会談その二
「そちらの不況はそんなに酷いので? 自分の認識ではかなり大規模な公共事業と連合諸国への大規模輸出でかなり持ち直せると思うのですが?」
貿易交渉等の簡易な事前協議をしてちょうど昼になったので、会談室から出ていた幸とグレイスがお代わりのコーヒーと軽い昼食をカートに持ってきて会談室のテーブルに並べ出ていくと、そう直哉は話した
グレーは食べていたサンドイッチゆっくり飲み込むと
「うーむいいスモークサーモンですな、実に美味い...正直な所言いますが厳しいですな、なんせステイツの経済は巨大です、そちらの諺で言うなれば『焼け石に水』という事ですな、最悪世界大戦で膨大な消費でもなければ持ち直せないでしょう...」
と話した
直哉はそれに
「我が国で取れたベニザケを使用しております、土産にどうぞ...しかし世界大戦に参戦したのでは? これ以上我が国に挑発する意味が分かりません。」
と話した
グレーはコーヒーを少し飲むと
「楽しみにしてます...これは私の予測なのですが産業界は味を占めたのでしょう、大陸国家の集まりである同盟諸国との戦争ではそこまで艦船が必要無い、しかし海洋国家である扶桑帝国と戦争するとなれば大量の艦船が必要となるでしょう、あまり戦争特需に触れていない造船業は大儲けするでしょう。」
と話した
「我が国では軍事関係の生産は国営企業が行っていますからそういう事を考える企業は少ないですからね...そちらでは軍事関係の生産はかなり民間企業が行っているそうですから圧力掛けてくるでしょうね...」
直哉はグレーに同情しながらサンドイッチを食べた
グレーは溜息を吐くと気分を変えるように笑顔で
「まあ政治的な話はここまでにしましょうか...神楽陛下の御懐妊おめでとうございます、私も孫が出来たように嬉しいです。」
と話した
直哉は照れるのかポリポリと頭をかいた
「ありがとうございます、いやーまさか私が父親に成れるとは思いませんでしたよ。」
「陛下...神楽が生まれる一年前に扶桑に着任したので実に嬉しいですな...今でも生まれたばかりのあの子を抱かせていただいた時の事を思い出します...政治から引退したら扶桑に移住しようと思いますよ。」
グレーは大使としての顔を引っ込め、普通のそこら辺にいる老人のような雰囲気になるとそう言った
そして椅子の背もたれに背中を預けると
「私がこの国に着任する際に父と母に言われた事を思い出します...『ジョセフ、人種差別という愚かな事を考えないお前なら、扶桑は第二の故郷と思うだろう、そして扶桑の皇帝はそんなお前を家族と思ってくれるだろう、頑張りなさい。』と言っておりました、神楽が妊娠したと聞いた時私は心の底から嬉しかった、かつてサンフランシスコに住んでいた妹が子供を産んだと聞いた時と同じ位嬉しかった。」
と笑みを浮かべてそう話した
直哉はその言葉に笑みを浮かべると
「自分は先帝陛下からあなたが血は繋がっていない家族の様な存在だと聞いています...あなたの第二の故郷は滅ぼさせませんよ。」
と話した、そして顔を引き締めると
「そんなあなただけに伝えます、この話は大統領に報告しないでいただきたい...」
「あの馬鹿共に伝えなければ良いのでしょう、簡単な事です...それで?」
グレーは顔を直哉に近づけた
直哉は小さな声で話し始めた
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「本日はありがとうございました近衛武官殿。」
「こちらこそ大使殿」
既に日は暮れて夜になってしまっていた
大使は直哉に見送られながら御所から帰っていった
そして車の中で運転手が話した
「大使殿、会談はどうでしたか?」
グレーは会談の際の優し気な雰囲気を消し、足を組みタバコを吸い始めながら
「ふん、所詮若造だったわ、警戒していた私が愚かだった。」
と侮蔑するような口調で話した
運転手はその言葉に嬉しそうに
「そうですか、所詮しゃべる猿でしたか。」
と話した
大使はそれに笑いながら
「ああ、大統領閣下には嬉しい報告が出来るぞ!」
としゃべった
そして徐々に遠くなる皇居を見ている振りをしながら運転手をチラリと見た
「(全くこんな簡単に騙せる監視しか送ってこないとは、CIAはかなり扶桑を舐めているようだ...しかしそれなら好都合だ。)」
そして今も嬉しそうに運転している運転手を内心で嘲笑い
「(頑張れよ愛すべき神楽の婿殿よ、私は絶えず君達の味方だからな...私の第二の故郷を馬鹿共の好きにさせるなよ。)」
と直哉にエールを送った




