会談その一
1935年9月6日金曜日午前10時
謁見室の隣にある会談室
この日直哉は代々神隠しにあった人間しかなれない近衛武官として、親扶桑家(親日家)で有名な合衆国の駐扶桑大使であるジョセフ・グレーと会談を行う為、謁見室の隣にある会談室に護衛兼給仕として幸と白系扶桑人の近衛兵であるグレイス・メアリーを連れて待機していた
「グレー大使はまだなのか?」
「今到着したと報告が入ったから待ってなさい。」
「そういう事よ直哉。」
なぜ直哉が幸とグレイスにかなり砕けた口調で会話しているのかというと、つい先日妊娠が発覚した神楽から
『わらわが妊娠している間お主の相手出来んから、護衛兼妻として幸とグレイスを付ける...本音としてはわらわ女もいけるからなんじゃがな。』
と半ば強制的に二人と婚姻させられたのでこんな口調になっている
幸は直哉を気に入っていた為素直に応じ、グレイスは小さい頃大帝に拾って育ててもらった恩と直哉の性格が気に入り婚姻に応じている
そんな二人と会話しながら待っていると
「遅れてしまい申し訳ありません。」
と声を掛けながら一人の優しそうな目をした50代程の白人男性が会談室に入って来た
直哉は立ち上がり笑みを浮かべながら
「いえ大丈夫ですグレー大使殿、私が早く来すぎてしまっただけですので...コーヒーでよろしいですか?」
と丁寧に英語で話して、幸とグレイスに目で合図した
グレーはそれに嬉しそうに頷いた
幸とグレイスはコーヒーと茶菓子を用意すると部屋から出ていった
直哉は出て行ったのを確認すると笑みを消して真剣な表情でグレーを見た
グレーもそれを確認すると
「今回はすみませんねぇ...あの脳みそが無いにも等しい大統領にも困ったもんです...」
と溜息を吐いた
それに直哉はその言葉に
「やっぱりそうですか、こちらに入ってきた情報でも今回の事故は故意に起こされた物と聞いています、落ちたパイロットの話では今回のハワイ駐留艦隊の増強に対しての挑発行為を行う空母エンタープライズを旗艦とする小規模な艦隊が出撃、その際に見慣れない整備士達が乗艦、落ちた機の整備を担当したと...」
と話した
グレーはそれに厳しい顔で話した
「そうです、海軍の上層部にいる私の友人達の話ではその整備士達は大統領が口を出した者達だとの事です...恐らく時限発火式の装置でも仕込んでいたんでしょうな、本来なら事故でそのパイロットは死亡したとして...」
「扶桑を同盟国側とプロパガンダを流して連合諸国を巻き込んで戦線布告ですな...」
直哉はグレーの言葉にそう返した
グレーはそれに深く頷くと
「ええ、そして扶桑が連合諸国に輸出していた食料品や医薬品を我がステイツが輸出して大儲けするというシナリオらしいですな...大方産業界のクソ共が戦争特需を拡大したくて大統領に賄賂でも渡したんでしょうな。」
と話した
直哉はそれに
「はあ...自分の生まれた世界の合衆国と同じかそれ以上にクソですね、全く!」
と憤りの声を上げた
グレーも
「全くですな! あの大統領は不況を打ち払うと公約として当選したくせに出来ないとなったら他国を敵視し不況から国民の目を反らさせる...あの馬鹿はステイツを滅ぼす気か!」
と顔を怒りに歪ませながら声を上げた
直哉はその言葉に
「我が帝国では最近貴国への不満が小規模ながらで始めています...不平等な条約を提案し圧力を掛けてきたら確実に爆発するでしょう...そうなったらどうなるかわかりません。」
と真剣な表情で話した
グレーも
「わかっています、大統領には必ず警告します...まあ、あの馬鹿大統領は私の話なんぞ鼻で笑うでしょうが...」
と溜息を吐いた
直哉も大きなため息を吐き冷めてしまったコーヒーを飲み干した
会談は続く...




