国の名を背負う艦(もの) ~パンツァ―ファウスト作戦 地中海大海戦~
1937年2月3日 午後1時
地中海 マルタ島沖合から70キロ 同盟艦隊集結地点
北部、中央部での作戦が始まってからわずか一日、そこには空母から発艦し轟音を撒き散らしながら制空任務に就いている多数のジェット戦闘機やレシプロ戦闘機に加え対潜爆雷を装備した対潜哨戒機隊の守護の元、同盟諸国の地中海方面に配備されている多数の艦艇が集結しつつあった
その艦隊は異様な大きさを誇る二隻の巨艦とその二隻よりも大きい一隻の計三隻を中心に構成されていた、三隻の内二隻の名は飛龍型正規航空母艦の『飛龍』『蒼龍』である
飛龍型正規航空母艦は開戦前から主力正規航空母艦として建造されていたアングルド・デッキや蒸気式カタパルト2基等を設置した排水量6万トン搭載機数64機の正規航空母艦である、排水量の割に搭載機数が少ないように思うが理由として搭載機の大型化や整備性の向上や居住性の向上等を行ったらこうなったのである...もっともその気になれば80機は乗せられるが
そしてこの二隻の後ろに控える様に展開している艦、この艦こそ扶桑の技術の粋を集めて建造された対戦艦用決戦兵器にして国の名を背負う艦、大和型超弩級戦艦『大和』である
大和型超弩級戦艦は開戦前から建造されていた船体に改修を加え完成した戦艦である、その一番の特徴として51センチ三連装砲を主砲として搭載されている事が挙げられるだろう(しかし他の同盟諸国との部品共通化の為、戦争終結後により高性能の52センチ三連装砲に改修されることが決定されている)
その『大和』艦橋には少将の階級章を付けた海軍の将官服を着こみ草履を履いている1人の男が皇帝から直々に下賜された軍刀の感触を確かめながらもしっかりとした状態で立っていた、彼は周りで部下達が忙しそうに動き回っているのを見ると満足気に頷いた
彼こそこの『大和』を預かる艦長にして『大和』を旗艦に正規空母一隻(江戸型、航空機数31機、尚搭載機は全機戦闘機)と軽巡三隻に駆逐艦五隻で構成されている第二航空艦隊所属第一水上打撃戦隊の司令官...「エントツ男」「負け知らずの有賀」等と異名を持つ有賀 幸作扶桑帝国海軍少将である
彼は部下達の働きに表面上満足気だが(実際満足である)内心ではかなり胃が悲鳴を上げていた、その原因はただ一つ、敵艦隊発見の報が届かないという事だ
現在艦艇が集結中で隙だらけのこの状況を連合諸国の地中海艦隊が見逃す筈がないと考えていたからである、もし攻撃を仕掛けてくるならば『大和』率いる第一水上打撃戦隊は砲雷撃戦闘を行い時間稼ぎを行う手筈となっている...因みに食い付かなかったら砲撃戦を仕掛ける予定である
その為その巨体で目立つ『大和』をさっさと出撃させて艦隊から離し敵の目を引き、少しでも友軍艦への危険を減らしたいと考えていたのである
そしてその思いは果たされた
『チュニス方面より敵艦隊ミユ 空母4、戦艦8、巡洋艦20、駆逐艦60ノ大艦隊 連合軍ノ地中海主力艦隊ト思ワレル 敵空母甲板上カラ攻撃隊発艦中、注意サレタシ』
偵察に出していた哨戒機から飛び込んだこの報を聞いた多聞丸は即座に
「第一水上打撃戦隊は艦隊から離れ敵艦隊の迎撃を行え、それと全ての直援機隊を上げて迎撃させろ、また対空駆逐艦六隻を三隻ずつに分けて哨戒線を構築し直援機隊を誘導しろ、敵攻撃隊迎撃後に攻撃機隊出撃、各艦己に振り分けられた任務を全うせよ。」
と命令を出した
有賀はその命令を受けると即座に水上打撃戦隊を率いて艦隊から離れて行った、それに続いたのは集結中の同盟諸国海軍地中海艦隊の中で集結が完了した戦艦部隊だった
彼等としても扶桑艦隊だけに相手させるわけにはいかなかったからである
続いたのは
ゲルマン艦隊
戦艦
バイエルン級戦艦3番艦『ザクセン』
駆逐艦四隻
モスクワ艦隊
戦艦
ガングート級戦艦1番艦『ガングート』
重巡洋艦
ソーカル(ロシア語で鷹、扶桑から購入した古鷹型重巡洋艦)級重巡洋艦1番艦『ソーカル』
駆逐艦二隻
スルタン艦隊
戦艦
戦艦『ヤウズ・スルタン・セリム』
駆逐艦一隻
の戦艦三隻、重巡洋艦一隻、駆逐艦七隻だった
彼等を加え戦艦四隻、空母一隻、重巡洋艦一隻、軽巡洋艦三隻、駆逐艦十二隻で構成された臨時編成の艦隊は一路敵艦隊に向かって進んでいった
しかしこの中身は酷い物である
戦艦の内『大和』以外の艦はどれも艦齢20年以上の老朽艦であり、空母に至っては実質攻撃機無しの防空軽空母である
『大和』の初陣は少々不安なものとなってしまった
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連合軍の地中海艦隊もこの接近してくる艦隊に気付いていた
連合軍の艦隊構成は
ブリティッシュ艦隊
戦艦
キング・ジョージ5世(KGV)級戦艦『キング・ジョージ5世』『プリンス・オブ・ウェールズ』
『デューク』『アンソン』
空母
アーク・ロイヤル級航空母艦『アーク・ロイヤル』
巡洋艦三隻
駆逐艦二十隻
ガリア艦隊
戦艦
ダンケルク級戦艦『ダンケルク』『ストラスブール』
リュシュー級戦艦『リュシュー』
巡洋艦四隻
駆逐艦十五隻
アメリゴ艦隊
戦艦
ノースカロライナ級戦艦1番艦『ノースカロライナ』
空母
エセックス級航空母艦『エセックス』『バンカー・ヒル』『オリスカニー』『タイコンデロガ』
巡洋艦十三隻
駆逐艦二十五隻
という堂々の物だった
そしてその臨時の混成艦隊の司令官達は接近してくる少数の分艦隊か集結中の艦隊のどちらに航空攻撃を仕掛けるか迷っていた
接近してくる分艦隊に対して航空攻撃を行った場合、無傷の敵主力の機動艦隊とぶつかる可能性がある、その場合戦艦攻撃の為に消耗しているであろう航空隊では負ける可能性が高くなる、なんせ一隻だけとはいえ空母を伴っているのである、それなら攻撃を行わない方が良い
しかしこちらには少々古いとはいえ戦艦が八隻もある、それならば分艦隊は艦隊決戦で沈めた方が効率が良い、最新鋭空母四隻と陸上基地から飛んでくる大量の航空機で殴り掛かれば空母六隻の機動艦隊なんぞ敵では無い!
彼等はそう結論付けると即座に陸上基地の航空基地に攻撃要請を出すと発艦して敵艦隊に向かっている航空隊に主力艦隊に対し攻撃する様に指示を出すと、自分達の戦艦部隊に対して接近している敵少数艦隊に対して攻撃を掛ける様に指示を出したのである
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陸上基地から飛んできたのも合わせ316機の連合軍の第一次攻撃隊が自らが率いる水上打撃戦隊の脇をすり抜け主力艦隊がいる方向で飛び去って行くのを見ながら、有賀は悔しそうな表情を浮かべていた
「食い付かなかったか...航空隊には手は出さないように伝えろ、たったの31機であの大群に向かっても犬死するだけだからな、艦隊の防空に専念させろ。」
「了解、艦隊の防空に専念させます。」
呟きにも似た指示を聞いた参謀は復唱すると通信士に命令を出した
それから3時間後、あと1時間少しで敵艦隊に接触する頃合いで通信が入った
「『飛龍』から通信来ました! 『敵攻撃隊ノ迎撃二成功、後方ハ気ニスルナ』以上です!」
艦橋に飛び込んできた兵士の報告を聞いた有賀は安堵の息を吐くと
「よろしい、友軍艦にも伝えろ これより速力を上げ敵艦隊に対し攻撃を敢行す、全艦『大和』に続け!」
『大和』を中心とする艦隊は速力を上げて突進していった
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「何、失敗だと!? 旧式もあったとはいえ300機近い攻撃隊がか!」
「パイロット達の報告によればあと少しで艦隊が見える位まで進んだところで迎撃にあったそうです、何でもジェット機のファイヤードラゴンや爆弾無しのタイフーンに加えMe262E―2、更にレシプロですが新型の高性能戦闘機の合わせて150機近い大群に攻撃され半数が撃墜、迎撃を生き残り攻撃を敢行した機もフソウの強力な対空駆逐艦を中心とした対空砲火や本国から情報が入っていた大型水上飛行艇『ニシキタイテイ』等の水上機まで浮かべて対空砲台として使ってまで弾幕を張っていた来たそうです...また少数ですが時限信管と併用して混ぜ込む形でVT信管付きの砲弾も確認されたようです。」
合衆国地中海派遣艦隊旗艦戦艦『ノースカロライナ』に乗艦している合衆国艦隊司令長官は入って来た報告を聞いて唸り声にも似た声を上げると再び尋ねた
「そうか、まさか飛行艇まで砲台代わりにするとは驚いたな...しかし流石に被害は与えただろう?」
司令長官の問いに報告を上げた参謀は書類をめくると
「はい、何でも旗艦らしき空母の甲板に一発爆弾を当てて中破させたそうです、他にも軽空母二隻を中破に一隻は大破、巡洋艦三隻と駆逐艦六隻を沈めたそうです。」
と答えた
司令長官はそれに頷くと
「何とか破産確定の大赤字から大赤字のレベルにはなったな...後は接近中の敵少数艦隊か。」
司令長官は放った偵察機からの報告を待ち始めた
第二戦は近付ている




