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17 遺恨

「このバカ野郎!」


 アレクシスがハルの頭を小突く。


「依頼主を戦闘に巻き込むバカがどこにいるんだ! 護衛の意味を何だと思ってる!」


「い、いえ。そこまで彼を責めてあげないでください。元々最初に手を出したのは私ですし……」


 ネリアが申し訳なさそうにハルを擁護する。


「確かに軽率でしたな、ネリア様。あなたに万一のことがあれば私はコナー様に顔向けできなくなるところでした。ご自分の力量も身をもって理解されたでしょう。あなたの魔法はグレイ殿より上でしたか? ハル殿が助けに入らなかったら、ネリア様に勝ちの目はあったとお考えですか?」


 先程まではネリアを庇っていたアリアスも辛辣な意見を言う。


「……ありませんでしたね」


 ネリアが渋々ながらも自分の未熟さを認める。


「ですが、まだ自分は死ぬ運命にはない、そのことは分かっていたものですから……」


「それは言い訳にはなりません。まあお気持ちは分かりますが、ともかくこれを教訓としてさらに研鑽に励むことですね」


「……はい」



 ふたりの会話にハルが少々の違和感を感じたその時、アリアスが話題を変える。


「まあとにかく、皆様のおかげで討伐が成功したのは事実です。報酬は全額支払わせていただきましょう」


 アリアスが懐から袋を出した。中には金貨が入っている。

 枚数を数え、間違いないことを確認したアレクシスは鞄から書類を2枚取り出した。


「確かに。ではこれに依頼達成のサインを」


 ネリアが依頼達成を証明するサインを入れる。続いてアレクシスが報酬を間違いなく受領したというサインを入れた。

 そして1枚を鞄に戻し、もう1枚をネリアに渡す。


「では、これで依頼は完了となります。急な依頼を受けていただき、誠にありがとうございました」


 ネリアとアリアスが改めて頭を下げた。



「あの……」


 ハルが口を挟む。


「何でしょうか?」


「あのトロール、番だったんですよね?ひょっとして巣に子供が残ってたりとかしないでしょうか?」


「トロールの妊娠期間は10か月だ。ここに来る前に孕んでたんなら別だが、多分大丈夫だろ」


「幼体のトロールであれば我々でも討伐は出来ます。お手を煩わせることもないかと」


 アレクシスとアリアスが揃って反対するが、ハルは食い下がった。


「一応、巣を調べるだけ調べておいてもいいんじゃないでしょうか?」


 アレクシスとグレイが顔を見合わせる。


「……まあ、そこまで言うならお前が調べてこい。責任は持たんがな」


 妙に引っかかる物言いに気になるところはあったが、ハルはすぐ傍に見える岩山の洞窟に走っていった。


「……いいんですか?」


「構わんよ。ああいうのを見るのも勉強のうちだ」


 アレクシスがグレイに答えた。



 30分後。

 ハルは真っ青な顔をして戻ってきた。


「……子供は……いませんでした。でもあれは……ウェェェッ!!」


 とうとう耐えられなくなったハルがすぐ傍の水溜りにしゃがみ込み、激しく嘔吐する。


「……ケイブトロールが何でケイブトロールって言われるか分かっただろ。あいつらは暴走した時点で食性が変わり、腐肉を好むようになる。狩った獲物を巣に溜めこみ、腐りかけたところで食う。だから洞窟に住みつくんだ。どうせ半分腐った食われかけの魔物の死体やら、ダークエルフの遺体やらが散らばってたんだろ?」


「……は、はい……」


「これも勉強の一つだと思え。何事も経験だ」



 だが、巣にダークエルフの遺体があったと聞いたネリア達は表情を暗くした。


「遺体が残っていたのなら我々は遺体を集落に戻し、弔わなければなりません。それは我々の掟ですから、我々だけで済ませたいと思います」


「そういうことであればこちらの仕事はここまでですな。後片付けはそちらでご自由に」


「はい、分かっております。帰りの馬車も用意させましょう。今回はありがとうございました」


 再びネリアとアリアスが頭を下げる。



「次回の依頼はハンターギルドにお願いしますよ。貴方たちの手伝いなんて、できればお断りしたいくらいですから」


 エミルが言った。


「おい!」


 さすがにアレクシスが嗜める。


「……少々言葉が過ぎましたね。ただ、次の依頼をうちの団に持ち込まれた時、私が参加するとは考えないでいただくと有り難いですね」


 エミルの物言いに何も言い返さないネリアとアリアスだった。



 そして来た道を戻り、街道に着いた一行。馬車はそのまま残されていた。

 何も言わず馬車に乗り込む4人。そして馬車は走り始める。

 ネリアとアリアスはそれを無言で見守っていた。


 その馬車の姿が見えなくなった時、ネリアがポツリと呟いた。


「我々の先祖……いや、もしかしたら今の我々かも知れませんが、その罪は決して許されることのないものなのでしょうか?」


 アリアスはその問いかけに無言で答えることしかできなかった。



 ……帰路の馬車の中は、気まずい空気に満ちていた。勿論原因は、最後にエミルが言ったあの物言いだ。

 落ち着いたハルは考えていた。


 エルフとダークエルフは仲が悪い。

 それは以前町の私塾でも学んだことだ。だが、その理由までは教えて貰うことはできなかった。


「あの……」


 意を決したハルが口を開いた。


「エミルさん……いや、エルフはどうしてあんなにダークエルフを嫌うんですか?俺は理由を知らないんですが……」



 その答えに考え込む3人。

 だが、1分ほど経った後にエミルが口を開いた。


「いいでしょう、教えてさしあげます」


「おい……」


 グレイが嗜めるようにエミルを制する。


「言ってはいけない法があるわけでもないでしょう? そもそもこの件に関しては、我々エルフは一方的な被害者です。ダークエルフを責めてとやかく言われる筋合いはありません」


「確かにそりゃそうだが……」


 歯切れの悪いアレクシス。



「……大体1000年ほど前の事です。古い話ですが、エルフの古老の中には実際にあの女に会ったことがある者もいると聞きます。信頼できる話です」


 二人の意見を無視するように、エミルは話し始めた。

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