あの、その、えっと 01
「お兄ちゃん。まさか、ゴールデンボールの所からおもらししたの?」
「そうなの? それはもう、大人として生きていけない、なのー」
ーーはっきり言おう。少しチビっている。
だが、ここでそれがバレてしまうと大人として……いや、人間として終わってしまうから、嘘をつくことにした。
「そっそんな訳ないじゃないか。自分はこれでも二十歳なんだよ?」
「だよねー、お兄ちゃん疑って悪かったね!」
「そうなの? ごめん、なのー」
汗のせいか、下着が肌にへばりつく嫌な感触に襲われてはいるが、なんとか二人を誤魔化すことができて、内心ほっとしている。
そして、二人とも屈託のない笑顔と穢れなき眼でこちらを見ている。実に微笑ましい光景だーーその手にあるスタンガンさえなければ。
この少女達はスタンガンがどのようなもので、どのような用途で使うべきものなのかわかっていないのだろう。
「君たち……。手に持っているそれはどんなことに使うか知ってるのかな?」
自分は自分の身を守る為にこの無邪気な悪魔達に質問することにした。
「うーんと、アリスお姉ちゃんが新しいゴミが紛れ込んだからこのビリビリするので退治して来てって渡してくれたよ!」
「そうなのー、ちなみに、これで倒したら何でも欲しいの買ってくれるって、フェリーでもって言ってた、なのー」
「あと、大輔お兄ちゃんは『めんどくせーな』って言ってた、なのー」
ーーあの人、そこまでして自分を痛めつけたいんですか!! あと、めんどくせーはないでしょ……。
どう表現したらいいのかわからない気持ちになりながらも、この場を乗り切ることにした。
「じゃあ、お兄ちゃんがアイス買ってあげるからやめにしてくれないかな?」
自分が会社の上司にもしたことがない精一杯の媚びた笑顔でこの少女達と交渉をした。
「お兄ちゃん買ってくれるの? なら、アノはいいよ! ソノはどうする?」
「ソノは最初から、こういうの得意じゃないの。だから、いい、なのー」
二人とも自分に屈託のない笑顔を向けている。先ほどまでとはえらく違い、心の穢れが落ちていくのがわかる。
「じゃあ、お兄ちゃんはアイス買って来るから待っててね」
「はーい!!」
「はい、なのー」
ーー子供なんかちょろいもんだぜ。
内心「してやったりだぜ、アマちゃんがよー」と言いたくなるほど、子供達は素直に騙されてくれた。全く、穢れがないというのはとてつもなく残酷ではあるが、その分、素直に騙されてくれる。自分にとってはとてつもなく都合良い。
だが、神様というのはよくできているもので、
「あっ!? お兄ちゃんにどんなアイス買って貰うか言ってなかったや」
「そうなの? ソノは何でもいいよ。アイス大好きだし」
「アノは嫌!! チョコミントのアイス買って来られたら、アノ食べられないもん!!」
「じゃあ、あのお兄ちゃんに着いて行くっていうのはどう、なの?」
「ソノ天才じゃん!! よし、着いて行こう」
ーー 上條功一 20歳 幼女二人を連れて逃亡します。