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欧州へ!

1936年8月21日午後1時

スエズ運河


連合諸国によるシャム地方に対しての大規模侵攻が落ち着き、更に1か月前に海軍によってヒンドゥスターン洋(インド洋)の連合の拠点の攻略に成功し、軍事的にも補給的にも余裕の出来た扶桑帝国軍は、欧州で激戦を繰り広げている同盟諸国に対しての支援作戦の一環として、海軍は最新鋭正規空母『飛龍』を中心とした1個機動艦隊『第6機動艦隊』と、陸軍は全ての戦車と装甲車が新型である『第7機甲師団』『第25装甲歩兵師団』『第31装甲歩兵師団』『第41歩兵師団』の総数四万五千人規模の派遣を決定した

一部を除く陸軍将兵達は既に、扶桑帝国とモスクワ連邦の永遠の友好を願って共同建設されたシベリア鉄道を使い先発して欧州に向かっており、ここスエズ運河には鉄道ではとても運びきれない物資を運ぶ輸送船団とそれを護衛する第6機動艦隊の艦艇で大混雑していた


スエズ運河のあるアフリカ大陸は、ガリア共和国とブリティッシュ連合王国の二ヶ国が中心の連合陣営軍とローマ連邦王国とスルタン中東同盟とゲルマン連邦帝国の三ヶ国が中心の同盟陣営軍との激しい戦いの舞台となっていた

現在同盟陣営軍は北東地帯を確保しており、それ以外の地帯を連合陣営軍が確保している状況である


アフリカ大陸は同盟諸国と連合諸国両陣営にとって強襲上陸の拠点になりうる重要地帯である、他にも北西地帯は連合陣営である共和国の本国に一番近い植民地であり、北東地帯は古くからスルタン中東同盟の最重要植民地であり、長年に渡り友好関係を育んできた遊牧部族や交易部族の住んでいると同時に多量の地下資源が眠る精神的にも戦略的にも最重要拠点である、それ故に両陣営多数の部隊を展開して膠着状態に陥っていた


しかし今回の扶桑帝国軍の進出によりその膠着状態は崩れる事が予想されており、その為同盟陣営はこの度の扶桑帝国軍の進出の援護の為確保している沿岸地帯一体に航空機地を設営した

連合陣営にとってもこれ以上不利にならない為に意地でも進出を阻止するために中央部から護衛戦闘機付きの重爆を飛ばしており、それを阻止しようとする同盟陣営の航空隊と大航空戦を繰り広げていた

その凄まじい規模から後にこの航空戦は『アフリカ大航空戦』と呼ばれることになった


そんな硝煙や航空機の爆音が鳴り止む事がないスエズ運河に浮かぶ扶桑帝国海軍『第6機動艦隊』の旗艦である正規航空母艦『飛龍』の士官用食堂では、筋骨粒々過ぎて海兵というよりは全世界の激戦地を渡り歩く傭兵と言う程の50代後半程の体を無理矢理将官服に押し込んだような男が5人前はありそうな飯を掻き込むように食っていた、その男の将官服の襟には中将の階級章が光っていた

そんな男を周りにいる士官達は少し呆れたような見ていた

そうしていると一人の20代前半の准将の階級章を付けた士官服を着た女が入って来た

中将の階級章を付けた将官服を着ている男を除いた食堂にいる士官達は敬礼して、入って来た将官に道を譲った

准将はそれに返礼すると


「山口中将! 探しましたよ!」


と中将に話しかけた

山口と呼ばれた中将...この第6機動艦隊を預かる通称『空母戦の鬼』『どこか抜けている癖に空母任せたら扶桑一』こと山口多聞丸やまぐちたもんまる中将は食事の手を止めると威厳溢れんばかりに話したが


「なんだね山口君、海軍士官たるもの絶えず余裕を持って行動したま「ゲルマンとモスクワの大臣が出席する式典の話し合いをするとか言って『飛龍』に各分艦隊指揮官達集めたの忘れたんですか! もうすぐ連絡機で来ますよ!」...あ、忘れてた。」


と自らが犯した失態に気が付いた

准将...海軍総司令部から山口多聞丸中将への配慮(御目付役兼秘書)として、一年前に少佐として神風型駆逐艦一番艦『神風』を預かっていた艦長から空母『飛龍』艦長に任命された山口多聞丸中将の一人娘である山口姫香やまぐちひめか准将である

始めは海軍内でも、いきなり少佐から准将への昇格に反対意見があったが、彼女自身が生まれつき「一度勉強したら忘れない」という能力や真面目な性格に加え、外見がとてつもない程の大和撫子風な美女という事もありプロパガンダも兼ねて昇格が決まった経緯がある


とにかく多聞丸は急いで残っている料理を口に入れようとしたが


「ああ、急いで食わなくてもいいぞ多聞、俺たちも一緒に食いたいからな。」


「そういう事だ姫香ちゃん。」


と入って来た将官二人がそう言った

姫香は溜息を吐きながらも


「父を甘やかさないでください大西少将閣下に宇垣少将閣下」


と言ったが


「まあまあいいじゃないか。」


と同期にして親友である大西瀧治郎少将と宇垣纏少将二人に言われ渋々下がった

多聞丸は二人に人懐っこい笑みを浮かべると


「おう一緒に食おうや、なあ今日の飯はこれ以外あるのか?」


と二人に言いながら、併設されている厨房で作業をしていた調理兵に尋ねた

調理兵は厨房からひょこっと顔を出すと


「ええありますよ長官殿、本日は金曜日ですので験を担いで豚カツカレーライスとサラダ、カレーがダメなら麦飯と味噌汁と刺身盛り合わせがあります、因みにカレーも麦飯です。」


と告げた

因みに多聞丸は現在カレー二人前にどんぶりに山盛りよそった麦飯三杯に味噌汁二杯に刺身盛り合わせを五人前完食しており、今現在は新たにカレーを食っている、尚豚カツは給仕をした兵士から「長官が豚カツ食ったら他の方々の分まで無くなるからダメです。」と言われ渋々諦めた

そしてやって来た三人が席に座り料理が運ばれてくると食べながら打ち合わせを始めた

そして打ち合わせも終わり食後のコーヒーを飲みながらゆったりを食後の休憩を始めた

多聞丸は二人を見ながら


「にしてもまさか瀧治郎と纏の二人が俺の部下になっちまうとはなあ。」


と漏らした

纏はそれに笑いながら


「構いやしねえよ、お前の指揮下なら安心して戦えるしな、しかも姫香ちゃんが嫁さんに変わってお前のケツ叩くんなら更に安心だ。」


と答え、瀧治郎も笑った


「そういう事だだ、気にしちゃいないから安心しな!」


と多聞丸の肩をバシバシ叩いた

姫香は


「私は只でさえ珍しい女性海軍兵に加えて史上最年少艦長だったのに、それが父のお蔭で最新鋭正規空母『飛龍』の艦長に...」


と溜息を尽きながら話した

そして続くように纏が


「そういえば今回の人事は色々とおかしな事だらけだ...幾ら何でも航空戦に関しては素人の姫香を何故最新鋭の空母の艦長に据えたんだ? それこそ副司令官にしちまえば済んじまうのに。」


と疑問の声を上げた

更に瀧治郎が


「俺が聞いた話だと、本来なら今回の派遣艦隊の司令長官には一航戦の南雲が任命される予定だったらしい、けどそこに噂の転移者である直哉近衛武官が口を出して多聞丸に変えたらしい。」


と話した

多聞丸はその瀧治郎の言葉にコーヒーのお代わりを三人に注ぎながら


「ああなんでも南雲自身が固辞したらしい、理由としては南雲自身水雷屋出身なのと今現在本土で編成中の新型の最上型汎用重巡洋艦で構成される戦隊の指揮をしたいからだと言われとるらしい。」


と話した、そしてコーヒーを一口飲み一息つくと


「そんな事があって本来なら二航戦の指揮官だった俺が充てられたらしい...艦の名前が『飛龍』と『蒼龍』じゃないからヤダってダダこねて抵抗したのに、そしたら本来なら改飛龍型として設計された戦龍型正規航空母艦って名前になる筈だったこの艦を、飛龍型正規航空母艦って名前まで変えて逃げ道塞ぎやがって。」


とぼやいた

食堂にいた全員はその話を聞くと呆れた表情になった

そして代表する様に纏が


「...昔からお前は自由気ままだったがここまでとは...まさか本国がお前の為に艦の名前まで変えちまうとはな...娘を副官にした時は耳を疑った位だったがここまでとはな...」


とこめかみを抑えながらそう思わずつぶやいた

そんな空気も知らずに多聞丸はコーヒーを胃に流し込んだ


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『飛龍』の艦内でそんな事になっている時、艦隊に守られている輸送艦隊の中でも極めて巨大な兵員輸送艦『第一福竜丸』の甲板の淵には大将の階級章を付けた濃い焦げ茶色の陸軍の軍服を着た50代後半の男がいた

そして暫くその男が海に浮かぶ艦艇を眺めていると後ろから准将と大佐の階級章を付けた軍服を着た二人の男近付いて声を掛けた


「山下閣下、此処におられましたか。」


「探しましたよ。」


「牟田口君に辻君か、どうしたのかね?」


山下と呼ばれた大将...山下奉天大将は近付いてきた牟田口廉也准将と辻政信大佐にそう言った

二人は持って来た最近軍が生産を開始した缶詰めした緑茶を渡した

そして山下の両脇を守るように並んだ

辻は缶のプルタブを開けながら山下に


「閣下、幾ら友軍の艦艇や航空機に守られていると言ってもせめて護衛をお連れください。」


と小さく言い、牟田口も


「自分も同意見です、従兵を撒いていなくなったと聞き肝が冷えました。」


と言った

流石に思うところがあったのか山下は


「すまんな。」


と言った

そして三人は暫くの間無言で眺めているとふと牟田口が話し始めた


「...閣下、自分が皇帝陛下から最新鋭の機甲師団を預かってしまってよかったのでしょうか、直哉近衛武官殿の話によれば武官殿の世界では自分は帝国一の愚将と呼ばれていたそうです...そんな自分が大部隊を率いてしまって良いのか不安になるのです。」


それに辻も


「自分もです、正直な所歩兵連隊を預かる自分も前線よりも後方で椅子を温めていた方が良かったと思うのです...既に陸海両軍の有能とは言い難い士官達は窓際に送られているそうです...なぜ自分はそうならなかったのでしょうか?」


と小さく漏らした

山本は無言で二人の顔を見ると少し笑みを浮かべた、そして話し始めた


「...実はな、本国を旅立つ直前にその近衛武官に呼ばれてな、こう言われたんだよ『大将に牟田口廉也准将と辻政信大佐二人を預けた理由ですが、この二人は間違いなく有能なです、牟田口准将は始め補給に関しては大本営よりも関心があり戦術に関して優秀な参謀を付ければこの上なく頼りがいのある将校になります、辻大佐は方面軍の参謀には向いていませんが連隊規模の将校としては帝国でも上位の指揮官でしょう、自分の知る牟田口という歴史上の人物は恐らく心を病み愚将と呼ばれるようになったのではないかと考えています...彼等は使いようによっては優秀な手駒になる、よろしくお願いします。』とな。」


と話し二人を改めてみると


「安心しろ、ちゃんと認められているからな。」


二人は無言で顔を上げた、表情は何か憑き物が取れたような晴れ晴れとした表情だった

山本はそれに満足気な表情になるとお茶を飲んだ


戦いは近い

色々な意見があると思いますが自分としては精神が壊れた説があると思います

牟田口さん現役時代大本営に何度が反対意見出して作戦中止させたり、インパール作戦も彼自身限られた手段で考えた物でしょうし

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