意志 03
「いくら俺でも、痛いんだよな。ったくよーー」
後藤大輔は何事もなかったようにまたサイダーをグビグビと飲み始めた。
その光景に思わず、こう言ってしまったんだ。
「お前達……エスパーなのか?」
また昭和くさいことを言ってしまったが、今はそれどころではない。目の前には皮膚を硬化させ鉛弾も潰してしまう人間がいる。
そして、後ろには平気で拳銃で人を殺せる女がいる。
ーー悪夢だ……。
今の自分にはその一言しか出てこない。この世の原理じゃ説明できないことが、ここではいとも簡単に行われている。
それも、とても当たり前のように。
自分が驚きのあまり腰を抜かしていると、後藤大輔は自分の方を指差しながら、
「お前も俺らの仲間だぞ、そんなビビることねーだろ、なぁ、アリス。それにエスパーって、お前本当に面白いこと言うな」
「ゴミだから仕方ないですよ、大輔さん」
「さすが、変態家庭教師は言うことが違いますな。人一人殺して、おまけに上司のおでこに発砲している始末。全く、最近の女はおっかないったらありゃしないな」
「…………」
アリスは再びあの冷徹で無慈悲な目をすると、左手の手袋を右手で掴んだ。
「いくら大輔さんでも今の言葉は許しませんよ。私、この手袋外しますから」
「お前、いくらなんでもここで外すことはねーだろう」
ーーこの手袋を外しますから?
自分が一番気になっていた、夏なのに厚手の黒い手袋をしていたあの手袋を外そうとしていることだった。
ーーまさか、あの手袋を外すことで能力を使うことを使うことをができるのか?
どのような能力かものすごく気にはなったが、逃げるには今しかない。それなら、選択肢はこれしかない。
ーー逃げるんだよーーーー!!
自分はこの混乱に乗じて逃げることにした。幸い二人は大喧嘩している最中だった為に、何も気づかれることなく部屋を脱出することができた。
ーー右に行くか。
ーー左に行くか。
昔見たアニメで「迷ったら右を行け」という言葉を思い出した自分はとりあえず右に行くことにした。
音を立てずにかかとから踏み込み、つま先をゆっくりと押す。一つ一つの動作を機械的に行う。
それだけを頭の中に入れて、なるべく音を立てずに歩くように心掛けた。周りから見れば変な人かもしれない。
でも、そんな贅沢が言えないのが今の現状なんだ。
そんな心の葛藤をしながらも、とりあえずあの場から離れることができた。そして、左右を用心深く確認する。
ーーよし、誰もいない。
安心しきった自分はまた忍び足で出口を探すことした。
けれども、何かに衝突し床に倒れこんでしまった。
目を開け、目の前にいる人物を見て驚愕する。
「お兄ちゃん、例の新入りの人?」
「アノ、違うよ。この人はゴミの人だってアリスお姉ちゃんが言ってたよ!」
「そうなの? ソノはてっきり新入りの人だと思ってた、なのー」
「じゃあ、ゴミの日は明日だから処分しないと、なのー」
そこにはスタンガンを持ち、オレンジ色と藤色の髪色をした黒スーツ姿の女の子が立っていた。
そして、自分は少しチビっていた。