表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/72

天朝帝国天帝

天朝帝国

その歴史は古く、原型となった国は4000年前からあったとされているが、その歴史の中で何度も王朝が滅んでは当時の有力者が王や天帝を名乗ってきた国家である為、他国からは現在の天帝の一族が即位した200年程の歴史とされている

また、数え切れない程の内乱が起こっており、ここ数年でも共産党と国民党と天朝政府による三つ巴の内戦が起こっていたが、天朝帝国が扶桑帝国に宣戦布告を行った事を受け、一時的ではあるが停戦し、共同で掻き集めた総数約40万の戦力で扶桑帝国領シャムへの侵攻を開始した

しかし事前に扶桑帝国が行っていた物資集積やインフラ工事を始めとする継戦能力の向上や、扶桑帝国陸軍の採用している優先火力ドクトリンによる大規模な軍用鉄道の停車場等の整備に運用可能になった列車砲や国境地帯に建設された要塞群に設置された要塞砲や重砲隊から放たれる圧倒的な砲撃火力により侵攻は失敗し、現在進行は一時停止して大規模徴兵による戦力の再編と責任の確認...敗戦責任の押し付け合いが首都の南京で行われていた...


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1936年9月8日

天朝帝国 首都南京

宮廷 謁見の間


天朝帝国の首都である南京は政治と軍の町である、それゆえに町は帝国各地から集められた税によって築かれた天帝の住居兼大城塞である宮廷を囲むように建築されている、重税にあえぐ庶民達はこの宮廷を『虚構の城』などと恨みを込めて呼ばれている

寒くなって来たこの日一人の指揮官...汪兆銘おうちょうめい少将が宮廷に呼ばれて、謁見の間で天帝が座る玉座の前に片膝をついて皇帝が来るのを、壁際で待機している者達の侮蔑の視線を受けながら待っていた

汪自身は実際の所、開戦してから今まで扶桑とは一回も戦ったことが無い、有能かつ扶桑に留学した事のある彼を危険視した者達によって後方の予備司令部の椅子を温めさせられていたからである

この日宮廷に呼ばれた際も、自身の副官であると同時に妻の一人である陳璧君ちんへきくんにこの豪華極まりない宮廷を見ながら


「この城を1割小さくすればどれだけの国民を救えたのだろうか...」


と漏らしている

因みにこの世界の汪兆銘は、天朝では珍しい庶民の事を思いやる領主の中の中程の貴族の三男として生まれて育った、一族の領地は歴史の大半が天朝では珍しい一回も内乱や戦乱に巻き込まれた事のない土地である...まあ約7万人程の人々が暮らしていける位のたいして旨味が無い痩せた土地だからという事もあるのだが

まあそんな家に生まれた彼は、兄弟同士の相続争いを避ける為農業学者になることを決意して扶桑の農業大学に留学したが、政府から人質も兼ねて軍に士官せよとの命令を出されてしまい仕方なく大学を中退して留学の成果を領地を継いでいた兄に譲った後軍の将官になったのである

因みに彼の伴侶である陳璧君は、史実では富裕な商人の家庭の出身だがこの世界では天朝では珍しい女性軍人となっており、上司となった汪に惚れて結婚して副官となっている

と何がともあれそんな汪は陳と一時的に別れて待っていると、扉の横で待機している衛兵が


「天帝陛下のおなーり――!」


と大きな声を出し謁見の間にいる全員が一斉に背を正し頭を下げると、謁見の間の大きな扉が開きやたらと豪勢な服を着た40代程の一人でギリギリ歩ける位まで太った男がたくさんの供回りを連れて謁見の間に入って来た

供回り達は壁際により頭を下げた、その間も太った男は歩き続け、玉座に続く階段を上り玉座に座ると少し荒くなっていた息を整え


「面を上げよ。」


と言い放った

この男こそ天朝帝国天帝の万暦ばんれきである、かつては名君の器と呼ばれて期待されていたが、成人したばかりの頃抱いた女性が性病にかかっており、それにより心の奥底にしまっていた凶暴な性格が表に出たことにより暗君になり、現在の天朝を作り出した元凶である

兎に角何であれこの場では一番の権力者であることに変わりはない

そして汪は内心全く忠誠心を抱いていない皇帝に対して片膝を尽きながら挨拶を述べると、シャム侵攻の報告を始めた


「現在我が帝国が行っている扶桑帝国領のシャムに対しての解放作戦に関してですが、完全に撃退されており、戦力の再編成等を行わない限り新たな攻勢を行う事は不可能です。」


そんな汪の言葉に壁際にいる者達は騒ぎ始めた


「何という事だ...」


「なにゆえに侵攻に失敗したのか!」


「よくおめおめと天帝陛下にその顔を出せたな貴様!」


しまいには怒鳴り出す始末である、それは玉座の隣に控える宰相が持っていた杖を床に勢いよく突き打ち鳴らすまで続いた

そして静かになると、万暦が汪に尋ねた


「汪よ、何故に失敗したのか? それと解放作戦にはれん中将が指揮官だったはずだが?」


汪はそれに


「確かに天帝陛下の記憶の通りでございます、本来ならば煉中将が御報告を申し上げる筈だったのでございますが体調不良との事により、急遽私が参った次第でございます。」


と答えた、そして続けるように


「しかしつい先程宮廷に参る前に煉中将の邸に伺いましたが、既にもぬけの殻で御座いました...恐らくも国外に出ようとしていると思われます。」


と報告した

万暦は顔を真っ赤にすると


「煉の奴め...ゆるせん! 近衛長官! 兵を率いて煉を討ち取り朕の前に運んでまいれ!」


と近衛長官に命令した

命令を受けた近衛長官はそれに


「御意、では騎兵部隊を使い空港と港と街道を封鎖し捜索致します、吉報をお待ちください。」


と話し出て行った、万暦はそれを見届けると


「汪よ、裏切りを申告した功績として其方を侵攻軍の総指揮官に任命する。」


と汪に告げた、しかし汪はそれに


「陛下の御好意には感謝いたしますが...申し訳ありませんが司令官には別の者を任命していただけませんか? 少なくとも勝てない相手とは戦いたくありませんので。」


と断った

ここにいる天帝以外の者達はその汪の言葉に騒ぎ出したが、天帝が黙らせると


「ほう? 何故勝てないのであるか?」


と尋ねた

汪は衛兵に解説用の武器とテーブルを持ってくるように伝えた

そして衛兵が弾を抜いた武器とテーブルを持ってくると、万暦に解説を始めた


「何故かと申し上げますと、単純に兵や兵種に兵器を始めとして戦術の差という物があります...既に時代遅れとなっている騎兵は我が国においてはライフル銃を装備した単純な騎兵のみで構成されておりますが、扶桑帝国軍では短機関銃や小型の対戦車砲や歩兵砲を装備した騎兵を中心に構成されており強力かつ近年では軍馬を少しずつ減らし装甲車まで配備しており話にもなりません...軍馬に関しても扶桑軍馬は扶桑帝国の固有種を極限まで交配させ、小型ですがその分突進力や馬力に優れており仮に我が国と扶桑の騎兵隊が同数同士でぶつかったら、即座に我が方の騎兵隊が武装や軍馬の差で吹き飛ぶでしょう。」


と天朝帝国軍騎兵隊で採用されているライフル銃を持ちながらそう話した

そして汪は、天帝が汪を労って従者経由で渡した杯の中に入っていた水で喉を潤すと続けて話し始めた


「続いて主力歩兵に関してですがこれもまた兵器の差と練度の差で完敗です、我が国は古くから他国よりも多数の国民を有しており、戦争になればその多数の国民に武器を持たせて軍を構成して参りました...しかし時代の進歩により兵士には高性能な兵器と高い練度が求められるようになりました...これでは平時では農業しかさせていない農奴兵に単発や5発装填のライフル銃が主装備で補助装備として低威力の手榴弾を持たせただけの兵士を主戦力としている我が国と、専業兵士を主力とし短機関銃や新しい銃種である自動小銃や軽機関銃を主装備とし補助装備として携帯式の対戦車噴進砲や高威力の手榴弾を装備している扶桑帝国軍とでは話にもなりません...最近では戦車は合衆国の支援によりマシになりましたが量産体制はまだ完成しておらずダメでしょう。」


そして汪は万暦に顔を向けると


「ほかにもまだまだ申し上げたい事はまだまだございますが、時間がかかるので止めておきます...陛下にお尋ね致します、なぜ扶桑帝国に戦争を起こしたので御座いますか? 今現在の我が国の状態では防衛ならともかく侵攻しても勝てないのです。」


と万暦に尋ねた

万暦は内心怒り、顔に少し赤みがかかりながら


「何故かと申すか、そんなの決まっておる、連合の者共から技術支援を受ける代わりに扶桑に宣戦布告するように取引を受けたのと扶桑帝国皇帝であり世界一の美女と名高い神楽を朕の物にする為じゃ...わかったのなら下がるがよい、褒美は階級でなく物を後で届けさせよう。」


と話し、汪を帰らせた

汪は天帝に一礼して謁見の間から立ち去った

そして汪が出ていくと万暦は立ち上がり、玉座の横に置いてある地球儀に歩み寄り扶桑の首都である東京の場所に短刀を突き刺した


「神楽よ今に見ておるがよい、いずれ貴様を我が足元で喘がせてくれるわ、そして貴様が夫との間に産み落とした子は茹でて余が食らい、余の子を孕ませてやろう...世界を制するは偽りの自由を掲げる連合でもそれに対抗する同盟でもない、世界一の力を秘めている我が天朝である!」


と叫び笑い始めた

野望に満ちた天帝は、周りにいる臣下達が不気味がっているのも気にせずに狂気に満ちながら笑い続けた

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ