プロローグ
不定期連載です。
気分次第なところがあります。タグで既にネタバレしています。
父が死んだ。
そう報告を受けたのは昨日のことである。
突然のことだった。
最初はショックを受けた。
忙しいながらも幼いころは可愛がってくれていた。
中学に入ったあたりからは気恥ずかしくて会話という会話はしなかったが、嫌っていたわけではなかった。
まだ、親孝行など到底できていない。
もう少し何かしておくべきだったと後悔した。
しかし、翌日になってみるとショックより不安が大きくなった。
俺の家、神山家は国内有数の富豪である。
200年ほど昔、初代当主の神山正一郎は莫大な土地を購入し、街を作り上げた。
以来、神山家当主はその街を治めてきた。
父が亡くなったということは、次の当主は当然のことながら俺である。
神山家は街から少し離れた場所に本宅があった。
俺は小学校から高校まで、都市部にある学校に通っており、街の中を見たことはなった。
しかも、話もろくに聞いておらず、わかっていることは閉鎖的な街だということだけである。
当主となる人間ではあるから多少のことは教えてくれたっていい話なのだが。
(憶測するに、他に漏れてはいけない何かが街にはあるんだろうな…)
その日の午後、母に呼び出された。
場所は父が使っていた書斎である。
中に入ると、母はいつになく真剣な顔をしていた。
「そんな顔しなくても、大体話の内容は予想ついてるよ。」
「…諒介、本当はあなたに当主なんてやらせたくはないんだけれど……」
「大丈夫だよ。今までの当主にできてたのに俺にできないなんてありえないから。」
「あなたって本当…育て方間違えたわね。」
多少こわばった母の表情が緩んだ。
「で?」
「…学校は辞めてもらうわ。そして、明日から街にある別宅に住んでもらう。」
「別宅に?」
街には当主が住めるように別宅がある。
父もたまに行っていたから存在は知っていた。
「まだあなたに何も教えられていないし、住んだほうが早く適応できるだろうからって。」
「誰が?」
「お父さんの…当主専属の執事。」
「初耳なんだけど。」
執事などといったら主人の世話をするのが仕事なのだから会ったことがないなんて不自然すぎやしないか?
「街での仕事の時だけの執事なのよ。」
「…どんな人?」
「私も会ったことはないの。電話でお話しすることがあっただけで。声は若かったわ。」
「ふーん…」
当主に仕えるくらいだか老執事を想像していたのだが。
「話はこれだけよ。」
「わかった。」
「…気を付けてね。私も詳しくは知らない所だけど、はっきり言って危ない気がする。」
「覚悟はできてるよ。」
「ええ…」