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さて、次は何を作ろうか?
いつも通りのクッキーが楽だし無難だってことは分かっているんだけど、ちょっと冒険したい気持ちもあるんだよ。
前回はショートケーキだったけど……。
「やっぱり、宝箱から消費期限の短いケーキが出てくるっておかしいよね」
前回は偶然入口付近だったし、開けた人も冒険者じゃなかったぽいから良かったっぽいけど……あれは例外だよね。
普通なら戦闘しながら戻るんだろうし……ぴっちりとした箱を用意したとしても、クリームの部分は戻る頃にはぐっちゃぐちゃだろうし。
ひんやりしていないと美味しくないし……。
うん、ここはやっぱり基本に立ち返ろう。
ボクが得意なのは初心者用クッキー、そして作ってみたいのはいつかMMORPGで見た魔法の巻物。
INTが0でもMPが0でも魔法が使えるという優れものだよ──使い捨てだけど。
効果としては、最寄りの町に瞬時に戻れるものとか、武器や防具を確率で強化できるものとか、アバターの見た目を変えられるものとかがあった気がする。
「よし、使えば初心者用クッキーが出てくる魔法の巻物を作ろう!」
レベル1の桃色の宝箱に魔法の巻物が作れるかどうかは知らないけれども、とりあえずやってみよう。
失敗すると燃料の足しにしかならない黒い『謎の物体X』ができてしまうので、ボクは慎重に作業を進める。
……慎重にやっても失敗するときはするんだけどね!
円柱の芯を作って、それに薄く広げた何かをゆっくりと丁寧に巻いていく。
最後に紐で縛れば、とりあえず完成。
「うん、いい感じ」
少なくとも見た目だけは立派な巻物になると思う。
あとは中身だね。
ボクは魔法なんて何1つ使えない宝箱だから、あとはスキルさんに希望を託すしかない。
「頼むよ」
ボクはそっとボクの中に巻物を入れる。
途端に生まれるフリルにレースにリボン……は今更気にしても仕方がないか。
刺繍もエンボスも諦めた。
ボクの思った効果さえ出してくれるのなら、お好きにどうぞって心境だよ、もう。
最後の仕上げで、何故か真っ黒に染まってしまったけれども、とにかく完成だ。
できた巻物を鑑定してみる。
名前:壱 種類:ボクが考えた魔法が封印された使い捨ての巻物 重さ:1
備考:火にくべると初心者クッキーに変わる。
ちょ、名前……じゃなくて、種類!
そこは『巻物』または『魔法の巻物』で良かったんじゃないの?
てか、火にくべるとって……。
巻物が燃えて、クッキーが出てきて、出てきたクッキーが燃えて……って、結局『謎の物体X』と大差ない代物だってことじゃないか。




