サンディエゴの塹壕とパリの酒場
1936年9月4日午後3時
サンディエゴ戦線 合衆国軍塹壕陣地
「また突破できなかったか...」
「はい大佐...」
この日も扶桑帝国軍が守るサンディエゴを囲むように構築されている合衆国陸軍の塹壕陣地では、第3装甲戦闘旅団(後方支援部隊を持たず攻撃専門の旅団)を預かる指揮官の大佐と参謀が、ボロボロになり補充や休息を行う為後方支援基地へと陣地を通って後退していく友軍旅団を見ながら話していた
指揮官の大佐は、手柄欲しさに先走って攻勢を行った指揮官に対して心の中で侮辱の言葉を送っていた
「何でも今度は『オイシャ』よりも小さい癖に連射性の高い砲を積んだ戦車や『チハ』よりも性能の良い戦車が出て来たとかで、機甲師団から援護の為派遣された20両の戦車部隊の内半分がやられて失敗したそうです。」
参謀は報告書を見ながらそう話した
大佐はその報告にうんざりしたような表情を浮かべると
「もう『ヘルベアー(地獄熊、合衆国におけるオイ車のあだ名)』と『ウォーホース(軍馬、合衆国におけるチハのあだ名)』の改良型が出て来たのか...」
と話した
参謀はそれに頷くと
「ペンタゴンからの情報と接敵した部隊からの情報では新型戦車の名前はそれぞれ『オニシャ』『チリ』というらしいです、さすがに性能表は手に入らなかったらしいですが、主砲は『オニシャ』が最低でも100mm以上で『チリ』は80mm以上らしいとの事です。」
と報告した
大佐は無言で後退していく友軍部隊を眺めていると不意に
「...参謀、現在での我々の戦力はどれほどだ?」
と尋ねた
参謀はそれに
「歩兵5000名に、車両戦力として機甲師団から派遣されているM4シャーマン中戦車10両にM26パーシング重戦車5両にM7プリースト105mm自走榴弾砲4両の計19両です、後は旅団配備の装甲車としてM20装甲車が10両にM16MGMC自走対空砲7両にM3ハーフトラック20両の計37両です。」
と答えた
大佐はそれを聞くと軍服のポケットからタバコの箱を出すと、中から2本取り出し火を付け1本を参謀に差し出して
「屈託の無い意見を聞きたい、この戦力で守りに徹している帝国軍を突破する事は可能かね?」
と尋ねた
参謀は差し出されたタバコを一息吸うと
「無理でしょう、連中が攻勢に出てくれば勝てますが守りに徹していると1個中隊で2個大隊の攻勢を弾き返す様なような連中ですよ? 現に連中はわずか2個大隊の約600名で機甲戦力の支援付きの1個旅団規模に当たる約5000名の攻勢を弾き返しました、大佐も今見ているでしょう? それに今日の戦闘で消耗しているにしてもこれから攻撃を仕掛けたら我が方の不利です、フソウの兵士達はベテランな上に夜目が利きます、それに対してこちらは能力は高いですが訓練したばかりの新兵が主体ですし夜目が利きませんから一方的にやられるだけでしょう。」
と半ば悔しそうに話した
大佐はそんな参謀から目を離すと
「そうだな...せめてベテランがヨーロッパ戦線に派遣されなければ夜襲が出来たんだがな。」
と話した
本来夜襲とは一種の賭けにも似た戦法である
その理由としては同士討ちの可能性が高い事が充てられる
それを克服する手段の一つとして鍛え抜かれた精鋭やベテランを使う手があるのだが、政府からの指示で合衆国軍はそういった精鋭やベテランがかなり数をヨーロッパに派遣されている
合衆国軍部はその政府の指示に反対の声を上げたのだが、政府は『扶桑よりもゲルマンの方が強い』『ヨーロッパで連合諸国が一大攻勢を行う為に必要』などという理由を出した事から、仕方なくそういった貴重な経験豊富な兵士達をヨーロッパに派遣し、本土の扶桑帝国軍には訓練が終了したばかりの新兵達を当てる事になったのである
大佐はそんな事をしでかした政府と軍上層部に内心溜息をつくと参謀に後の事は任せると伝えると司令官室で体を休める為に塹壕内へ入っていった
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃サンディエゴから遠く離れたヨーロッパのパリの町では、1人の深く軍帽を被った若い男士官が夜のパリのモンマルトル区を歩いていた
モンマルトルは戦争前の昼は観光地であったが、戦争前の夜と戦争中は一気に風俗店や酒場等が立ち並ぶ繁華街となっている
戦争中の現在は、戦場帰りで昂っていると同時に懐に余裕がある兵士を狙って陥落した町などから避難して来た娼婦などが屯しており、懐に余裕のなかったりそもそも従軍娼婦など買って満足している兵士達が酒場で酒を煽っている光景が広がっていた
そんなこの場所にいる娼婦達や娼婦に変装して諜報活動を行う諜報員達にとって、金と情報を持っている士官は絶好の獲物であったが、その士官は彼等に対して
「もう相手がいて急いでいる。」
とあしらって急ぎ足で歩いていた
そしてその士官はある一軒のどこにでもありそうな娼館も兼ねた酒場に入っていった、その酒場は前線から戻って来た兵士達や下級士官達で大混雑していた
その士官は周りのテーブルなどに目もくれずにカウンターまで行くと丁度空いた席に座り、カウンターの内側で忙しそうに注文を捌いていた店主に、安い赤ワインとつまみとして安いベーコンとキノコの炒め物を頼んだ
そして暫く出て来た料理を摘まんでいると、一人の媚びるような眼をしている若い扇情的な服を着た娼婦風の女性が近付いてきて一言二言言葉を交わすと、二階に昇っていった
そして女に連れられて二階のある部屋に入っていった
そして部屋に入るやいなや、女は今までの媚びるような眼をやめて鋭くすると窓のカーテンを閉めてベットとランプとクローゼットがあるだけの部屋を確認し、クローゼットの中の底にあった板を外した、そこには小さな一階の隠し部屋まで続く隠し階段があり、女は士官をそこに誘った、そして士官が階段を下りていくのを確認すると女はクローゼットとベットに隠していたブリティッシュ連合製のステン短機関銃とその弾薬に自決用の破片手榴弾を取り出すと静かにクローゼットの中に隠れて見張り始めた
階段を降りて行った士官は真っ暗な隠し部屋に入ると
「パリは花と女性の香りがする。」
と呟いた
すると部屋に光が灯った、その部屋は壁はレンガ造りで床が木で出来た真ん中に電話が載ったテーブルと2つのイスしか無い殺風景なものだった
士官は特に気にした様子もなくテーブルに近づくとイスに座らずに電話を取った、そして
「扶桑に栄光を。」
と話すとイスに座った
すると床から一人の仮面を付けた男か女かわからない人物が入って来た
それを確認した士官は張り詰めていた雰囲気を無くすと肩を回してコリを解し始めた
入って来た人物はそれをみて中性的ではあるが少し不機嫌な声で
「不用心過ぎないか、5番? それでは他の組織に殺られるぞ?」
と英語で話した
5番と呼ばれた士官はそれに苦笑すると
「しょうがないでしょ方面長、俺ガリアにいる連中のまとめ役とCIAの二重諜報員もしてんだぜ? 休む暇ねえよ。」
と話した
それに方面長と呼ばれた男は仮面を外して溜息を吐きながら
「まあお前だから問題は無いか...飯を食いながら報告を聞こう。」
と話し、手を叩いた
すると床から料理を持った黒ずくめの服を着こんだ者達が出てきて酒場で出てきそうなガリア料理(フランス料理)をテーブルに並べていった
そして出て行ったのを確認すると二人は暫くの間無言で料理を食べた、そして半分程食べると食べながら報告を始めた
「俺が配属されている物資集積所に最近大量の物資が集められてる、どれもガリア北部に送られている見たいだ、ただ北部にいる4番からの報告だと大量のトラックが配備されたそうだから防諜の為に経由させているだけかも知れない、南部に展開している帝国軍に警戒を出した方が良いかもしれない。」
「それと最近噂になっているんだけど、大規模爆撃が行われるらしい」
「6番から報告で最近合衆国軍は本土の精鋭を欧州戦線へ回しているようだ、大規模攻勢が近いようだ。」
そう彼...ジム・フランクリン、組織内では通称5番と呼ばれるこの男は、合衆国で生まれて合衆国内の扶桑系組織で育てられて合衆国軍に入った諜報員である、さすがに攻勢計画は掴めないが物資の動きは分かるので、民間人に扮して諜報活動行う扶桑帝国の諜報員達のまとめ役になっていた
因みにかつて直哉が言っていた諜報機関の長の後継者候補である
そんなこんな色々と報告し終わると、ふと思い出したかのように尋ねた
「そういえば何でか知らないけど扶桑の最新鋭戦車の情報が入ってきてたけど、方面長流した?」
「ああそうだ、と言っても下方修正した物だけどな。」
方面長は最後に残っていたデザート(ミルクレープと果物盛り合わせ)を胃に入れながらそう話した
ジムはそれに
「そうなのか、今俺CIA所属の諜報員もやってるからそっち経由でも情報が入ってくるんだよ、その情報だと結構低性能だったからおかしいとは思ってたんだよ。」
と話すと同じくデザートの最後の一口を食べ終わると、コーヒーを飲みながらしみじみと話し始めた
「それにしても組織に入ってそれなりの立場になると驚くよ本当に、まさか扶桑帝国の欧州方面ガリア地域の活動の拠点がこんな大々的に開かれてるとは誰も思わないだろうね。」
方面長はそのジムに頷くと
「確かに出来た頃はガリア共和国になる前のフランス王国の防諜機関に疑われたが、もう何百年も経つから特に心配は無いからな、しかも金額こそ少ないが諜報資金も売り上げを少し誤魔化して調達できるから中々に使い勝手がいい。」
と話して腕時計を見た、そして
「そろそろ上の部屋に戻れ、戻ったらアリバイも兼ねて案内した女を抱いていいぞ、あいつは私の娘でお前の事を好いているからな、引退したら籍入れる事を約束するならだけどな。」
と言った、ジムはそれにポカンとした表情を浮かべると
「え? 嘘だろ? 確かに方面長の娘さん好きだけどあんなパッとしない外見じゃないだろ、美女でしょ。」
と話したが、方面長はそれになんとも言えない表情を浮かべて
「...知ってるか? 女って化粧次第でどうとでも外見を変えられるんだ...さあお話の時間は終わりだ。」
と言ってジムを部屋から追い出した
ジムが上に戻ってから暫くすると、くぐもった男の呻き声と女の嬌声が少し聞こえ始めた
その声を聞いた方面長は
「やれやれ、結局娘が襲ったか。」
と溜息を吐いて部屋から出て行った
裏設定
扶桑帝国では9月1日より戦車の分類を従来の軽戦車、中戦車、重戦車から変更して
多目的に使える汎用戦車、主戦力となる主力戦車、火力支援を担当する支援戦車に分類を変更した
兵器紹介コーナー
三六式主力戦車『チリ』
全長 8.5m
車体長 6.9m
全幅 3.3m
全高 2.8m
重量 45t
速度 46km/h(整地)
31km/h(不整地)
行動距離 250km
武装 主砲 三四式90mm対戦車砲
副武装 三六式軽機関銃×2
乗員 5名
エンジン 飯島重工製550馬力ディーゼルエンジン
使い勝手の良かった『チハ』の設計を元に、現場からの意見も反映させて作り上げた主力戦車
三六式支援戦車『オ二車』
全長 10m
全幅 4m
全高 2.1m
重量 88t
速度 前進時20km/h 後退時30km/h
武装 三六式100mm長砲身対戦車砲改1門 60発
二八式37ミリ短砲身歩兵砲1門 80発
三六式軽機関銃2門 1500発
装甲 前面装甲:90mm
側面装甲:50mm
乗員 8名
エンジン 飯島重工製900馬力ディーゼルエンジン二基
重すぎた『オイ車』を再設計する事により軽量化させたもの
武装を重い対歩兵砲から比較的軽量である旧式の歩兵砲を在庫処分も兼ねて変更、主砲も『オイ車』の物から軽量化させた三六式100mm対戦車砲を搭載させる事により、かなりの軽量化に成功した
軽量化してエンジンに余裕が出来た為、その分を少し弾薬庫と装甲の大型化して全体的な高性能化に成功した




