脳力と能力 03
上司の所に向かうとただ、こう言われた。
「お前に会いたい人がいるから、事務所に行け」
そう言われて、3つの選択肢を考えた。
ーー自分に対して説教をしたい人間がいて、これからそれを受ける。
ーー本当に自分に会いたい人間がいる。
ーークビの宣告。
どうせ、1か3だろう。こんな自分に会いたい人間がいるはずはない。でも、1か3だと気が重い。天涯孤独ではあったから3でも問題はないんだが、施設の子供達に買ってやるお菓子代が無くなるのが正直おしい。それに……。
「危ねーんだよ!! さっさと行けや」
先ほどの髭面先輩の怒号により、自分の自問自答は打ち消された。そして、鉛のように重い足取りを必死に引きずりながら自分は事務所(処刑場)に向かった。
クーラーの効いた事務所(処刑場)に向かうと、自分の指定席に胸板の張った黒スーツを着た長身短髪で黒髪の男が、銭湯のコーヒー牛乳のごとく、2Lのサイダーを片手で飲んでいる。
ーーなんなんだ、この人……。
1か3の選択肢ではなく、驚きと同じくらいの安堵が訪れたが、同時にこの人物が自分に何をしたいのか全く分からない恐怖に怯えていた。
ぼぉーと突っ立っている自分に気づいたのか、飲みかけの2Lサイダーの炭酸が抜けないようにわざわざ専用のキャップで栓をしてから、こっちにやって来た。
「お前が上條功一か?」
自分に対してそう聞いてきたので、少しためらいながらも「はい、そうですが……なんですか?」と正直に答えた。
その問いかけに対しても男は何も動じず、冷静な声色でこう言ってきた。
「俺はBPAの後藤大輔だ。お前の身柄を拘束しにやって来た」
思考回路が停止している無謀味な自分は手錠をされ、テレビニュースで見たようなフードを被せられた。
「ちょっ……ちょっと待ってください。自分が何をしたって言うんですか?」
やっと回復した思考回路が決断したことはーーまず、自分の身の潔白を証明する為に言語による反発をすることだった。
だが、それはこの相手には無駄だったようで。
「次、喋ったらお前の頭が吹き飛ぶぞ」
その言葉の通り、フードの中では絶賛拳銃突きつけの刑をくらい、自分は何も把握できないまま車で連行された。
ただ、今この状態で理解できることは自分に起きている状況がただ事ではないということだけだった。