝利万歳!)」
と今にもスキップしそうなくらいウキウキしながら大隊に戻っていった
そしてそれから15分後...連合国にとっての絶望が始まった




