表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/65

2 異能

「では、試合開始!」


 司会の声と共に、ドラゴンの拘束具が外れた。


「グォォォォッ!」


 歓喜の叫び声をあげながら、ドラゴンは目の前の獲物に突進する。

 そして、右手の爪の一撃を放つ。これで相手はただ食われるだけの肉のブロックになるはずだ。


 だが、その予想は外れた。まるでその軌道を()()()()()かのように完全に躱された。食われるはずの獲物はその一撃を完全に読んでいたのである。


 ドラゴンの右手の薙ぎ払いをかわした後、その右手の腱と思われる場所をハルは切り裂いた。ドラゴンの悲鳴が闘技場に響き渡る。


 右手が動かなくなったドラゴンは、まだ怯まない。代わりに数秒唸った後で、咆哮を放つ。

 『ドラゴンの咆哮』。

 並の人間では、聞いただけで理性を失い、パニックに陥るような咆哮である。だが、ハルは並の人間ではなかった。逆に好機と見たのである。


 腰から予備武器のダガーを抜いたハルは、咆哮中のドラゴンの左目に向けてそれを投げた。咆哮で体を動かせないドラゴンは、容易くそのダガーを左目に食らう。


「グオアアアアアアッ!」


 左目を失ったドラゴンの叫び声が響く。そしてドラゴンが次の行動に移る。


 右手は動かない。左手は…恐らくただ振りかぶるだけでは、右手のように潰されてしまうだろう。

 右手の一撃を躱した相手がモーションの大きいブレスを食らうとは思えない。

 なら残る手はひとつ。


 ドラゴンは一瞬後ろを向くと、大きく振りかぶって強靭な尻尾の一撃を放った。食らえば当然致命傷である。


 スローモーションとなった周囲の場の中で、ハルの脳内に赤いアラートマークと共に文字が表示された。


『左に避けろ』


 そして、もうひとつの回避策が同時に表示される。


『尻尾を縫い止めろ』


 ハルは、後者の指示に従った。

 ハルはショートソードを構える。相手は所詮家畜に毛が生えた程度の能力、動きにも無駄が多い。

 尾の一撃が地面をかすめた。当然尻尾の速度が落ちる。


 その瞬間をハルは見逃さなかった。

 ショートソードで速度の落ちた尾を突き刺し、地面に縫い止めたのである。


「ガッ!?」


 ドラゴンは自分の状況がすぐには理解できなかった。

 相手を肉片にするはずの尻尾が動かない。いや、尻尾が動かせない以上、それに繋がる胴体も動かせない。

 それがどういう意味を持つか。


 ハルは、縫い止められた尻尾を一足飛びに駆け上がっていた。

 上級クラスである魔物のドラゴン、だがそのドラゴンにも弱点は存在する。背の守りが鱗しかないのだ。

 これが伝説の古龍となれば話は変わってくる。火龍の鱗はそれだけで熱を持ち、鱗に触れた者を焼き尽くすという。

 だがここにいるのは、薬物と食事で強化されたただのドラゴンでしかなかった。


 背を上り頭に取り付いたハルは、ドラゴンの左目に刺さったダガーに手をかけ、渾身の力を込めてさらに一層奥に突っ込んだ。

 ダガーを握る右手が吹き出した血により真っ赤に染まる。


 これで勝負は決まった。

 ダガーの先端は、ドラゴンの頭骨を貫通して脳を掻き混ぜ、その生命を停止させる。


 暴れまわるドラゴンの頭にロデオのようにしがみつくハル。

 そして1分ほど経った後、ゆっくりとドラゴンが崩れ落ちた。

 ハルは飛び跳ねて離れた位置に着地した。誰が見ても文句のない完勝である。


「勝者、風のハル! 新たなドラゴンスレイヤーの誕生です!!」


 場内に割れんばかりの称賛が広がる。

 その声を聞きながら、あの日のことを考えていた。



 自分がこの世界に転生し、新たな人生を生きることになったあの日。

 今戦った竜の攻撃を読み切り、勝利をもたらしてくれたあの能力……スキルのこと。


 そして、そのきっかけを作り……何よりもまず、かつての妹、村瀬冬乃を助けてくれた恩人たちのことを。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ