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正直、ちょっとなめてたと思う。
ボクは誰にも倒されないから、選ばれた特別な存在なんだって無意識に思っていたんだと思う。
冷静に考えればボクなんて、この世界に──いやこの迷宮の中にだって──数多ある宝箱の1つに過ぎないのにね。
まあなんていうか、ひまわりのレターセットは思った以上に人気が無かった。
ただでさえ人気の少ない通路だというのに、円満な家庭を壊す呪いの呪符だと怯えられること多々あり。
近寄りもせずにどうせクッキーだろうと放置する人たちも多々あり。
最終的に、
「とりあえず持って帰るか。はした金にはなるだろうし」
って人たちが来てくれたから良かったけど。
……いや、良かったのかな?
けどまあ、うん、なんか久しぶりに目が覚めた気がするよ。
久しぶりに眠気がとんだというか、生きているって感じがする。
……いや、今は死んで闇に沈んでいるんだけどね。
よし!
今度は万人受けする宝物を作ってやろうじゃないか!
少なくとも冒険者の100人に5人は欲しいって思ってくれるような何か……って何だろう?
今回の出現ポイントは、どう考えても迷宮の入口だった。
外だよ、外が見えるんだよ!
いや、厳密には外じゃないかもしれないんだけどね?
大興奮だよ、ボク。
空が青いよ。
まあ見えているのは少し歪んだ窓の向こうの空なんだけどね?
で、窓のこっち側は冒険者組合?
すぐ傍にある受付っぽい場所で、今はたぶん新規登録者が登録中で、冒険者組合についての説明がされている。
お、受付のお姉さんがボクを指差しながら、宝箱についての説明をはじめた。
曰く、この迷宮には知られているだけで、赤、青、緑、桃、水の5色の宝箱があるらしい。
基本的に赤は武器、青は防具、緑はアクセサリー、桃はクッキー、水はポーションを出すらしい。
へー、知らなかったよ。
「一番人気がないのが桃色だよ」
とか受付の奥のおじさんが言っている気がするけど、気のせいだと思いたい。
お、次は依頼表の説明か。
S~B、C~D、E、F~G、ランク無しで区切られた壁の一角に頭のない五寸釘みたいな釘がいっぱい打ち付けてあって、地味に危険地帯と化している。
次は書類の作成か。
「火の魔王が使えます!」
って言っているように聞こえるけど、火の魔法だよね?
魔王様を使役している訳じゃないよね?
「試しにアレに撃ってみろ」
っておじさんがボクを指差している気がするけど、気のせいだよね?
受付嬢が止めたし、気のせいだったことにしておこう。
最後に金属製のカードが渡されて、冒険者が1人誕生したっぽい。
うむ、立派な冒険者になりたまえ……ボクの住む迷宮を完全攻略しない程度に。
次は親子連れか。
「西という人物を探している。情報は無いか?」
へー、人探しもできるんだね。
「申し訳ありませんが、個人情報はお渡しできません」
……できないのか。
「では、依頼を出そう」
はうー、眠い。
1つ前の場所がモンスターは1日3体、冒険者は1日に2組見れば多い方だったんだよね。
その次がここって……。
いや、悪くはないんだけどね、刺激が多すぎてちょっと疲れたよ。
寝ることはできない宝箱だけど、ちょっとだけ意識を手放そうと思う。




