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ボクの心配は杞憂だったみたいだ。
元の肉体を取り戻した幼女はチートだったらしい。
魔王と勇者と聖女に直接会いに行き、直接ボコって、直接調教したらしい。
調教って意味がちょっと分かんなかったけど、もう問題はないってことらしい。
──ちなみに全部、幼女からの伝聞だ。
「なんでもっと早くこの方法を取らなかったの?」
とボクは思うんだけど、たぶん発想が無かったんだろうな。
だって骨だったし、幼女だし、たぶん人見知りだし、相談する相手……いや、なんでもない。
そんなこんなで、世界は今日も平和だ。
ボクは相変わらず初心者用の迷宮で、初心者用のクッキーを作っている。
レベルはまだ1だ。
ずっと1だ。
もうこの先もずっと上がらないんじゃないかなとうっすら気づき始めた今日この頃。
いや、まだ諦めてないけどね?
幼女は今日もボクの傍で、ボクが作ったクッキーをかじっている。
彼女が座るのはいつの間にか持ちこまれていたフリルとレースとリボンだらけの座卓セット(畳つき)で……謎が1つ解けた気がする。
勇者は覚醒しないままに80歳までこの世界にいて、元の世界へと戻って行ったらしい。
魔王は覚醒しないままに60歳までこの世界にいて、勇者と一緒に元の世界へと戻って行ったらしい。
──どうでもいいけど、60歳まで育っちゃったあとに8歳児の集団の中に戻って暮らすって大変そうだなと、ぼんやり思う。
聖女は覚醒しないままに78歳までこの世界で生きて、この世界に骨を埋めたらしい。
その妻も近々、同じ墓で眠る予定らしい。
金ぴかの人形はまだまだ元気に生きている(?)らしい。
金ぴかの宝箱は何も変わらないままに──『謎の物体X』3個も放置されたままで──あるらしい。
ボクはあれから一度も戻れていないので、これもまた幼女からの伝聞だ。
しかし、あんな金ぴかの宝箱の中身が『謎の物体X』という名のほぼ炭3個だけとか……見つけた人、相当ショックだろうなと、ちょっと遠い目になる。
あ、そうそう、ボクが最後に作った魔法だけど。
あれは宝箱を開けた人が、美味しいものをより美味しく感じられるようになる魔法だったんだと思うんだよ。
眼の前の幼女の様子を見ていると、そうだったとしか思えない。
ありがとうございました。




