意志 01
こんな時でさえも、自分の考察癖が出てしまった。
ーー後藤大輔の意見を肯定する。
ーー後藤大輔の意見を否定する。
ーーはたまた、それ以外か。
この3択しかないのだけれど、肯定したら殺される。否定しても殺される。一見すると選択肢がないように思うかもしれない。
でも、チャンスはある。それは三番目のそれ以外であった。そう、否定もしなければ肯定もしなければ良い。なんだ、至極簡単なことじゃないか。
「自分みたいなゴミにはどちらかを選ぶ権限なんてありませんよ」
「ゴミのくせに理解力が高いじゃないですか。そうですよ、大輔さんも見習ってくださいよね」
「あぁー、わかったよ。俺が悪かった。この話は無しな」
「わかればいいんですよ。わかれば」
そうだ、こうなるに決まっている。
けれども、そんな淡い期待はこの後に一瞬にして砕かれた。
いきなり車が急ブレーキをして止まったのだ。交通事故か何かだろうか、この状況じゃわからない。
何せ気を失っていて目の前は真っ暗で、さっきまで着いていた明かりも消えている。
そして、妙に柔らかい物が自分の顔を包んでいる。手で掴んでみると丸くてマシュマロのように触り心地がよく、何日でも触っていられる感触だった。
自分の手にも収まりがよく、これほどまでに素晴らしいものはないとさえ言えるくらいだった。
でも、明かりがつき自分がしていたことの重大さを理解した。
ーーこれはアリスという人間の胸であったと。
「絶対に、ゴミを殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
アリスの目には正気がなく、レイプ目そのものだった。アリスは立て掛けてあったリボルバー銃を取り出すと何の躊躇もなく自分に発砲を開始した。
自分は必死に逃げようとしたが所詮輸送車だから大きさは狭く、いとも簡単に右足を打たれた。自分の恐怖におののく顔にさえも無表情なアリスはゴミを処分するように左手、左足を撃ってきた。
右手しか動かない自分を見て彼女は狂気に満ちた笑みを浮かべている。ついさっきまで、自分が天使と思っていた人物は実は悪魔だったのかーーそう思うと体の震えが止まらなかった。
「おい、さすがにやり過ぎだろ。アリス」
「大輔さん、殺らせてください!! これは女としての敵討ちです」
「待て、冷静になれアリス。おい、上条。これ口に加えてみろ」
ーーお前のせいでこうなっただろうがーー!!!!
と、今すぐこの場で叫びたかったが、おとなしく差し出されたリトマス紙のような青色の紙を口にくわえることにした。
後藤大輔はそれの色の変化を確かめると一言。
「あぁ、これなら大丈夫だ。お前の好きにしろ」
「ありがとうございます、大輔さん。射殺許可が出たので、これから頭に残りの弾薬を打ち込みます」
「わざわざ丁寧に言わんでいいわ。殺るな殺れよ」
「はい、では撃ちます」
アリスは自分のおでこにリボルバー銃を突きつけると全くためらわずに引き金を引いた。
そして、自分は絶命した。
上條功一 去年20歳 死亡理由 アリスに対するセクハラ行為。
完?