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死神3

 【死神】の狂気に満ちていた雰囲気はどこか薄れ、その手に持つ武器は先程まで彼女の欲望を体現しているかのように思えたはずが、今はそれはただの短剣としか思えない。


 殺意を感じられない。


 ツミルは今まで殺意なんてものとは無縁だった。ほどんどの人間がそうだろう。

 殺意の有無を判断できるようになるほどに【死神】は異質な存在だったのだ。


 たとえ、殺意がなかろうが【死神】が異質なことには変わらない。



 【死神】は走りだす。凹凸の少ない洞窟内では音が反響しやすいはずなのに彼女の足音は響かない。直線的にツミルとの距離を詰める。


 ツミルは鞭を構えたまま【死神】の動きを見る。鞭の攻撃が最も有効になるタイミングを逃さないためである。

 鞭は本来上から下へと打ち付けるものだ。ツミルの持つ鞭━━【鞭紅蒼月】は全長五メートルもある。それだけのものを操るには技術はもちろんシステム的な補助も必須だ。


 ツミルの持つスキル【鞭level19】では対象に鞭が当たるようになる程度のものであり、大技や奇術のようなことはできない。ほかは【スパークウィップ】発動中でなら【鞭紅蒼月】の【特殊効果】攻撃範囲拡張による地を走る電撃攻撃ができるくらいだ。


 【スパークウィップ】を発動して鞭を地面へと叩きつける。青白い火花は蛇のように地を走り【死神】へと向かう。何度も地を叩き電撃わ走らせる。

「子供騙しね」 

 【死神】の足は止まらない。地を走る電撃を前進しながら飛んで回避する。

 【死神】は見切るように全ての電撃を避ける。襲いかかる電撃を全て回避してツミルとの距離をほぼゼロへする。

 


「欺瞞に満ちたこの世界であなたには失うものがないのに何が怖いのかしら?」


 立ち止まった【死神】は問う。

 【死神】とツミルとの背丈はほとんど同じであり、 体と体が触れ合うような距離まで近寄られツミルは鞭を思うように扱えない。


「殺さないのか?」

 ツミルは後ずさりながら口を開く。VRゲーム経験四日の彼に対人戦闘の心得などなく、距離を取ろうにも選択肢が限られれてくる。

「殺すよ」


 言葉と同時にツミルの腹に短剣が刺さる。【critical130】と黄色い表示と共にHPゲージは無くなる。

 痛みもなく恐怖もない。それは空間そのものを闇へと飲み込ませる技ではないからだろう。


 dead状態になると意識は霊魂のようにアバターの上で浮遊する。周囲の様子が窺えるだけでそれ以上のことはできない。


 倒れたツミルを見下ろす【死神】の顔はどこか物寂しそうだった。


***


 【蘇生ポータル】でツミルは蘇生された。【bestfriendonline】の世界には大きな街が四つあり、【蘇生ポータル】はその四つの街にそれぞれ一ヶ所ずつ存在する。


 【始まりの街:フレンドラ】の中心に位置する教会の大聖堂が【蘇生ポータル】になっていた。


「やぁ、君も殺られてしまったか」


 少し元気がないリクラスの声がどこかいつもとは違う。身近い付き合いだがツミルには理解できた。

 他のメンバーもどこか陰のある表情をしている。


「エアフレが二十人消えた。くそっ、交流がないからって一回のデッドで切るなよっ」

「セトはバカみたいに人選しないからそうなるんだよ。一人一人を大切にするのがこのゲームの醍醐味だろっ?」


 不機嫌な感情を表に出すセト。

 ハリュカはセトを呆れたように見ていた。


「晴樹くん、その発言は酷いよ」

「怒るななちゃん可愛いけど、今は喜べないわね」

「ナナミ、別にいいんだよ。フレ切りなんてこのゲームでは当たり前じゃないかっ」


 死んだらフレンドにペナルティが発生する。内容は全スキルの総修練度の一割減少。例をあげれば、修練度が一でlevelが一上がるとしてlevel百だったとしよう。ペナルティによってlevelが九十になるのだ。

 スキルによって修練度によるlevelの上昇設定は違う。それでも実際の変化も激しいだろう。

 自分の失態ではないのに罰を貰う。その捉え方は人それぞれだ。


「まぁ、フレンド切られたことを嘆くより今は下がったスキルのlevel戻すのが先だな」


「くそっ、一人だけ切られてないと余裕なことだなっ」


「余裕な訳あるかよ。俺らは相互でペナルティ喰らってスキルの修練度が四割くらい削られんだぞっ」


 ハリュカの言葉を聞くとその場にいたツミル以外のメンバーは一斉にため息をする。


「五人分のペナルティが発生したからね。危険区に入る前にフレンドを解消してからの方が良かったね」

「そうね。フレンドボーナスに目を眩んだのが失敗だったかしら」

「ウサギっ、俺が悪いって言いたいのかよっ」

「フレンドを切らないって総意だったのだからセト一人の責任じゃないわよ」


 もし、彼らが危険区に入る前にフレンドを解消していれば全滅したとしてもスキルのlevelは下がることはなかった。《パーティーメンバーが全員フレンドだった場合修練度上昇率が二倍になる》ボーナスさえ諦めていたならと後悔したところでもう遅い。


「よしっ、気を取り直してスキルのlevel上げに専念しようじゃないかっ。後悔したところで意味はない。過ぎたことは気にするなっ。まさかっ【死神】が本当に現れるなんて誰も思いもしなかったんだからっ」


 リクラスの一声は場の濁った雰囲気を払うような力を感じさせる。

 セトは不意に笑う。


「【死神】って本当に見えないんだな。一瞬で殺られたぜっ」

「何もできなかったもんね」

「【死神】ってある意味この世界のラスボスだよな」


 セトの言葉につられナナミとハリュカが続いた。


「リクちゃんは私達の誇れるリーダーね」

「ヒメウサギ、誉めても何もでないぞっ」


 リクラスはリーダーとして場を納めた。それだけ人に慕われる才能があるのだろうとツミルは感じた。


「ツミル、ごめんな。俺らが無理して【危険区】に連れていって不快な目に合わせちまって」

 突然、セトが片手で謝罪の意を示しツミルに声をかける。


「べ、別に気にしてないからいいよ」 

「そっかっ、ならよかったぜ。リミットの奴が気分悪そうにログアウトしたからさ、初心者のお前もかなって思ったんだ」

「リミットが?」


 言われて周囲を見渡すツミル。

 どこにもリミットの姿はない。

 

「リミちゃん大丈夫かな? 心配だね」

「ナナちゃん、そう落ち込まなくても、明日元気つけてあげれば良いじゃない」

「ヒメウサギの言うとおりだ。そうだな、明日美味しいケーキ屋を紹介してやろう」


 【死神】に殺られても尚、彼らの友情は健在だった。

 だからか、【死神】の言葉がツミルの脳裏を過る。


『欺瞞に満ちたこの世界であなたには失うものがないのに何が怖いのかしら?』


 失うものとは【死神】にとって何を示していたのだろうかと疑問に思う。

 最後に見せたあの表情に込められた想いの正体がそうなのだろうか?


 


 

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