新年記念小話 小林直哉の日常
新年あけましておめでとうございます。
今年も万年二等兵をよろしくお願い致します。
1936年11月2日 午前5時
帝都東京 御所 皇帝の私室
既に世間一般では戦争中で色々ときな臭い事になっているが、それでもまだ日が昇り始めたばかりで寒いこの時間は静かだった...この部屋では違うが
朝っぱらから大きいベットを2時間程軋ませると、外から
「陛下に閣下、朝食の用意が出来ました...いい加減出てきてください、閣下を腹上死させるつもりですか陛下? 幸にグレイスにコゼットも盛ってないでさっさと出てきなさい。」
呆れた声を出しながら、私室の掃除などを担当する侍従達が入って来た
「もう時間か、したりないのじゃがのう。」
神楽は侍従達が入ってくるのを見ると、組み敷いていた直哉にとどめを刺すとベットからでて着替え始めた
脇で神楽より先に直哉と行為を終えていた三人も
「あー、良い朝ですね、おはようございます。」
「おはよう、今日は何するんだったかしら。」
「ク、クヒ き、今日もご飯作れなかった...」
「あら? コゼットあなた直哉の子供孕んだら即座に料理長引退して直哉直属の侍従になるのよ? 後継者育てないといけないんだし良いんじゃない?」
「う、うん そうだけどね、や、やっぱり大事な人達のご飯作りたいから。」
と話しながら起き上がり着替え始めた
肝心の襲われていた直哉は
「大丈夫ですか閣下? 毎日こんなに...」
「大丈夫大丈夫、小さい頃から暗殺者兼諜報員としてハニートラップとかの訓練受けているから問題ないよ、ただ10分休ませてくれ。」
声を掛けて来た侍従にそう返すと少し休憩して着替え始めた
そして食堂で朝食を済ますとそれぞれ仕事を始めた
幸とグレイスは執務室で執務に当たる神楽と一緒の部屋で過ごす輝夜の二人の世話と護衛を行い(要するに秘書)、コゼットは三人+αの食事やお茶汲み等の世話(食事番)が主な仕事の流れである
直哉は...
「行くぞ陸、今日行くのは船堀にある統合司令部と舞浜軍港(史実では某ネズミ―ランドがある所)だ、統合司令部では会議の議長するから俺降ろしたら先に軍港行って休んでていいからな。」
「ブルル。」
と分かったと言う様に鼻を鳴らした陸に乗って統合司令部に向かっていた
直哉の普段の仕事は基本的に軍事関係全般の大まかな指示だけだが、時たま外回りもするのである
この日は統合司令部の大会議室で、陸軍海軍自衛隊警察の上層部と現場(戦地)から戻って来た指揮官達と各省庁に政府首班達が集まる大規模な会議が開催されることになり、直哉はそこでの議長をやる事になっているのである
そしてその会議では
「戦略爆撃による爆撃作戦は成功を収めそれに伴う前線での圧力は減っておりますが、合衆国軍は強固な防衛線を敷いておりサンディエゴ戦線での攻勢は不可能です、行いたければもっと増員をお願いしたい。」
「了解した、ではサンディエゴ戦線における攻勢は欧州での戦いのケリが尽き戦力の転換が完了次第行うという事で、皆様方よろしいかな?」
『異議無し。』
「では次に天朝帝国との間のシャム戦線ですが完全な膠着状態を作り出すのに成功しました、物資等の輸送路の状況にも成功し崩壊する心配ないでしょう、ですが万が一に備え予備の航空戦力の増強をお願いしたい、具体的には1個連隊規模とその後方支援部隊を。」
「とのことだが陸軍大臣殿と参謀の方々どうかな?」
「問題ありません、ウルル大陸での訓練を終えた部隊を派遣できます。」
「参謀と致しましては正直な所1個大隊規模でしたら即座に派遣する事に異論ありません、ただ連隊規模と致しましては少々時間を頂きたい、具体的には二週間程。」
「現場としてはそれで問題ありません。」
「ではそのように。」
と各戦線での報告や増強の話し合いや
「では自衛隊でも水上戦力を持ちたいと?」
「はい、ただあくまでも行方不明者捜索の為であり、大型艦艇としては現在開発中の回転翼機等の垂直離陸機が搭載できる大きさの軽空母一隻を中心に工作艦や医療艦に輸送艦をそれぞれ二隻づつ護衛艦として駆逐艦二隻の艦隊を2個整備したいと考えています。」
「海軍としては駆逐艦クラスならすぐにでも提供できますが、軽空母と補助艦艇は少々待っていただきたい、現在椿型軽空母が改修中でそれ以外の艦艇も改修中なので終了まで待っていただきたい。」
「御手数おかけします。」
「では各々方よろしいですかな?」
『異議無し。』
急速に規模を拡大している自衛隊に関する話し合い
「財務省からは特に問題無しです、後10年間は戦争続けても大丈夫です...無制限徴兵を行わなければですが。」
「安心して頂きたい、少なくとも無制限徴兵はしないので。」
経済に関する話し合い
『国家の統合?!』
「あくまで草案ですが、同盟陣営の4大国を中心に連邦国家を西暦2000年までに建国する計画です。」
「いやはや...凄まじいですな。」
「技術と陸戦大国のゲルマン連邦帝国、広大な国土から産出される資源大国のモスクワ連邦、交易で築き上げた経済大国のスルタン中東同盟、そして広大な海洋を勢力下にある我が扶桑帝国...確かに強大な国家になりそうですが...」
「あくまでも草案ですよ、実際には各国の高度な自治を残しつつ形成する事になるかと。」
政治に関する話し合いだった
そして会議が終わるころには昼を過ぎ午後5時になろうとしていた
そして統合司令部を出た直哉を迎えたのは
「ブルル。」
「陸、先に行ってても良かったのに。」
統合司令部の庭園で草を食べ昼寝しながら待っていてお帰りと言わんばかりに鼻を鳴らした陸だった
そして直哉は陸に跨ると海軍造船所と舞浜鎮守府のある舞浜軍港に向かった
そして舞浜軍港に着き、その内部にある海軍の仮設兵舎に入った、中では
「おお! ようこそ我が海軍舞浜鎮守府第二仮設兵舎食堂へ近衛武官殿!」
「お前ら小林の旦那が来たぞ!」
『おおー!』
「こちらへどうぞ! 席は確保してやすぜ!」
現在艦艇の乗り換えの為舞浜鎮守府に寄港している『赤城』『加賀』の第一航空戦隊と『鳳翔』『龍驤』の第三航空戦隊の二個航空戦隊で構成されている連合艦隊空母群の搭乗員や乗員達が食堂を占拠して酒盛りをしており、彼等は中央の上座に直哉を座らせると早速ビールの入ったコップを差し出した
直哉は
「ありがとう、でもその前になんか食ってもいいかい? 昼食べてないんだよ。」
と告げた
それを聞いた彼等は
「そいつはいけねぇや! おい野村少尉なんか腹にたまるの集めてこい!」
「はい編隊長!」
と直ぐにツマミとして作った料理を直哉に持って来た
なぜここまで『風紀最悪のヤクザ集団』『世界最恐の航空部隊』『人間詐称筆頭』だの言われている搭乗員達が年下の直哉に気を使うかというと
「さて空母乗りの方々、いつも通り意見と提案を聞かせてもらおうか。」
『応!』
自分達の意見と我が儘をなんでも聞いてくれて、可能な限り手を尽くして実現させてくれることに感謝しているからである、彼等からしてみれば御上の癖に自分達と肩を並べて酒を酌み交わして(成人してから)意見を聞いてくれるただ戦う場所の違う戦友でもあるからだ
そして宴会という名の意見交換会は始まった
「ではまず航空機乗りから聞こうか。」
「では代表して自分、赤城戦闘機隊一番の腕である自分赤松が。」
直哉の言葉に空母『赤城』所属戦闘機隊搭乗員の赤松貞明大尉が名乗りを上げた
「確かに合衆国軍から『サンディエゴの悪夢』とか呼ばれ恐れられているから十分だな、機体について何かあるかい?」
直哉の問いに赤松は
「では遠慮無く言わせて頂く、まず火竜だが全体的に高い性能であることには異論ありません、ただ問題点として挙げるなら武装の弾数が少ない事でしょうな、出来るなら現地改造でベルト給弾式の20ミリ機銃かブローミング12.7ミリ機銃に変えたい所です。 そして次、空征ですが...機体も武装も何もかもが素晴らしくこれ以上の機は要りません、後15年位は主力機として使えるでしょうな...新入り連中には生存性と敵機から直ぐに逃げられる速度のある火竜を、自分等ベテランは格闘戦能力の高い空征を使う様にしようかと考えとります。」
と酒を飲みながら答えた、そしてそれに続くように
「では攻撃機隊を代表して自分もよろしいですか?」
と一人の搭乗員が手を上げた
「構いませんとも江草少佐、この後戻られるので?」
「ええ、兄の結婚式も済んだので明日欧州に出発する輸送機に便乗して蒼龍に帰ります。」
直哉の問いに答えたのは兄弟の結婚式に出席する為一時的に本州の実家に帰省していた空母『蒼龍』所属の江草隆繁少佐だった
「では、まず風竜に乗って感じたのは少々狙いが付けずらいという点ですね、ジェット機特有の急降下爆撃が出来ない点から小隊全機で水平爆撃で輸送船に対し爆撃しましたが三発外してしまいました、しかしそれ以外では中々に良い機です...海征に関しても赤松さんの空征と同意見です、正に次世代の攻撃機ですね。」
と話した
そして暫くの間は航空機の話を続け、艦艇に関する話になった
「新造した『赤城』『加賀』『鳳翔』『龍驤』ですが良い艦です、今まで不便だった点が全て改善されており実に使いやすいです、航空母艦である『赤城』『加賀』は言わずもがな、強襲揚陸母艦として生まれ変わった『鳳翔』『龍驤』の2艦も実に良い!」
「なんせ物資を沢山積めるから飯の質も上がりましたからねぇ!」
「万々歳だ!」
戦艦改造の航空母艦である『赤城』『加賀』の両艦は戦闘の連続でガタがきており、世界で始めから航空母艦として建造された『鳳翔』とその補助として建造された『龍驤』の両艦は旧式化が激しく、新しく代艦を建造し乗り換える事が決定されたのが1年前である、その乗り換えの為に建造中であった正規航空母艦4隻が充てられる事になった
しかし小型の空母に分類される『鳳翔』『龍驤』の両艦の搭乗員は少ない為、飛行甲板と航空機格納庫二段の三段甲板だったところを、飛行甲板と格納庫に加え三段目に陸戦兵器格納庫を設置し四段目には大発などの揚陸艇の乗り降り可能なウェルドックを設置する事で強襲揚陸母艦として完成したのである
そんなこんなで夜も更けた頃、一人の搭乗員が直哉に声を掛けた
「少々よろしいでしょうか近衛武官殿...」
「...どうした?」
その雰囲気に直哉は気分を真面目な物に変えた
搭乗員...1年前に軍航空学校を卒業し配属された比較的新入りの准尉は意を決したように話し始めた
「じ、実は最近やたらと艦内で火の玉の様な幻覚を見る様になりまして...」
「ほう...火の玉の幻覚か。」
直哉は続けろ言わんばかりに返した
「はい、旧赤城に配属になって見たときは配給の酒を飲み過ぎただけかと思ったのですか、それから後も素面の時も時々見る様になりまして...新しい赤城に移った後も見てしまい...」
その准尉の話を聞く為か自然と食堂は静かになっていた
そして何十人もの兵士達が
「実は自分も見てます、てっきり自分だけかと...」
「お前もか軍曹、私もだよ。」
と告白し始めた
直哉はそれに
「たぶんそれ艦魂じゃないかな?」
と返した
『『『『艦魂?』』』』
兵士達の言葉に直哉は頷くと
「船幽霊とか海に沈んだ亡霊だの呼ばれることもある存在だよ、でも君達が見たのは船に宿る魂の方じゃないかな? 何であれ艦は今まで以上に大事にすべきだと考えるがね。」
と返した
そして宴会が終わった後、新たに海軍の伝統として毎日の食事を一食多く作り艦内神社に奉納する事と艦の掃除を一層行われることが追加された
その結果なのか自然と良い事が起こるようになったとの事である
ただ直哉と陸はその日
「帰りが遅い、そう思わんか?」
「危ないですからちゃんと時間見てくださいよ。」
「そういう事。」
「え、えっと...気を付けて ク、クヒ。」
「ごめんなさい...」
「ブルル?」
「ブ、ブルルルル....」
と怒られたとの事である




