プロローグ
VRMMORPG━━【bestfriendonline】
「絆の数だけ強くなる。出会いを求めるRPG」
彼はそんな広告を視界に留める。黒い髪は癖が激しく、目は疲れを感じさせていた。
スマホの画面に映る広告を周囲の視線を気にしながら開く。
ファンタジー要素の高いゲームでありゲームの方は架空の現実であるが二次元要素が濃い。
【bestfriendonline】は約一年前に発売されたVRゲームだ。今まで発売されてきたVRMMORPG中でもグラフィックや機能、NPCの表情や動き口調など全てにおいて最先端である。人口の約八割がこのゲームをしているとかネットで騒がれているのが彼の記憶に新しい。
このゲームは絆をテーマにしている。友情が試されるゲームであり、その経験や過程の先にあるものは真の友情とまで称されるほどだ。
生まれて家族以外の絆に乏しい彼にとってはVRMMOは手を出しずらいジャンルだ。理由としては対人関係を結ぶのが極端に苦手であり、バーチャルリアリティーなんて相手と面と向かって会話することなど不可能だと理解しているからである。
ネットの掲示板とかチャットとか文字だけでしか会話ができない彼にはVRMMOはハードルが高い。それでも誰かとの繋がりを求めてしまう。
今は高校入学翌日の自己紹介タイム。クラスメイト達の自己紹介は口を揃えるようにVRMMORPG━━【bestfriendonline】のことだ。リアルの紹介なんてしてる奴など一人もいない。
アジリティ型とかインテ重視とかキャラの育成方針報告会になっている中、彼の心中は不安の一文字で埋まっている。後二人終えれば順番が回ってくる。
人間関係を築くための第一歩は共通点を探すこと。彼らクラスメイトの共通点といえば同じ学校で同じ生物くらいしかあげられない彼にとっては【bestfriendonline】は唯一彼らと繋がりを持てる可能性がある掛け橋なのだ。
前の人の自己紹介も終わり、出番が回ってくる。彼は覚悟を決め教壇の前まで歩き、彼らに顔を向ける。
「どどど、どうも、ひじかた……み……つるです。デッ……」
クラスメイト達の嘲笑に土方充は心が折れた。中途半端に自己紹介を終え、早々に席へと戻る。
━━嘘はよくない、まだ機会じゃない。【bestfriendonline】でコミュニケーション力を高めてからでいいよね?
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