意志 02
目が覚めた。ここは天国だろうか地獄だろうか、はたまた異世界だろうか。
異世界にしてはやけに近未来的な白い壁が一面に貼られている。もしや、SFなんだろうか、ミュータントに改造させられるのか。
なら、天国か地獄なのか。それにしては皮膚に温度を感じる。さっきまで感じてた空調の感覚にとても似ている。それに、自分のおでこに感じた。そう、あの背筋に悪寒が走る銃口を向けられた、あの恐怖……。
「起きましたか? ゴミ」
あぁ、自分は地獄に来ちまったのか。納得だ、銃口を向かられているんだから。
「おい、冗談もいい加減にしとけ。そいつは1回死んだんだぞ」
「いえ、冗談じゃないですよ。もう一発頭にぶち込むんですよ」
「お前なー。お前の能力無しに、もう1回生き返る訳じゃないんだから、それぐらいにしとけ」
「はい……。大輔さんがそう言うなら、やめますよ」
ーー撃たれなくてよかった。
死を再び免れた安堵は人生最大の幸運であり、救いである。手錠はされたものの自分は生きている。今はその喜びを全身で噛み締めなければならない。
そうだ、自分は生きているーーこの時、重大な事実に気づいてしまった。
ーーなんで、自分は生きているんだ?
至極単純な疑問にぶつかってしまった。
たしかに自分は頭にリボルバー銃をぶち込まれた。それも0距離からだ。普通の人間ならまず死んでるし、第一即死だ。
ーーでも、自分は生きている。
全く意味がわからない。なんで、生きているんだ……。呪い? 魔術? 禁書目録? 死者蘇生? それとも、サイボーグ? いや……エスパーだから?
自分が最後に考えたことに妙な昭和くささを感じながらも、自分に起こっている事態を理解できずに、ひどく困惑していた。
「随分、驚いているようだな。お前」
後藤大輔がサイダーを飲みながら、自分を心配してきた。それに対して自分は少し食い気味にこう答えた。
「そもそも、あなたのせいでこんな目にあっているんだ。そりゃ、困惑もしますよ。あなた達の目的は一体なんなんですか? こんなよくわからない研究施設みたいな所に閉じ込めて、おまけによくわからないスーツ姿の金髪美女に拳銃で頭ぶち抜かれてるんですよ。なのに、自分は生きている。そんなん理解できますか? おまけに」
自分が感じ、思っていることを全て言ってやろうと早口で支離滅裂なことを言って、ひたすら抗議した。
けれど……それは次の一言で消滅した。
「私の胸揉みましたよね?」
この言葉で、全てが相殺されてしまったのだ。
「はい、すみません……。それについては弁解の余地はないです。でも、あれは」
「あれとはなんですか? 教えてください」
「いえ、自分はゴミの身分なのでなんでもないです」
「わかればいいんですよ。わかれば」
自分の抗議がしようとしても、またリボルバー銃を向けられたせいか。何も言い返せなくなってしまった。
「まぁ、アリスそれぐらいにしといてやれ。本当はお前にちゃんと説明してから死んでもらう予定だったんだが、アリスが魔物のようになってしまってな。いや、あれは魔獣だな。冥界の番犬ケルベロスと言った所か。まぁ、とにかくすまない。上司として謝罪する」
「いや、謝罪されても困りますよ。生きてるんですから。どうしてこうなったのか説明してくださいよ」
その一言の後に、大きな銃声音と硝煙の匂いがした。あのとき撃たれたときに感じたーーそう、拳銃の硝煙の匂いだ。
その匂いのする後ろを振り返ることにした。撃ったのはやっぱりアリスだった。でも、自分はピンピンしている。
ーーじゃあ、どこに撃ったんだ。
恐る恐る前を振り返ることにした。そのとき自分は余りの衝撃にギャグ漫画みたいに大袈裟に驚いてしまった。
「ったくお前はな、すぐキレると銃で人を撃つ癖やめにしないか?」
そう言っているのは後藤大輔であり、自分と同じおでこに鉛弾をぶち込まれている。
いや、自分が驚いているのはそこではない。後藤大輔のおでこが黒色に変わり、弾が貫通せず、そのまま潰れた鉛弾は床に落ちていたからだ。