ここから始まる異常な日常
「誰だ?」
紫色がかった黒髪を腰のあたりまで伸ばしている女がいた。家には基本的には女はいないはずだ。召使いも全員男だし。怪しいと思った。…が思い直す。この子は絶対違う。不審者なんかじゃない。だって…量は少ないもののきれいにカールした上品なまつげ、薄紅色の艶やかな唇、くりくりとした紫の瞳…。こんな子が侵入なんてするはずない。多分、美という言葉を具現化したらこういう風になるのではないか。その子は庭で迷ってるらしく(庭は、自慢じゃないがかなり広い)あたりをきょろきょろしていた。
が。
「あっ…」
目が合ってしまった。
とっさに目を逸らしてしまうが、人間、一度逸らしても、もう一度みてしまうものだ。…目が…あった。
その瞬間、女の子はいきなりハッとした顔になりこちらに走ってきた。それはもう、餓えた獣のような速さで。
「静斗様ですね!今向かいます!!目が合ったのに気づかなくて申し訳ありませんでしたぁぁ!!!」
あ…そこいじらないで…恥ずかしさがカムバックしちゃうじゃん!と、思っていたらその子はもう目の前で。
「お…おい…」
勢いのせいもあって豪快に抱きつかれてしまった。「静斗様!会いたかったです!この日を、この時、この瞬間をどんなに待ちわびたことか!」
えっと…俺に会いたかったの?
っていうか!初ハグが高校2年生にしてやっと…!…じゃなくて!!初対面で抱きつかれたんだぞ!?で、でも…こういうときってどうすればいいのだろうか。高2にして童貞かつ彼女(経験)ナシの俺は必死で考えた。
1.やんわりと手を払う
2.あくまでもいやらしい考えなんてないよアピールをするが現状維持で幸福を味わう
3.本能のままに押し倒…
さないよ!?な…なにいかがわしいこと考えてるんだ俺は!3を初対面ですると性欲丸出しの品のない奴らと同等…いやそれ以下だ!!そうなれば俺のgoldgentleman免許が剥奪されかねない!!と…とりあえず3はないな。っていうかgoldgentleman免許って何だろうか。こほん。とりあえず俺みたいな立派なgentlemanには程遠い発想だな。うんうん。だけど1もヒドい気がするし…
というわけで俺は2を実行した。
が、すぐに腕は離れた。
「先ほどは失礼いたしました。びっくりしました?今日から静斗様専属の家庭教師になりました一宮桜です。よろしくお願いします。」
家庭教師か。そう言えばそんなこといわれたな。
「一宮、よろしく。じゃあ部屋に案内しようか」
「はい!」
俺の異常な日々の始まりだった。