16
「一緒に行こう?」
なんて可愛らしい幼女に可愛らしくおねだりしたら、ついうっかり肯いちゃう人もいるんじゃないかなと思う。
たとえロリコンでなくとも。
ああ、ボクもボクが宝箱じゃなかったら行ったかもしれない。
だがしかし、ボクは宝箱だ。
行けるわけがないだろと。
いや、目的地に行くことだけならできるかもしれない。
そこにはボクのもう1つの体があるのだから。
でもそれでは、一緒に行くってことにはならないだろう。
ボクには足もなければ腕もなければ触覚もない。
魔法もない。
移動手段が何もないのだ。
それともこの幼女、ボクに3つ目の身体を用意してくれるつもりなんだろうか?
なんかすごい魔法使いみたいだし、作れるよね?
「なら仕方がないの。行ってくる」
うわ、しょんぼりとした姿を見せながら、あっさりと置いていったよ。
いや、いいんだけど。
「着いたー!」
いつものようにぼーっとしてたら、なんかどっか遠くからそんな声が聞こえた。
気が付いたらボクは金色の宝箱へと移動していた。
「よし、開けるよ!」
幼女はなぜだか知らないけれども、ハイテンションだ。
止めるつもりなのかなんなのか、小山がもぞもぞしているけど、遅い。
どう考えても間に合わない。
もっとも、止める気があればの話だが。
「ぴきーん!」
何だかよく分からない擬音が幼女から飛び出し、宝箱はあっさりと開けられた。
宝箱に入っていたのは、思い出した通りに『謎の物体X』が3つ。
そして視界の端っこに、2つの質問と選択肢が浮かんだ。
3つ目は……ないな。
何か条件でもつけたっけ?
勘違い?
「よっしゃ! 可愛いリリちゃんにもーどれっ!」
いや、戻っても今と同じ姿なんじゃないの?
本体が骨じゃなくなるだけで。
あと、名前……リリっていうんだね、今初めて知ったよ。
他の異世界人たちのところにも、この表示は出ているんだろうな。
……唐突な流れで吃驚しているんだろうな。
ボクも吃驚してるし。
なかなか気づけない人もいるかもしれない。
結婚しちゃってる人がいた気がするけど、どうするんだろう?
残るのかな?
戻るのかな?
どっちにしろ、手放さなきゃいけない人は出るんだよね。
切ないなあ。
ま、ボクには関係のない話か。
制限時間は特にないんだし、じっくり決めればいいと思うよ、うん。
さて、それじゃあボクも戻るかな、元の姿に。
……いや折角だし、もっと若いころに戻るのもいいのかな。
ひまわりのようなあの子って一文が、妙に心に残っているんだよね。
ボクが通っていた小学校にはひまわり畑があってさ……。
だけど、そのひまわり畑に関する思い出が1つもないんだよ。
過去を書き変えたくなるよね、うんうん。
いやでも、もうちょっとだけこの世界を見てから戻るかな。
制限時間は特にないんだし。
それに幼女が1人でちゃんとやれるのかちょっと心配だったりもする。
だってさ、誰も相手しない真っ暗な空間の中で、それでもいつまでも待っちゃう人なんだよ?
骨の姿で。




